« 2016年10月 | トップページ | 2016年12月 »

2016.11.30

野田サトル『ゴールデンカムイ』第9巻 チームシャッフルと思わぬ恋バナと

 偽の刺青人皮を作り出した夕張の変態剥製人・江渡貝くんのおかげで一層混沌とした状況となった黄金争奪戦。杉元・土方・鶴見の三派の争いはいよいよエスカレート……と言いたいところですが、ここで何と杉元一味と土方一味が一時休戦、思わぬ呉越同舟の旅が始まることになります。

 夕張炭鉱で三つ巴の大乱戦を繰り広げることとなった三派。鶴見の目的を追って江渡貝邸を訪れた杉元一味は、そこで土方一味と遭遇。すわ「不死身」と元「鬼の副長」の激突か!? と思いきや、ここでアシリパの腹の虫が時の氏神となり、偽物の人皮の見分け方を巡り、一時休戦を結ぶのでした。

 と、そんなところに証拠隠滅のために第七師団が来襲、それは容易く蹴散らしたものの、偽人皮の見分け方は謎のまま。そこで見分けられる可能性のある男、月形の樺戸集治監に収監された熊岸長庵に会うため、一行は二手に分かれて出発することになります。
 さて、ここでなんとメンバーがシャッフルされ、杉元・アシリパ・牛山・尾形組と、土方・永倉・家永・白石・キロランケ組に分かれることに。それぞれバランスが取れているような取れていないような、不思議な面子ですが……

 さて、ここで思わぬキャラクターに光が当たることになります。それは白石由竹……物語の初期から杉元たちと行動を共にしながら、この巻に至ってようやく表紙をゲットした男であります。

 ここで語られるのは白石の過去ですが、実はそれがこれから会いに行こうとしている熊岸絡みというのが面白い。
 かつて熊岸と同じ監獄にいた白石。熊岸に書いてもらったシスターの(あまりにも微妙な)似顔絵を眺めているうちにシスターに恋してしまった彼は、彼女を求めて各地の監獄を転々とするうちに、いつしか脱獄王の異名を取ることになったのであります。

 そしてついにシスターと出会った白石ですが、彼女は……って何話も使ってこんなオチか!? とひっくり返ること請け合いの展開。
 その後に語られた土方と永倉の過去話――別れと再会に至る話が、土方が今に至るまで生きていた理由も相まって実にイイのですが、その辺りも全てが霞むインパクトであります。(しかし……)

 さて、その一方で樺戸集治監近くのアイヌのコタンを訪れ、そこのアイヌに歓待を受ける杉元一行。しかし彼らの態度に不審を抱いたアシリパは思わぬ窮地に陥ることになります。そしてまたもや始まる大乱戦――
 と、ここで何が起きたのか、そして杉元たちが誰と戦うのかは伏せますが、ここで描かれるのは、アシリパのことになると狂戦士モードになる杉元、もはやその強さは人間の域を超えてきた不敗の牛山、そして無敵のスナイパー・尾形と、戦闘力だけでみれば本作最強の三人の大暴れ。

 特に杉元の暴れっぷりは、彼と長らく行動を共にしてきたアシリパですら引くほどの異常さで、これが後に影を落とさなければいいのですが……この巻の冒頭で比較的サラリと描かれるように、今やアシリパのために戦うと言って良い杉元だけに、気になるところであります。

 と、ギャグにアクションにと相変わらず大車輪で展開しつつも、ラストに至り、一見単なるギャグエピソードに思えた白石の過去話に、全く思わぬ形で意味を与えてみせる辺り、勢いだけでない作者の筆の巧みさというものを感じさせるのです。


 とはいえ、刺青人皮争奪戦には直接の動きなし……と言えなくもないこの巻。ラストでは土方への内通が杉元に露見することを恐れた白石(ここでも直前に描かれた杉元の狂戦士ぶりが白石の恐れに説得力を与える構成がうまい)の行動により、思わぬ方向に物語が転んでいくことを予感させて、次の巻に続きます。


『ゴールデンカムイ』第9巻(野田サトル 集英社ヤングジャンプコミックス) Amazon
ゴールデンカムイ 9 (ヤングジャンプコミックス)


関連記事
 『ゴールデンカムイ』第1巻 開幕、蝦夷地の黄金争奪戦!
 『ゴールデンカムイ』第2巻 アイヌの人々と強大な敵たちと
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第3巻 新たなる敵と古き妄執
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第4巻 彼らの狂気、彼らの人としての想い
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第5巻 マタギ、アイヌとともに立つ
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第6巻 殺人ホテルと宿場町の戦争と
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第7巻 不死の怪物とどこかで見たような男たちと
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第8巻 超弩級の変態が導く三派大混戦

| | トラックバック (0)

2016.11.29

松尾清貴『真田十勇士 4 信州戦争』 激闘上田城、そしてもう一つの決戦

 真田幸村と猿飛佐助ら勇士たちの戦いを「天下」と「人間」の関係を背景に描く本シリーズは、この巻から第二期がスタート。上田城に依って徳川軍を迎え撃つ真田家の戦いが描かれることとなりますが――しかし、その一方、物語の背後で暗躍してきたあの男の真の狙いがついに明らかになるのです。

 天下人秀吉の死をきっかけに表面化した、諸大名の勢力争い。それに乗じて次の天下人たらんとする家康に対し、真田昌幸・幸村親子は、天下ではなく上田の地――すなわち真田の「一所」を守るために、西軍につくことを選びます。
 関東と近江を結ぶ要衝である上田を目がけ押し寄せるのは、秀忠率いる約4万の徳川本隊。それを迎え撃つのは、わずか数千の真田軍……というわけで、いわゆる第二次上田合戦が、本作の一つのクライマックスとして展開することになります。

 幸村を支えるのは、猿飛佐助・霧隠才蔵をはじめとして、望月六郎、筧十蔵、穴山小助、根津甚八、そして新たに加わった三好清海・伊三兄弟。幸村の指揮の下、彼らが次々と奇策で大軍を翻弄していくのは痛快の一言、真田ものの楽しさの一つがここには間違いなくあります。

 もちろん、関ヶ原の戦の結果は史実と変わるところではないのですが、そこにこの上田城の戦が及ぼした影響を、本作ならではの「天下」という概念を踏まえて示してみせるのが実に面白い。
 史実の上では本隊が参加できなかったとはいえ大勝利を収めた家康ですが、しかし実は……という観点はあまりこれまで見たことのないもので、歴史ものとしての本作の独自性に改めて唸らされた次第です。


 しかしそれ以上に印象に残るのは、この戦の前後にそれぞれ描かれる佐助と才蔵の物語であります。その部分こそは本シリーズの独自性の最たるもの、奇怪な術策でもって「天下」を窺う怪人・百地三太夫にまつわる物語なのです。

 伊賀の乱で焼け出された才蔵を忍び狩りの走狗として操り、おぞましい荼枳尼天の法による奇怪な実験を行っていた三太夫。彼はさらには遙かな時の彼方から淀城に干渉して天下人として転生を目論み、佐助や海野六郎と死闘を繰り広げた、勇士たちにとってまさしく宿敵というべき存在です。

 本作の冒頭で語られるのは、その淀城での戦いで深手を負った後、上田城の戦で二人の入道とともに佐助が姿を現すまでの物語。戦の二年前、蓼科山で神隠しが相次いでいることを知った佐助は、真田忍びたちとともにその探索に向かうのですが……そこで彼が迷い込んだのは、空間が歪み、外に出ることが不可能となった結界の中でありました。

 長い間その結界の中で暮らしてきたという三好兄弟と出会い、この結界がかつて淀城で遭遇した、異界と現世を重ね合わせた世界だと気付く佐助。それほどのとてつもない術を操ることができるのは三太夫のみですが、しかし三太夫は何のためにこの結界を築き、そして人々を引きずり込んでいたのか――

 一方、本作のラストで描かれるのは、上田城の戦が終結した直後に行われたもう一つの決戦……戦の最中に姿を消した才蔵を追う幸村と勇士たちは、才蔵らを前に奇怪な儀式を行う三太夫を目の当たりにすることになります。そして空を無数の管狐が覆い尽くす中、いよいよ三太夫の真の狙いが明かされることになるのであります。

 その狙いとは……もちろんここでは詳細は伏せさせていただきますが、そのあまりのとんでもないスケールと内容にはただただ仰天、最近では珍しいくらいの直球の大伝奇には感動すら覚えるほどです。
 が、そのとんでもない内容が、しかし同時に、家康とは別の意味で――しかしその根底で密接に絡み合い、重なり合う形で――「天下」という本シリーズのキーワードと重なってくるのを何と評すべきか。

 これまで物語の随所で描かれてきたピースの一つ一つ(それにはもちろん上に述べた本作冒頭の佐助の物語も含まれるのですが)の意味が解き明かされ、次々と嵌まっていき、一つの巨大な絵、すなわち三太夫の「天下」という名の野望を描き出していくのはただただ圧巻、本作で幾度か使われたフレーズが、もう一度より恐るべき形で使われるのにも、痺れるほかないのであります。


