野田サトル『ゴールデンカムイ』第9巻 チームシャッフルと思わぬ恋バナと
偽の刺青人皮を作り出した夕張の変態剥製人・江渡貝くんのおかげで一層混沌とした状況となった黄金争奪戦。杉元・土方・鶴見の三派の争いはいよいよエスカレート……と言いたいところですが、ここで何と杉元一味と土方一味が一時休戦、思わぬ呉越同舟の旅が始まることになります。
夕張炭鉱で三つ巴の大乱戦を繰り広げることとなった三派。鶴見の目的を追って江渡貝邸を訪れた杉元一味は、そこで土方一味と遭遇。すわ「不死身」と元「鬼の副長」の激突か!? と思いきや、ここでアシリパの腹の虫が時の氏神となり、偽物の人皮の見分け方を巡り、一時休戦を結ぶのでした。
と、そんなところに証拠隠滅のために第七師団が来襲、それは容易く蹴散らしたものの、偽人皮の見分け方は謎のまま。そこで見分けられる可能性のある男、月形の樺戸集治監に収監された熊岸長庵に会うため、一行は二手に分かれて出発することになります。
さて、ここでなんとメンバーがシャッフルされ、杉元・アシリパ・牛山・尾形組と、土方・永倉・家永・白石・キロランケ組に分かれることに。それぞれバランスが取れているような取れていないような、不思議な面子ですが……
さて、ここで思わぬキャラクターに光が当たることになります。それは白石由竹……物語の初期から杉元たちと行動を共にしながら、この巻に至ってようやく表紙をゲットした男であります。
ここで語られるのは白石の過去ですが、実はそれがこれから会いに行こうとしている熊岸絡みというのが面白い。
かつて熊岸と同じ監獄にいた白石。熊岸に書いてもらったシスターの(あまりにも微妙な)似顔絵を眺めているうちにシスターに恋してしまった彼は、彼女を求めて各地の監獄を転々とするうちに、いつしか脱獄王の異名を取ることになったのであります。
そしてついにシスターと出会った白石ですが、彼女は……って何話も使ってこんなオチか!? とひっくり返ること請け合いの展開。
その後に語られた土方と永倉の過去話――別れと再会に至る話が、土方が今に至るまで生きていた理由も相まって実にイイのですが、その辺りも全てが霞むインパクトであります。(しかし……)
さて、その一方で樺戸集治監近くのアイヌのコタンを訪れ、そこのアイヌに歓待を受ける杉元一行。しかし彼らの態度に不審を抱いたアシリパは思わぬ窮地に陥ることになります。そしてまたもや始まる大乱戦――
と、ここで何が起きたのか、そして杉元たちが誰と戦うのかは伏せますが、ここで描かれるのは、アシリパのことになると狂戦士モードになる杉元、もはやその強さは人間の域を超えてきた不敗の牛山、そして無敵のスナイパー・尾形と、戦闘力だけでみれば本作最強の三人の大暴れ。
特に杉元の暴れっぷりは、彼と長らく行動を共にしてきたアシリパですら引くほどの異常さで、これが後に影を落とさなければいいのですが……この巻の冒頭で比較的サラリと描かれるように、今やアシリパのために戦うと言って良い杉元だけに、気になるところであります。
と、ギャグにアクションにと相変わらず大車輪で展開しつつも、ラストに至り、一見単なるギャグエピソードに思えた白石の過去話に、全く思わぬ形で意味を与えてみせる辺り、勢いだけでない作者の筆の巧みさというものを感じさせるのです。
とはいえ、刺青人皮争奪戦には直接の動きなし……と言えなくもないこの巻。ラストでは土方への内通が杉元に露見することを恐れた白石(ここでも直前に描かれた杉元の狂戦士ぶりが白石の恐れに説得力を与える構成がうまい)の行動により、思わぬ方向に物語が転んでいくことを予感させて、次の巻に続きます。
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