 真田と天下の戦が終結した後に、もう一つ繰り広げられる真田と天下の戦――絶望的な状況の先に待つものは何か、今一番面白い時代伝奇小説といっても過言ではありません。


『真田十勇士 4 信州戦争』(松尾清貴 理論社) Amazon
真田十勇士〈4〉信州戦争


関連記事
 松尾清貴『真田十勇士 1 忍術使い』(その一) 容赦なき勇士たちの過去
 松尾清貴『真田十勇士 1 忍術使い』(その二) 人間を、自分を勝ち取るための戦い
 松尾清貴『真田十勇士 2 淀城の怪』 伝奇活劇の果ての人間性回復
 松尾清貴『真田十勇士 3 天下人の死』 開戦、天下vs真田!
 松尾清貴『真田十勇士 5 九度山小景』 寄る辺なき者たちと小さな希望と

| | トラックバック (0)

2016.11.28

小松エメル『総司の夢』 鬼と人の間にある夢

 大の新選組ファンとして知られ、これまでも『蘭学塾幻幽堂青春記』で新選組が大きな要素として描き、そして何よりも無名隊士を主人公とした『夢の燈影 新選組無名録』で大きな反響を呼んできた小松エメル。本作は、そんな作者が満を持して放つ長編――あの沖田総司の生涯を描いた物語であります。

 その副題の如く、数ある新選組隊士たちの中でも、確かに実在したにもかかわらず、ほとんど知られぬ隊士たちを主人公とした『夢の燈影』。それに比べ、本作の主人公は有名も有名、新選組と言われればすぐに名前の挙がる人物であります。
 その意味では本作は全く趣向の異なるように感じられるかもしれませんが、しかし本作は単に同じ世界観の物語というだけでなく、歴史の隙間にもがく等身大の隊士を描く点において、前作に通じるものを持つ作品です。

 幼い頃に試衛館に引き取られ、剣士として頭角を現した総司。近藤・土方・井上・山南・永倉・原田・藤堂・斎藤……彼らと共に剣を磨き、賑やかに青春を過ごしてきた総司にですが、そこに浪士組結成の報がもたらされます。敬愛する近藤が、試衛館の仲間たちが、今こそと腕を撫して立ち上がる中、総司は主義思想には関係なく、ただ仲間たちと剣を振るうために加わることを選ぶのでした。

 そして浪士隊結成から清河八郎の離反、新選組結成と、次々と状況が変化する中、総司たちの周囲で、何者かによって脱走者をはじめとして幾人もが斬殺される事件が続発。そんな中、総司は「鬼」を思わせる目をした男・芹沢鴨に興味を抱きます。
 しかし芹沢の中の「鬼」を理解しきる前に彼は粛正の刃に倒れ、近藤たちの組織として動き始める新選組。池田屋事件、禁門の変、山南の切腹、伊東一派の分裂……一番隊隊長として目まぐるしく奔走する総司は、人を次々と屠っていく「鬼」の正体に近づいていくのですが――


 いかにも新選組ファンの作者らしく、主人公たる総司をはじめ、ここに登場する有名隊士たちのほとんどは、初めて見るのに馴染みがあるという、我々が彼らに抱くイメージに忠実な人物像であり、その意味で非常にキャッチーな作品ではあります。
 しかしそれは、彼らが、そして本作の物語が、ファンフィクションとして類型に留まるということでは、もちろん決してありません。本作で描かれるのは、あくまでも本作ならではの、作者ならではの世界であり、そしてそれを代表するのが、言うまでもなく総司なのであります。

 「夢」をタイトルに冠する本作。しかし本作の総司は、「夢」というものを見ない青年として描かれます……二重の意味で。
 夜の眠りにおいて夢も見ず、ただ空虚の中に眠る総司。そんな彼は同時に、未来の希望としての夢もなく、ただ空虚の中に生きているのであります。

 もちろん、彼には命を賭ける剣があります。共に生きる仲間たちがいます。しかし彼にとってはそれだけ……いや、それさえあれば良かった。彼が刃を向ける志士たち、いや肩を並べる仲間たちのように、この時代を生きるための主義主張が、彼にはないのです。

 実は総司という人物は、フィクションの中で空虚な人物として描かれることが少なくありません。どんな時もニコニコとしながら躊躇いもなく人を斬る。ただ近藤に、土方に命じられるままに人を斬る。佐幕や勤王という思想性もなく――
 これは総司が持つピュアなイメージの裏返しというべきものかと思いますが、今はそれは置いておくとして、本作の総司は、こうしたイメージそのままのようでいて、しかし大きく異なる形で描き出されます。

 京で剣を振るい様々な相手を斬る中で、「鬼」を求め追う中で、そしてかけがえのない人々を喪う中で……空虚であった彼の中に、生まれていくもの。それは時に足かせとなり、重石となるものであり、しかし同時に人が鬼ではなく、人であるために背負うべきもの――そう、「夢」なのであります。

 自分には夢がないと知りつつ、それを良しとして生きる。それはひどく虚しいようでいて、しかし青春を生きる者、生きた者にとって、どこか馴染み深い感覚でしょう。そしてそこから人間として成長する中で、得た夢の重みによろめき、苦しむこともまた。
 本作は沖田総司という希代の剣士、新選組という時代の徒花を描きつつも、普遍的な青春の姿を描く作品であり……その苦さは、切なくもどこか好ましく感じられるのです。


 ちなみに、冒頭に述べたように本作は『夢の燈影』とは同じ世界観の物語。前作のあの時、総司はこう考えていたのか、と別の角度から物語を見ることができるのは実に面白く、ぜひ今後も見てみたい趣向であります。


『総司の夢』(小松エメル 講談社) Amazon
総司の夢


関連記事
 『夢の燈影』 影と光と、人間とヒーローと

| | トラックバック (0)

2016.11.27

ことだま屋本舗EXステージ『クロボーズ』を観て(聴いて?)きました

 本日YOKOHAMA O-SITEで上演された、ことだま屋本舗EXステージ『クロボーズ』を観てきました。いわゆるモーションコミックの声の生アフレコとでも言いましょうか、舞台上のスクリーンに映し出される漫画のコマの前で、出演者が声を当てるというなかなかユニークな舞台であります。

 この舞台の原作である『クロボーズ』については以前にもこのブログで紹介いたしましたが、現代の黒人ヘビー級ボクサー・ヤーボが突如戦国時代にタイムスリップ、「弥助」と名乗って織田信長に仕えるという奇想天外な作品であります。
 現在も連載中の本作は先日単行本第1巻が刊行されましたが、今回上演されたのはその第1巻に収録された8話+その後の1話分。タイムスリップしたヤーボが信長や秀吉と出会い、そして本能寺の変で……という辺りまでとなります。

 さて、この舞台の主役はもちろん「声」ですが、これがヤーボ役をはじめとして出演者が皆はまり役、基本的には皆声優の方で、恥ずかしながら私はこの方面には暗いのですが、しかしやはりプロの力というものに素直に感心しました。
(ただ一人、望月千代女役の平田裕香は声優ではありませんが、こちらも戦隊俳優の経験ありのためか、全く違和感なし)

 出演者は基本的に特別な格好(例えば演じるキャラクターの衣装)をしているわけでもなく、舞台上でマイクの前に向かっている状態、これはまことに失礼な表現ながら、一歩間違えるとスクリーンを見るのに邪魔になりかねないのですが、これが全く気にならなくなるのは、なかなか面白いことです。

 さて、出演者の中でもやはり前面に出てくるのは弥助役の前田剛と信長役の佐藤拓也ですが、前者は漫画をスラスラと読んでいると比較的流してしまいやすい弥助の感情の振幅を丹念に拾っているのに感心であります(そして周囲と言葉が通じていない序盤と、通じるようになったそれ以降でしゃべり方を変えているというのも面白い)。
 また後者は基本的に「格好いい信長さま」というラインに忠実なのですが、作中で歌われる二つの歌をきっちりこなしていて好印象でありました。

 しかし個人的に一番印象に残ったのは、実は前田利家でありました。作中では序盤と終盤に登場して弥助に絡むキャラクターで、それほど出番は多くないのですが、しかし弥助、そして秀吉と微妙な距離を取りつつも、しかしそれぞれに好意とも興味ともつかぬものを裏に感じさせるのが実にいい。
 この辺りはもちろん原作通りではありますが、しかし声の演技がつくことで、表に見えにくいひねくれ者の人間味がくっきりと浮かび上がるのは嬉しい発見でした。

 また、弥助の妹たちと、お市の三人の娘が同じキャストなのは、ドラマ的にうまい配役で……と、色々と感心させられた舞台でした。


 ただ時間的には通しで一時間弱で、それで9話分の内容というのは相当に駆け足にも感じられたのも事実ではあります。
 とはいえ、この辺りは内容的に原作に忠実にせざるを得ない(仮に映像化された際に補われるであろう部分がない)この舞台の性質を考えれば、ある意味仕方ないと言うべきかもしれませんが――

 また、これは厳しいことを言いますが、原作でもかなり細かいコマを大きなスクリーンで映すのは書き込み的に厳しく見えるところもあり(これはもともとそういう扱いのコマなのだから仕方ないと思います)、コマのチョイスなど、そもそものスタイルにはまだ詰めるべきところもあるようにも感じます。

 しかし試みとしては非常に面白く魅力的なものであることは事実ですし、ライブだからこその熱気と吸引力があったことはまた間違いない話であります。
 ラストの盛り上がりも相当なもので、私が観たのは昼の部だったのですが、これ、夜の部に行ったら続きが観られるのでは……などと思わず考えてしまったほどです。

 漫画のメディア化には色々なやり方があるかと思いますが、このような形もあったのか、と感心させられたこの舞台。ぜひまたいずれ……と感じた次第です。



関連記事
 たみ&富沢義彦『クロボーズ』第1巻 天国から地獄へ……現代の黒人ボクサー、「弥助」になる

| | トラックバック (0)

2016.11.26

夢枕獏『陰陽師 玉兎ノ巻』 30年目の物語、月の物語

 今年は陰陽師連載開始から30周年ということですが、本書はその第15弾目。晴明と博雅、時々道満や蝉丸の物語は、今日も変わることなく美しい世界を描き出しています。

 シリーズ第1作である『玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること』が発表されたのが1986年、単行本第一弾と第二弾の間にはかなり時間も空いてはいますが、それでも30年というのは大変な年月であります。
 本書の中では「いつまでも夏というわけにはいくまいよ」とドキリとさせられる台詞もありましたが、なんのなんの、晴明と博雅の冒険は今回も快調の一言であります。

 さて、本書のタイトルは「玉兎ノ巻」。玉兎といえば晴明が秘蔵していたという卜占の秘伝書「金烏玉兎集」が思い浮かびますが、そちらとは特に関係なく、作中に登場するキャラクターから取られたものでしょうか。
 収録されているのは『邪蛇狂い』『嫦娥の瓶』『道満月下に独酌す』『輪潜り観音』『魃の雨』『月盗人』『木犀月』『水化粧』『鬼瓢箪』と、いつもよりも少し多い全9編であります。

 その中で印象に残った作品を幾つか挙げれば、まず『輪潜り観音』でしょうか。没落貴族の娘で、男も通わなくなり洛外に暮らすこととなった女性が奇行を示すようになり、心配した侍女が晴明に相談を持ち込んでみれば……という物語であります。
 その奇行の果てに待つものは、というのが一種実話怪談的な味わいでゾッとさせられるのですが、しかし強く印象に残るのはラストの展開。晴明によって怪異の謎は解き明かされたものの、彼でもどうしようもない人の心。それを救ったのは……という、本シリーズのファンであれば誰もが納得し、にっこりとできるであろう展開が嬉しい作品です。

 もう一つ面白いのは『水化粧』。冒頭で「今昔物語集」などに登場する伝説の絵師・百済河成の逸話が語られたかと思えば、ある晩、泣き腫らした女と美男子の出会いという曰くありげな場面が描かれ、そこから全く異なる形で本編が展開していく……というなかなか凝った構成の作品であります。
 物語が進むにつれて、これらの要素の意味が明らかになっていくのも見事ですが、そこで描かれる怪異の正体がまた実に独創的であり、そしてそれでいて実にもの悲しいもので、本シリーズならではの味わいなのです。


 さて、本書には一つ隠された趣向があるように感じます。それは「月」にまつわる物語が数多く収録されていること――『嫦娥の瓶』『道満月下に独酌す』『月盗人』『木犀月』と、実に本書の半分を占めるのであります。

 もとより本シリーズは昼の日中よりも、夜の月の下で繰り広げられる物語が多い印象があります。これまでの作品の中でも、月を扱って印象深い作品が幾つもありました。
 まさか「30」周年故に「月」ということではないだろうとは思いますが、何はともあれこれだけ一冊に「月」の物語が集まればなかなかに壮観で、しかもまたそれぞれに切り口の異なる作品なのが面白いのです。

 月蝕の晩を舞台に不思議な物言う兎を描く『嫦娥の瓶』、題名通りにある月夜の晩の道満の姿を描く散文的な『道満月下に独酌す』、病身の男を癒やすために月夜に露を集める女を巡る奇譚『月盗人』、木犀が香る晩に晴明と博雅が出会った何ともすっぽ抜けた怪異『木犀月』。

 「月みれば千々にものこそ」云々というように、月をモチーフにこれだけ様々な物語が描かれるというのは、何とも楽しいものです。
 そしてまた、その中で天体としての月、神話上の存在としての月、人の心の中の概念としての月が入り乱れ、しかしそれらがすべて一つのものとして矛盾なく存在しているのは、実に本作らしい愛すべき世界観ではありませんか。


 さて、冒頭に述べたとおり、今回も変わることなく楽しい本書。かと思えば冒頭のいつものやり取りの中で、博雅の方が先にあの言葉を口にしたりと、長寿シリーズだからこその楽しさもあります。

 シチュエーション的に重なる物語もいくつかあったのは残念ではありますが、それでも安心して楽しめる一冊であることは間違いありません。


『陰陽師 玉兎ノ巻』(夢枕獏 文藝春秋) Amazon
陰陽師 玉兎ノ巻


関連記事
 全ては一つの命 「陰陽師 瘤取り晴明」
 「陰陽師 瀧夜叉姫」 晴明が晴明で、博雅が博雅である限り
 「陰陽師 首」 本当は恐ろしい…のに魅力的なおとぎ話
 「陰陽師 鉄輪」 絵物語で甦る代表作
 「陰陽師 夜光杯ノ巻」 変わらぬ二人の世界
 「陰陽師 天鼓ノ巻」 変わらぬからこその興趣
 「陰陽師 醍醐ノ巻」 居心地の良い怪異譚
 「陰陽師 酔月ノ巻」 変わらないようでいて変わり続けるということ
 「陰陽師 蒼猴ノ巻」 ルーチンワークと変化球と
 『陰陽師 螢火ノ巻』 なおも新しい魅力とともに

| | トラックバック (0)

2016.11.25

『仮面の忍者赤影』 第49話「人喰い植物ばびらん」

 魔風村を探すも手がかりなしの赤影たちの前に、強制労働から逃げ出してきた百姓たちが現れた。彼らに村まで案内させようとする赤影たちだが、下忍の襲撃による混乱の中、百姓たちは花粉道伯の操るバビランに食われてしまう。さらに赤影たちをバビランの森におびき寄せんとする道伯だが……

 魔風村という手がかりを得たにもかかわらず、場所を聞いておらず大弱りの赤影一行。その頃、件の村では雷丸が近隣の百姓を集めて強制労働をさせていたのですが、その中から必死に逃れた二人の百姓が、馬車で通りかかった爺さんを拝み倒し、荷台の藁の中に潜り込んで何とかやりすごします。

 と、坑道らしき場所で配下に檄を飛ばす雷丸の前に仰々しくトロッコで現れたのは、中近東風のマントに頭に金輪、鼻には金の鼻輪という怪人・花粉道伯。バビランの主である道伯に赤影抹殺の命を下した雷丸は、さらに身振りを交えて道伯に極意を伝えます。
 「おしべとめしべのまぜこぜ合わせ ラリロン、チララリロン、チラチララリロンチララリロン」それを聞いた道伯、雷丸のかぶったヘルメット(のつもりらしい金ダライ)を指でチーンと弾き、二人でにっこり。……なんなのこれ。絶対アドリブでしょこれ!

 という視聴者の動揺をよそに先ほどの百姓たちと出会い、嫌がるのを頼み込んで村へ案内してもらう赤影たちですが、途中で下忍の群れが出現。百姓たち(爺さんも巻き添えに)を逃がして赤影たちはその場に残ります。妙に身のこなしのいい爺さんを先頭に、木立の中に逃げ込む三人ですが、その前に不釣り合いな市女笠の女が現れます。命の危険も忘れてやに下がるおっさんたちに女は一輪の花を差し出しますが……笠の下の美しい顔には、しかし金の鼻輪が! 道伯が化けた女は花からバビランを出現させるのでした。
 そこにようやく駆けつけた三人ですが、バビランが吐き出す花粉による青緑色のバリアー・花粉膜で攻撃はおろか、先に進むこともできません。そうこうしている間に百姓たちは次々とバビランに捕らえられ、喰らわれることに……

 手がかりを失い犠牲も出しながらも、あきらめず探索を続ける赤影たちですが、そんな彼らの前で小川に流れ着いたのは、「たすけて」と書かれた笠の破片。次々と流れてくるそれを頼りに川の上流に向かう赤影ですが、それを流していたのは道伯でありました。道伯は一度市女笠の女に化けておいて(これでは逃げてきたにしては綺麗すぎると)さらに貧しい身なりの娘に化け直すなど、ノリノリで待ち受けます。
 そこにやってきた赤影たちは、唖を装う道伯娘に案内されて(青影のちょっと危険なネタがありましたが気にしない)進みますが娘が猛ダッシュ! 引き離された赤影たちがたどり着いたのは、マタンゴが出てきそうな謎の森であります。青影は「きっと魔法の森だ!」とか変なことを言い出しますが、そこに現れた道伯は正体を現し、白影の火炎放射攻撃をかわすとバビランを呼び出します。

 バビランの触手に真っ先に捕まり、食らわれてしまう青影。助け出そうとする赤影と白影ですが、またも花粉壁に阻まれてしまいます。が、必死にもがく青影の手が花粉を吐き出す管を掴み、それを引きちぎったことで壁が消えます。すかさず白影の火炎放射で燃え出すバビロンから青影は脱出、赤影は久々の問答無用の空中飛行から手首の銃連打の絨毯爆撃! 上空からの攻撃には打つ手なく、バビランとともに道伯は息絶えるのでした。


 微妙な手作り感もあるバビランの奇怪な存在感も印象に残りますが、何よりももう道伯が全て持って行った感のある今回。その変態ぶりは、その手のキャラの多い魔風忍群でもトップクラス。ビジュアルだけでも相当ですが、ルンルンで女に化けたりと(別の役者さんですが無駄に美人)、その言動もインパクト十分です。そしてそれを加速するのが雷丸。前述のおしべとめしべのまぜこぜ合わせは特撮史上に残るであろう怪シーンでした(しかも後で自分一人でもやってる)。


今回の怪忍者
花粉道伯

 マントに頭飾り、鼻輪と金を体中にあしらった、バビランを操る怪忍者。美女に化けるのも得意とする。雷丸とも大変に親しく、信頼されている様子。バビランで陽炎をさらい、さらに赤影たちの抹殺を狙うが、バビランもろとも倒された。

今回の怪忍獣
バビラン

 花粉道伯が操る巨大な食肉植物。移動はできないが小さな花に姿を変えて持ち運ばれ、巨大化すれば触手で相手を捕まえ、体内に取り込んでしまう。無敵の防御力を持つ花粉壁で赤影たちの攻撃を阻むが、取り込まれた青影に花粉の管を千切られ、赤影の空からの猛攻で力尽きた。


『仮面の忍者赤影』Vol.2(TOEI COMPANY,LTD BDソフト) Amazon
仮面の忍者 赤影 Blu‐ray BOX VOL.2<完> (初回生産限定) [Blu-ray]


関連記事
 『仮面の忍者赤影』 放映リスト&キャラクター紹介

| | トラックバック (0)

2016.11.24

玉井雪雄『怨ノ介 Fの佩刀人』第1巻 復讐鬼と刀剣女子の死闘旅……?

 『ケダマメ』で異形の歴史譚を描いた玉井雪雄の新作は、これもまたこれまで見たことのないような奇怪な時代活劇。全てを奪われた男が、人の命を食らって我が物とする美しき妖刀の化身に導かれて繰り広げる復讐絵巻……では終わらない、何ともユニークな味わいの物語であります。

 とある破れ寺で死にかけていた一人の老人の前に現れた僧侶。激しい恨みを背負ったその老人に興味を持った僧侶は、その過去を問います。
 実はその老人は、かつて越前楠野藩十万国の藩主だった男。しかし六十年前に親友と信じていた男・多々羅玄地に裏切られて国を追われ、全てを失って放浪することとなった彼は、今力尽きて死にかけていたのであります。

 その告白に抱えた恨みの深さを認め、何と己が手にした刀で自らを刺し、刀を老人に押しつけて逝く僧侶。
 その刀こそは、屠った者の命を奪い、己の寿命にするという魔刀・不破刀、そしてその力によって若返った老人――怨ノ介は、己を新しい主と認めた不破刀の化身である美しい魔女とともに、復讐の旅に出……ない。

 己が若返ったことに有頂天になった怨ノ介。彼はなんと不破刀を質に入れると、その金で己の失われた青春を取り戻すかのように食いまくり抱きまくるという放蕩三昧の暮らしを送るのですが――
 しかしもちろんそれで済むはずはありません。不破刀での若返りは短時間のこと、その効果が切れれば彼は元の老人であり、それを避けるためには誰かを不破刀で斬らなければならないのであります。

 いかに自分の若さのためとはいえ、無辜の民を斬るわけにはいかないとためらう怨ノ介。それならばと魔女が提案したのは、不破刀と同じ冥府魔刀――怨念によって磨かれた魔刀に憑かれ、殺人を繰り返す者を斬ってその命を奪うこと。
 かくて再び不破刀を手にした怨ノ介は、冥府魔刀とその持ち主を屠りつつ、怨敵・多々羅玄地を追う旅に出ることに――


 という第1話の展開に全てが凝縮されている本作。刀剣男子ならぬ刀剣女子とともに、他の魔刀(それにしても「冥府魔刀」というネーミングが素晴らしい)を倒して相手の生命力を奪うという基本ラインはシリアスなのですが、全体的に漂うどこかすっとぼけたおかしみとのギャップが、何ともユニークな作品であります。

 何しろ怨ノ介自身、ハードな過去を背負っているわりに、殿様育ちと言うべきか、どこか人が良くて甘ちゃんなキャラクター。何よりも剣の腕はからっきしという、この手の物語では致命的な欠点を抱えているのですが、そこでのたうち回りながら何とか窮地を脱していく姿が、何とも人間臭くて楽しいのです。

(と言っても、幕府から謀反の疑いをかけられてお取り潰しになりかねないから取りあえず身を隠せと玄地に言われて素直に従ってしまうのは真剣にどうかと思いますが……)

 そんな彼の相棒となる不破刀の化身も、美女というより美少女のような外見とは裏腹の血にまみれた魔刀という本性をあまり感じさせぬ天真爛漫さがおかしい。
 特に他の冥府魔刀を倒した後の処理など、怨ノ介ならずともそれでいいのか、とツッコみたくなるところで、そんな浮き世離れした二人の旅路は、むしろ微笑ましさすら感じさせます。


 ……が、その一方で、彼らが出会う冥府魔刀の来歴と、それに取り憑かれた人々の物語はどこまでもハードかつ凄惨の一言。
 戦乱や飢饉といった時代の歪み、身分の壁など社会の歪みに押し潰されて狂った人と刀の姿は、作者一流の画力でもって、どこまでも生々しくおぞましく、そしてやるせなく描き出されるのです。

 もちろん主人公サイドも(それだけの過去を背負っているわけであり)このトーンに染めて描くことは可能であろう……というより普通の作品ではそうするだろうと思われるのですが、しかしそれを敢えて避けてみせたのは、本作の工夫と言うべきでしょう。

 あまりにも血腥く、救いのない人々が描かれる物語の中でも、不思議な明るさとなりふり構わない生き方を見せる怨ノ介の姿は――たとえ彼を待つのが同様の末路だとしても――人間の持つ一つの強さとして感じられるのですから……


『怨ノ介 Fの佩刀人』第1巻(玉井雪雄 リイド社SPコミックス) Amazon
怨ノ介 Fの佩刀人 1 (SPコミックス)

| | トラックバック (0)

2016.11.23

北森サイ『ホカヒビト』第1巻 少年と女薬師が行く世界、見る世界

 江戸から明治へと移り変わる時代、飢饉に苦しむ村々を背景に、不思議な目を持つ少年・エンジュと、旅の女薬師・コタカの旅を描く物語の始まりであります。

 行き倒れた母の胎内から、山姥のように暮らす老婆・オバゴによって取り出され、彼女に育てられたエンジュ。彼には、生まれつき常人には見えぬもの――いわゆるあやかしや、この世ならざる存在――を見ることができる目を持っていました。
 しかしエンジュのその力ゆえに、そして山の中で村の人々から離れて暮らすがゆえに、二人は村人たちからは忌避され、差別されてきたのであります。

 そんな中、彼らの住む地方を襲う飢饉。飢饉に苦しむあまり、それが二人のせいだと決めつけた村人たちに襲われたオバゴとエンジュは、逃れる途中、医術と武術に長けた若き薬師・コタカと出会います。
 コタカの助けを得た二人ですが、オバゴがエンジュを庇って斃れ、天涯孤独となったエンジュはコタカと旅立つことに……


 と、物語の始まりから非常に重い展開の本作。人ならざる力を持つ主人公を描く時代ものは、えてしてその力ゆえに主人公は忌避の対象となるものですが、本作においては舞台が舞台だけに、そして主人公がまだ年端もいかぬ少年だけに、一層胸に刺さるものがあります。

 その一方で印象に残るのは、細やかで端正な筆致で描かれる、エンジュとコタカの旅する世界の姿であります。
 基本的に常人であるコタカと、不思議な目を持つエンジュと……同じ世界を前にしながらも、見えるものは異なる二人。その二人の目に映るものを、本作は巧みに描き出すのです。

 特に印象に残るのは、旅に出たばかりの二人が出会う「常世茸」のエピソードであります。

 人間を含めた動物に取り付いて繁殖し、胞子が爆ぜる(その時宿主は死ぬ)まで、宿主に常世の夢を見せるという常世茸。
 文章にすればおぞましく、おそろしいのですが、絵で描かれたそれは、不気味でありつつも、どこか蠱惑的に感じられるのであり(ちょっと白川まり奈の絵を連想)、そして何よりも、不思議な存在感を感じさせるのです。

 そしてまた、クライマックスにおいて常世茸の世界に捉えられてしまったエンジュを救うためにコタカが向かった世界で出会ったある人物の存在と、そしてエンジュの目に映った(コタカの目とは異なって見える)その人物の姿が、実にいいのです。


 とはいえ、やはり基本的な物語はどうにも暗い……というより悲惨なのは、仕方ないとはいえ、どうにもやりきれないものが残ります。
 この舞台、この設定であれば当然というべきなのかもしれませんが、当然のものをいくら見せられても……と、そのやりきれなさを抜きにしても感じてしまうというのも正直なところであります。

 もっとも、本作の物語は、エンジュとコタカの旅は始まったばかりであります。二人の旅がどこに向かうのか……そして二人がそこで何を見るのか(そして二人の見るものが重なるのか)。
 その点は、もちろん気になるところです。

 「ホカヒビト」の「ホカヒ(ホカイ)」とは、神を、人々を祝福することの意であり、すなわち「ホカヒビト」は「祝福して歩く者」を意味します(獅子舞や万歳など同様、一種の祝福芸能者とも)。
 果たして二人がホカヒビトなのか、だとすれば彼らが祝福する相手は誰か、そして彼ら自身に祝福は与えられるのか……それを見届けたいと思います。


『ホカヒビト』第1巻(北森サイ 講談社モーニングKC) Amazon
ホカヒビト(1) (モーニング KC)

| | トラックバック (0)

2016.11.22

『コミック乱ツインズ』2016年12月号(その二)

 『乱ツインズ』12月号の掲載作品紹介の後半であります。図らずも原作ものが続きます。

『仕掛人 藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 前回は休載のため二ヶ月ぶりの本作は「秋風二人旅」の後編であります。
 大仕事の後にあてもない旅に出た梅安と彦次郎ですが、途中でかつて妻を惨殺した男を見かけ、仇を討つべく逸る彦次郎。しかしとてもそのような凶行を行うようには見えぬ相手の姿に慎重に探りを入れた梅安は、京で出会った白子屋菊右衛門から、思わぬ仕事を受けることに……

 というわけで、因果と因縁が回り回って、彦次郎の妻の仇に仕掛けることとなった梅安と彦次郎。しかし標的は無頼に堕ちたとはいえ剣の達人……というわけでダーティーな相手にはダーティーな策で挑む二人の姿が面白いのですが、やはり印象に残ったのはその後。
 ついに仇を討った彦さんの姿は、この作画者ならではの画という印象で、まだ荒削りな印象もあるものの、作画者独自の色が出てきたのは評価できるところです。

 ちなみにこのエピソード、何度も映像化された上に原作者自身の脚本による舞台化、そしてさいとう・たかをによる漫画化と幾度となくヴィジュアル化されているのですが、そのそれぞれでラストなど微妙に異なる解釈になっているようで、なかなか興味深いところです。
(本作はその辺りをすっぱりと切って、上記の彦さんの姿に繋げているのも面白い)


『エイトドッグス 忍法八犬伝』(山口譲司&山田風太郎)
 前回、半蔵屋敷への小文吾の捨て身の突撃により、「八人の犬士対八人のくノ一」の形でついに始まった忍法(?)合戦も、いよいよ第二番目に突入と言うべきでしょうか。巨犬・八房に導かれた村雨姫が出会ったのは犬坂毛野……今は盗賊団を率いる鋭い美貌の青年であります。

 いわば無頼の極みとも言うべき毛野ですが、村雨姫の純な瞳の前に命を投げ出すことを快諾、いやモブ盗賊の皆さんまでもとんでもない(いや、山風忍法帖は大体においてそうですがビジュアルで見ると本当にとんでもない)手段で協力することに――
 この辺りの描写はこの作画者ならではなのですが、ここから毛野が大暴れ。こんなに強いのならば一気に全員抜きするのでは? と思わされたところで、次回に続きます。


池波正太郎時代劇スペシャル『元禄一刀流』(山本康人)
 池波正太郎の作品を様々な作家が漫画化する好企画、今回は山本康人が忠臣蔵ものの名品を漫画化。ともに堀内源太左衛門の門下であり、熱い絆に結ばれていた赤穂浪士の一人・奥田孫太夫と、最期まで吉良上野介に仕えた清水一学が、悲しい運命に翻弄される姿を描き出します。

 当時の江戸でも名門として知られ、堀部又兵衛も入門していた堀内道場。そこで剣を振るう孫太夫と一学は、親子ほども年は離れながらも、互いに深い敬意を抱き、交流を続ける仲でありました。特に百姓の出ながら上野介に拾われ、名実ともに武士となるために筆舌に尽くしがたい苦労を重ねた一学にとって、孫太夫は理想像そのものだったのです。

 しかし松の廊下の刃傷が二人の運命を一変させることとなります。敵味方に分かれただけでなく、孫太夫が討ち入り前から英雄扱いなのに比して、卑怯者の家臣として道場の仲間からも嘲笑される一学。しかしそれでも一学は、孫太夫に一目会うために道場に通います。そしてついに出会った二人ですが……

 原作ももちろん名作と言うほかないのですが、しかしそれ以上に作画者の筆力に圧倒される今回。落ち着いた老成ぶりと希望に満ちた溌剌さと、対照的ながらもそれぞれに武士として、いや人としての好ましさを体現するような二人が、悲しみを呑んで別れ、そして刀を手に対峙する――
 そこに至るまでの二人の心理描写が胸を打つだけに、クライマックスの対決シーンの凄まじさが、一層哀しくも凄まじく感じられるのです。

 ただ一つ、漫画という形式の場合、原作の師匠の視点からという構成はあまり有効に機能していない印象もある(狂言回し的に見えてしまう)のは少しだけ残念でしたが……


 次号は大島やすいちによる鬼平が掲載というのにも色々な意味で驚かされますが、特別読切として速水螺旋人が登場というのも凄い。この辺りの誰が登場するかわからない作家陣の豊富さも、この雑誌の大きな魅力であります。


『コミック乱ツインズ』2016年12月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2016年 12月号 [雑誌]


関連記事
 『コミック乱ツインズ』2016年11月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』2016年11月号(その二)

| | トラックバック (0)

2016.11.21

『コミック乱ツインズ』2016年12月号(その一)

 これまで毎号紹介していた『戦国武将列伝』誌は隔月刊でしたが、この『乱ツインズ』誌は月刊。一つの号を紹介したと思えば、すぐまた次の号の発売となるのですが、もちろんそれは望むところ。今回も、印象に残った作品を一つずつ紹介したいと思います。

『勘定吟味役異聞 破斬』(かどたひろし&上田秀人)
 今回表紙&巻頭カラーを飾った本作もいよいよクライマックス目前。前回は吉原で紀伊国屋文左衛門と対面、その人間力の前に戦わずして敗れ、(上田作品ではおなじみの)師匠の説教で辛うじて踏みとどまった聡四郎ですが……今回はある意味それ以上の「強敵」との対決であります。

 突然押し掛けてくるブラック上司・新井白石のプレッシャーもあり、何とか不正の糸口を探そうと江戸市中を探索して回る聡四郎。深川堤防の検分に向かった彼は、偶然ヒロインの紅と出会うのですが、どうも彼女の様子がおかしく……というわけで、聡四郎は、彼が吉原に行ったことにこだわる彼女の扱いに手を焼くことになります。

 原作でも絵に描いたようなツンデレヒロインだった紅ですが、それはもちろんこの漫画版でも同じ。いや、様々なタイプの美女を描き出す(ちなみに前回登場した花魁も非常に美しかったのです)作画者の筆致により、よりキュートに感じられますし、その紅と聡四郎のやり取りも、何というか実にカワイらしいのであります。

 物語の方はその紅が敵の手に落ち、聡四郎激怒……ということで次回に続きますが、あと数回で完結でしょうか。


『怨ノ介 Fの佩刀人』(玉井雪雄)
 単行本第1巻がつい先日発売された本作(近々に紹介します)、津軽に潜むという仇敵・多々羅玄地までもう少しというところまで来た怨ノ介ですが、今回彼の前に現れるのは倦雲を名乗る天パーで庄内弁訛りの大男。
 なかなか憎めない印象のこの倦雲ですが、しかしその実、火付け盗賊殺人なんでもありの一味に加わって大暴れ――それもその一味に刃を向けて皆殺しにしてしまう――してきた大罪人。
 冥府魔刀を帯びながらもそれに憑かれぬ恐るべき気力と、これまでの敵以上の実力を持つ彼は、自分を殺せる相手を求め、そのために殺人もためらわない悪党たちに身を投じていたのであります。

 となると当然話の流れ的に、怨ノ介との対決に……ならないのが本作らしい。強敵を前にした怨ノ介のビビりと、倦雲のアバウトさがすれ違って(ある意味噛み合って)深刻なのにすっとぼけた展開になるのがイイのです。
 その一方で、共に世に無用の者という共通点を持つ二人の共通点にスポットを当てた構図も巧みの一言。

 ラストの何ともユーモラスな絵面も楽しく、殺伐とした展開の多い本作の中で、ホッとさせられるエピソードでした。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 『戦国武将列伝』誌からの移籍組である本作、戦国劇画専門誌から時代劇画誌に移籍したから……というわけでもないと思いますが、今回の舞台は江戸の吉原。その吉原のある妓楼では心中が続発、それもまるで何かに喰われたように血だまりだけを残す謎の心中事件で――

 というわけで、本作の読者であればある程度展開は予測できるかもしれませんが、印象に残るのは、登場する花魁たちの内面も含めた描写。美しくも憂いと棘、そして狂気を感じさせる彼女たちの姿は、これはもう作者の独壇場というほかありません。

 思わぬコスプレ(?)を見せた鬼切丸の少年が、既に御伽草子によって人口に膾炙しているという一種メタな描写も面白いのですが、鬼と少年の存在が思わぬ救いとなる結末の皮肉さも巧みなところです。


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 新世代の武将として力を見せつけ、輝かしい一歩を踏み出した政宗を襲う思いも寄らぬ窮地。父・伊達輝宗が畠山義継に拉致されて……と、移籍早々、大変な展開となった本作

 この後どうなるかは、戦国ファンであればもちろんご存じかと思いますが、作者の他の歴史四コマ同様、ギャグを重ねつつも、描くべきものは真っ正面から描く本作だけに、「その時」も容赦なく描き出されることになります。
 が、結果は有名でも過程は不明な点も多いこの事件、こう来たか! と大いに唸らされる解釈もまた、本作らしいところであります。


 長くなりますので次回に続きます。


『コミック乱ツインズ』2016年12月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2016年 12月号 [雑誌]


関連記事
 『コミック乱ツインズ』2016年11月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』2016年11月号(その二)

| | トラックバック (0)

2016.11.20

12月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 いよいよ2016年も残すところあと一ヶ月。まだ少々気が早いですが、今年もあっという間の一年だった、という印象です。しかし私のような人間にとっては、最後の最後まで面白い作品が発表されるかが気になるもの。というわけで、2016年最後の、12月の時代伝奇アイテム発売スケジュールです。

 さて、忙しい年の瀬ということもあり、発売点数も少ないのでは……と思っていたところですが、12月はかなりの充実ぶり。

 文庫新刊で注目は、何と言っても作者初の文庫書き下ろし時代小説という菊地秀行『宿場鬼』。タイトルからは作者らしさを感じますが、さて……
 また、森川楓子『国芳猫草紙 おひなとおこま』、諸星崇『猫忍』上下巻と、猫ネタ時代小説が続くのが面白い。もう一作、立花水馬『世直し! 河童大明神』も、『虫封じマス』の作者の作品だけに気になります。

 そしてシリーズものの新刊では、山本巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 千両富くじ、根津の夢』、上田秀人『百万石の留守居役 8 参勤』、高橋由太『もののけ本所深川事件帖 オサキと江戸のおまんじゅう』、廣嶋玲子『妖怪の子預かります 3 妖たちの四季』とバラエティに富んだラインナップ。
 さらに復刊・文庫化は、鈴木英治『備中高松城目付異聞 湖上の舞』、京極夏彦『書楼弔堂 破暁』、高井忍『蜃気楼の王国』、垣根涼介『光秀の定理』、北方謙三『岳飛伝 2 飛流の章』と、これも必見の作品揃いであります。

 一方、漫画の初登場作品で注目は、やはり朝日曼耀&富沢義彦『戦国新撰組』第1巻。11月に黒人ボクサーを戦国に送った原作者が、今度は新撰組を戦国に送るという、ありそうでなかった作品であります。
 また、『豊饒のヒダルガミ』のちさかあやが、富樫倫太郎の人気シリーズを漫画化した『早雲の軍配者』第1巻、10年の時を経て復活したゲームが題材の片山陽介『仁王 金色の侍』第1巻も気になります。

 そしてシリーズの続巻は、山口貴由『衛府の七忍』第3巻、吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第4巻、梶川卓郎『信長のシェフ』第17巻、鎌谷悠希『ぶっしのぶっしん 鎌倉半分仏師録』第5巻、『ThunderboltFantasy 東離劍遊紀』第2巻(佐久間結衣&虚淵玄(ニトロプラス) 講談社モーニングKC)と、これも個性的な作品が並びます。

 復刊の方では、11月に単行本未収録作品を収録した第1巻に続く波津彬子『幻想綺帖』の第2巻が登場。この巻は一冊丸々、岡本綺堂の『玉藻の前』であります。また、実写映画のキャストも発表された沙村広明『無限の住人』は、新装版も第10巻・第11巻と順調に刊行が続きます。



| | トラックバック (0)

2016.11.19

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第3巻 ついに登場、初めての仲間……?

 母と弟妹を殺し、妹・禰豆子を鬼に変えた仇を追い、鬼を滅ぼす鬼殺隊の一員となった少年・竈門炭治郎の戦いを描く本作も、順調に巻を重ねて第3巻。急展開が続く中、禰豆子の助けを除けば孤独に鬼と戦ってきた彼にも、ついに仲間が……?

 家族の仇を討ち禰豆子を人に戻すために鬼殺隊入りを望んだ炭治郎。以来、厳しい修行と命がけの最終試験、初仕事を終えたと思えば仇である鬼舞辻無惨との遭遇、そして人を喰わぬ鬼・珠世たちとの出会いと、目まぐるしい展開が続いてきました。
 珠世と彼女と共に行動する愈史郎から、禰豆子を人に戻せる可能性があると聞いた炭治郎ですが、そこに無惨から送り込まれた二人組の刺客が――

 というわけでこの巻の前半で展開されるのは、炭治郎&禰豆子と、無惨の刺客・矢琶羽&朱紗丸との激突。張り付いた物体に運動エネルギーを与える奇怪な矢印を操る矢琶羽と、鬼の肉体をも一撃で破壊する強力な鞠を投じる朱紗丸……絡め手から来る相手と、強力な破壊力を持つ相手のコンビというのは、バトルものとしては定番ですが、本作においても特に矢琶羽のビジュアルに映える能力vsそれに対する炭治郎の無茶なアクションなどかなり面白く展開となっております。

 そして戦いの中で受けた傷を癒す間もなく、次の任務を与えられた炭治郎が向かった先で出会ったのは、女性にストーカーまがいの迫り方をする度を超した軟弱者の少年・吾妻善逸。ほとんど最低クラスの(再)登場を果たした彼は、炭治郎とは同期の鬼殺隊士でありました。
 兎にも角にも善逸と二人、任務の地に向かった炭治郎の前に現れたのは、人を引きずり込む奇怪な屋敷。鼓の音が響くたびに次々と様相を変えるその屋敷に潜む者は――


 というわけで、ついに登場した炭治郎の仲間(?)。最終試練で生き延びたのは炭治郎だけではなく、いずれも一癖もありそうなキャラが幾人か顔を見せていましたが、その一人がついに登場であります。
 バトルものではやはり主人公だけなく、頼もしい仲間の存在が大きな魅力なのですが……しかしこの善逸、少なくとも「頼もしさ」という点では大きな疑問符がつくのが実に面白い。

 上で述べたとおり、登場シーンからして桁外れの軟弱ぶりを見せる善逸ですが、その後も期待(?)に違わぬ面白キャラぶりを連発。
 一緒に屋敷に引きずり込まれた少年をして善逸ほど「頭の悪い人間に会ったことがない」と思わしめるエキセントリックさは、一歩間違えれば(いや既に?)鬱陶しくなりかねないのですが、彼の場合はギリギリで個性として踏みとどまっているのが面白いのであります。

 それでいて、鬼の襲撃を受けた際など、自分より弱い存在、人が大事だと思う存在は何とかして守ろうという点は好ましく、また炭治郎が常人離れした嗅覚を持つのに対し、善逸は聴覚が優れるという対比もユニークに感じられます。

 そしてさらに秘密が……というところまで来ると盛りすぎのようにも思いますが、それを感じさせないのは、作者のある種の手際の良さでしょう。
 実際のところ、本作の登場人物は、ある種類型的に見えて、それぞれどこかでエッジが立っているのが面白いのですが、その人物造形の妙は健在と言えるでしょうか。

 もちろん、炭治郎も負けてはいません。屋敷に潜む鼓の鬼を相手に見せる彼の根性と前向きさもまた、明らかに度を超しているという点で強烈な個性を感じさせます。
 そしてもう一つ、炭治郎にとってさらに重要な個性である、その「優しさ」も健在なのが嬉しいのです。

 これまでも、鬼の犠牲になった人間に対してのみならず、自分たちに倒されるしかなかった敵に対してすら、一種の優しさを見せてきた炭治郎。
 人を殺し、喰らう鬼を許すわけにはいかない。しかし、それぞれの過去を背負い生きる者として、一種の尊重と敬意を見せる……そんな彼の姿は、鬼たちが奇怪であればあるほど、凶悪であればあるほど、得難い「強さ」として感じられます。

 これはおそらくは鬼殺隊の中でも、鬼を妹に持つ彼だけが感じる情かもしれません。いつかはそれが彼を窮地に陥れるかもしれません。それでも……それでも、本作のような(さじ加減の巧さでそうとあまり感じさせないのですが)殺伐とした物語世界において、彼の存在は大きな救いとして感じられるのです。

 とはいえ、力を持って対さなくてはいけない相手もいる。この巻の引きでは、またわけのわからないほど強大な敵と相対する炭治郎ですが……さて。


『鬼滅の刃』第3巻(吾峠呼世晴 集英社少年ジャンプコミックス) Amazon
鬼滅の刃 3 (ジャンプコミックス)


関連記事
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第1巻 残酷に挑む少年の刃
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第2巻 バディであり弱点であり戦う理由である者

| | トラックバック (0)

2016.11.18

『仮面の忍者赤影』 第48話「こども忍者術くらべ」

 息子の鬼丸に忍術の稽古をつけていた最中、雷丸から赤影抹殺を命じられる引導坊。雷丸に人質に取られそうになった鬼丸は下忍を蹴散らして逃げ出し、飛騨に帰される途中の青影と対決する。激しい(?)忍法合戦の末に和解する少年二人。一方、赤影・白影と激しい戦いを繰り広げる引導坊だが……

 自分の子供である鬼丸に激しい稽古をつける男やもめの忍者・引導坊。さすがにまだまだ自分に及ばないものの、才能の片鱗を見せる息子に満足気であります。と、そこに現れたのは巨大な雷丸の幻影。魔風十三忍にその人ありと言われた(自称)引導坊に、赤影たちとの対決を命じます。腕を撫して対決に臨もうとする引導坊ですが、その前に鬼丸に一目会っておきたいという望みは、魔風の掟として鬼丸を人質として預かるという雷丸に撥ね除けられます。やむなく引導坊は得意の忍法ろくろ杖で金剛杖をどこまでも伸ばすと、その上を走り去るのでした。
 その頃、引導坊と引き離された鬼丸は、自分を人質にすると現れた下忍たちを一掃。父の助けとなるべく、赤影たちがいるという阿弥陀ヶ池に走ります。

 一方、富士を望む水辺でのんびりとした時間を過ごす赤影一行。久々に姉と再会した青影は、赤影さんと結婚すればいいのにと姉をからかい、陽炎もそれに赤面したりと可愛らしいじゃれ合いであります。それを微笑ましく見ていた赤影と白影ですが、赤影はこれからの決戦に向けて、二人を飛騨の国に帰すと語るのでした。
 その言葉通り、飛騨に帰されることになって憤懣やるかたない青影ですが、そこに現れたのは鬼丸。挑戦してくる鬼丸を鼻で笑う青影、ここに忍術合戦の始まりであります。

 突然背景が青く変わったと思えば、大蟇に変化する鬼丸と、それを受けて怪竜に変身する青影。取っ組み合いという名のプチ怪竜大決戦は青影が勝利しますが、今度は鬼丸が見上げるほど巨大化をしてみせます。驚いた青影が、今度は小さくなってよと言うとこれに応えて小さくなる鬼丸……が、青影はこれを捕まえて壺の中に放り込み、散々振り回すというこちらが鬼のようなファイトであります。
 今度は父親譲りのろくろ杖を振り回す鬼丸ですが、勢い余って崖から転落。それを青影の鎖が救い、陽炎と二人で引っ張り上げます。優しい二人の言葉に鬼丸も納得、二人のこども忍者はがっちりと握手を交わすのでした。

 さて、引導坊は下忍とともに、焚き火をしていた赤影と白影を襲撃。不意打ちにあっけなく倒されたと思いきや、もちろん変わり身の術でこれを躱し下忍を一掃、引導坊と二人の戦いになります。自在に間合いを変えるろくろ杖に苦戦しながらも赤影の太刀が引導坊を追い詰め、たまらずろくろ杖の上を走って逃げる引導坊ですが、白影の射撃が杖をへし折り、引導坊は捕らえられるのでした。
 ここで赤影に迫られ、あっさりと雷丸の居所を白状してしまうのはどうかと思いましたら、これが彼の罠。案内した先の富士の風穴に入った赤影と白影を待ち受けていたのは充満する硫黄の煙、閉じ込められて脱出もできず、意識を失う二人ですが――

 そこに駆けつけたのは鬼丸と青影。鬼丸に雷丸こそ悪い奴だ! と言われた引導坊は改心して扉を開け、二人は救出されるのでした。
 が、その頃外に一人残された陽炎に迫る怪しい影。突然そこに現れた巨大な花の触手が伸び、彼女を捕らえたのであります。助けを求める彼女の声に飛び出してきた一行の助けも間に合わず、陽炎と花は姿を消すのでした。

 雷丸と袂を分かつ引導坊から、雷丸の本当の居場所は伊豆山中の魔風村と聞かされ、三人は伊豆に向かうことに――


 前回をはじめ、かなり重い話の続いた魔風篇ですが、今回はいそうでいなかった敵方の少年忍者と青影の対決ということで、かなり明るいムード。しかしそこには、以前口無水乃を苦しめた人質という雷丸のやり口があります。
 年端もいかぬ子供同士が、それぞれの家族のために戦うというのは、一歩間違えれば相当重い話だったのだなあ……と思わないでもありません。


今回の怪忍者
引導坊

 自在に金剛杖を伸縮する忍法ろくろ杖の遣い手。飛騨侵攻には加わらず、鬼丸の育成に力を注いでいたが、雷丸に命じられ赤影たちと対決。一騎打ちでは敗れたが、罠に誘い込んであわやというところまで追い込んだ。

鬼丸
 引導坊の愛する一人息子。少年ながら変身、巨大化・縮小化、父譲りのろくろ杖と様々な術を操り、下忍たちも敵わない腕前。父のために陽炎を襲い、青影と戦いになるが、命を救われて意気投合。引導坊を改心させるきっかけとなった。


『仮面の忍者赤影』Vol.2(TOEI COMPANY,LTD BDソフト) Amazon
仮面の忍者 赤影 Blu‐ray BOX VOL.2<完> (初回生産限定) [Blu-ray]


関連記事
 『仮面の忍者赤影』 放映リスト&キャラクター紹介

| | トラックバック (0)

2016.11.17

上田秀人『武士の職分 江戸役人物語』 「ある日の役人たち」の物語

 これまで、他の作家があまり取りあげなかったような、徳川幕府で様々な職分を担う人々――すなわち役人を主人公としたエンターテイメントを次々と発表してきた作者が、その職分そのものについて描いた、四話からなる短編集であります。

 このブログでもこれまでほとんど全ての作品を紹介してきた上田作品。しかし気付いてみれば、初期の作品と戦国ものを除けば、ほとんど全ての作品で、タイトルに役職名が冠されていることに気付きます。
 そう、作者の作品は、もちろんその物語そのものの面白さが最大の魅力であることは言うまでもありませんが、それと同時に、主人公の役職とその業務のユニークさもまた、大きな魅力でありました。

 本書はそんな作者が、四つの職分――御番医師、奥右筆、目付、小納戸を題材とした短編集。
 それぞれ、御番医師は『表御番医師診療禄』、奥右筆は言うまでもなく『奥右筆秘帳』、目付は『目付鷹垣隼人正裏録』、小納戸(月代御髪係)は『お髷番承り候』と、過去の作品で主人公が勤めた役職ばかりであります。

 上田作品は、主人公がこれらの役職を勤める中で幕閣の、そして将軍の権力を巡る暗闘に巻き込まれて……というスタイルが基本ですが、本書で描かれるのは、「ある日の○○」とでも言うべき、彼ら役人たちの本来業務の姿。
 もちろん物語としての起承転結はありますが、あくまでも彼ら役人が、本来の職分の中で出会う出来事とその対処、あるいは職分の心構え(年長者が教え諭すという定番のスタイル)といったものが主体であります。

 その意味では、派手な剣戟も、伝奇仕立ての大がかりな謎もありませんが、もちろん本作はそれが主体ではありません。
 主人公も、(同じ版元故か)『表御番医師診療禄』に登場する矢切良衛のほかは、本書のみの登場人物であり、あくまでも等身大の役人物語といった趣向であります(もっとも、小納戸の主人公は、柳沢保明という後の超大物ですが)。


 とはいえ、単純に教科書的な内容で終わらないのは作者ならではですし、その他にも御広敷用人や留守居役など他の作品でおなじみの役職が登場したり、江戸城天守閣の炎上に言及されたりと、上田ファンにとってはニヤリとできる趣向も多い本書。
 最終話のラストは『表御番医師診療録』のオープニングを飾ったあの事件が語られ、一種の円環構造となるのも心憎いところであります。

 上田作品の、江戸ものの時代小説の副読本として、肩が凝らずに楽しめる一冊です。

『武士の職分 江戸役人物語』(上田秀人 角川文庫) Amazon
武士の職分 江戸役人物語 (角川文庫)

| | トラックバック (0)

2016.11.16

室井大資&岩明均『レイリ』第1巻・第2巻 死にたがり少女と武田の未来と

 あの『寄生獣』『ヒストリエ』の作者、歴史ファンにとっては『雪の峠・剣の舞』の作者である岩明均が原作を担当するということで注目を集める本作。戦国時代の甲斐を舞台に、苛烈な生き様を送る一人の少女の姿を描いて強烈なインパクトを残す作品であります。

 長篠の戦から4年後の天正7年(1579年)、今川家にその人ありと知られ、今は武田勝頼に仕える岡部丹波守の城で、雑兵たちを相手の賭試合で凄まじい剣を振るう少女・レイリ。
 彼女は長篠の戦の後、敗走する丹波守を追う落ち武者狩りに両親と弟を目前で惨殺され、自らも狼藉に遭うところを丹波守に救われた過去を持っていました。

 以来、丹波守の下で憑かれたように武術を学び、今や並みの男では及びもつかぬ腕前となったレイリ。そんなレイリの腕を見た勝頼の側近・土屋爽三は、彼女に賭け試合を持ちかけます。
 片手で剣を振るいながらも、レイリを歯牙にもかけぬ力を見せた彼は、丹波守から彼女を貰い受けるのですが――


 ここまでが第2巻の冒頭ですが、とにかく圧倒されるのは、レイリの異常、と言ってもよいほどのキャラクターであります。

 まだ年若くも尋常でない戦闘力を持つ少女というのは、時代漫画においても決して珍しい存在ではありません。
 しかしレイリのキャラクターを特徴付けるのは、彼女の身につけた強さが自分自身のため――自分の目的や、あるいは自分が生き延びるためのものなどではなく、ただ戦って戦って戦い抜いて、その中で死ぬためという点なのです。

 上で述べたとおり、目の前で家族を無残に殺された過去(この辺り、原作者の『剣の舞』を連想)を持つレイリ。その過去が、そしてそこで生き延びたという一種の罪悪感が、彼女をして「死にたがり」というべき性格に変えたのですが……そこに至るまでの過程、そして彼女の心中の描写の凄惨さたるや!
 特に彼女が見る夢のおぞましさは、なるほど、時に人間を動いている肉塊と捉えるような突き抜けた描写を見せる――しかしそれと同時に、人間性というものに深い理解を持つ――原作者ならでは、と思うべきでしょうか。

 ちなみにその一方で、レイリと周囲の人間(特に彼女の主となる者)とのやりとりの中に、すっとぼけたおかしみがあるのは、これは作画者に由来するところでしょうか。


 それはさておき、ただ生前の家族の願いをなぞるように生き、自分自身の夢や希望を持たない――すなわち、自分というものを持たない死にたがりの彼女に与えられた任務が、まさしく自分以外の誰かとなり、その誰かのために死ぬというのは、これは皮肉と言うべきでしょうか。
 そう、彼女の任とは影武者……ある人物の影武者となることだったのであります。

 この人物というのがまた、なるほど面白いところを突いてきたな、と言いたくなるようなユニークで、そしてフィクションで描く余地のある人物なのは、歴史ものとしての本作の面白さでしょう。
(ちなみに惣三が片手での刀の扱いを得意とするというのも、ニヤリとできるところ)

 そしてこの年代でこの設定であれば、ある程度その行き着く先は予想できる気もしますが、果たしてその歴史の陰で――武田家の未来において、「名もない」存在であるレイリがどのような運命を辿ることとなるのか。
 その中で、レイリが自分自身の生を見つけて欲しい……そう願いたくなる物語のスタートであります。


 と、一つだけ気になってしまうのは、本作の物語の展開スピード。内容的に丁寧に描くべき物語であることはわかりますが、かなり遅いのでは……という印象はあります。
 本作は第1巻・第2巻同時発売でしたが、それが正解……というより、第1巻だけでは何の作品かわからない、というのが正直なところで、そこだけは残念に感じた次第です。


『レイリ』(室井大資&岩明均 秋田書店少年チャンピオン・コミックス・エクストラ) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon
レイリ(1)(少年チャンピオン・コミックス・エクストラ)レイリ(2)(少年チャンピオン・コミックス・エクストラ)

| | トラックバック (0)

2016.11.15

塩島れい『ぶっこん 明治不可視議モノ語り』 時代の流れの中の物の価値、人の価値

 時は明治初期、剣術道場の一人娘・あやりは、父が死に、叔父に家財を奪われて途方に暮れていたところに、修繕屋の少年・天助と出会う。物に宿る魂=物魂と語り、その物の傷を治す能力を持つ天助に、あやりは折られてしまった父の刀の修復を依頼するのだが――

 これが作者のデビュー作となる本作、明治時代を舞台に、人と物の関わりをユニークな形で描くファンタジーの快作です。

 タイトルの「ぶっこん」とは「物魂」――すなわち物に宿る魂の意。
 物に魂が宿るといえば、付喪神が連想されますが、本作の物魂は、一般的な付喪神とは違って年古りた物が別のものに変化するのではなく、あくまでも宿る魂の方が主体なのが面白いところです。

 そして主人公の少年・天助は、生まれつきこの物魂を見て、言葉を交わすことができる能力の持ち主。いやそれだけでなく、本体が傷ついて同様に傷ついた物魂を癒やすことにより、本体の傷を癒やすことまでもが出来るという能力を持つ彼は、東京の片隅で修繕屋として一人暮らしているのであります。

 そんな彼がある日出会ったのは、ほとんど行き倒れ同然の少女・あやり。剣術の名門の出でありながら、叔父に道場を奪われ、父の形見の刀のみを手に飛び出した彼女を取りあえず店に連れ帰り、自らの力を見せた天助は、あやりから叔父を討つために手助けして欲しいと訴えかけられるのですが――


 そんな第1話に始まり、全4話構成の本作は、いずれも天助とあやりを中心に、物魂の宿った物と、人の交流が描かれることとなります。
 「LaLa」という掲載誌ゆえか(?)二人で様々な事件に挑む中、あやりは徐々に天助を意識するようになって(その一方で天助の方はまったく鈍感で)……というのも楽しく、微笑ましくもちょっとイイ話、という読後感も非常に良い作品でした。
(ただ、悪役の描写が類型的に感じられたのは少々残念ではありますが、これはデビュー作ということで)

 特に印象に残ったのは、もちろん物魂の存在。その設定のユニークさについては既に述べたとおりですが、設定的にもドラマ的にも感心させられるのは、この物魂のビジュアルが、それを持っていた人間の姿を写したものとなる点であります。
 人間が物に愛着を持ったが故に生まれた魂であれば、それは当然のことかもしれませんが、しかし絵的に、かつての持ち主――ある意味必然的に、既にこの世にいない人物なのですが――が、その物の魂として現れるのは実に美しい。

 そしてさらに面白いのは、それはあくまでも姿だけであって、パーソナリティーはまた別な点。これを活かし、ある青年の許嫁が使っていた簪の物魂が起こす騒動を描いた第3話は、そのややこしさと美しさを巧みに生かした好編でした。


 さらにまた、個人的に嬉しいのは、本作が明治時代という舞台設定をきっちりと活かし、必然性を持たせている点であります。
 明治時代、それも初期は、政治・社会・文化とあらゆる面で巨大なパラダイムシフトが発生した時期。当然それは、そこに生きる人々が手にしてきた物にも、大きな影響を与えることになります。

 あやりの手から形見の刀を奪いかけた廃刀令しかり、人々に敬愛された仏像が一転ただの木の塊として打ち捨てられた廃仏毀釈しかり。時代の流れは、人と物の関係すら、容赦なく変え、そしてその中で取り残された物は、その魂を顧みられることなく、ガラクタとして処分されていく――
 それは歴史の中では、ある意味当然の流れであるかもしれません。しかし本作は、本作の主人公二人は、そんな流れにはっきりと異を唱え、ガラクタの存在を肯定し、それを直し、守ろうとします。

 それはもちろん、彼らが物魂の存在を知る故であるかもしれませんが……同時にそこにあるのは、巨大な時代の流れの中では同様に無視されてしまいかねない、人が一人の人間であることの価値、人間性の力強い肯定に繋がることは間違いありません。
 それが何とも嬉しく、そして好ましいのであります。


 作者は元々歴史ファンの様子、次回作も大正時代を舞台としているようですが、これからも本作のように、舞台となる時代の姿を踏まえた物語を描いてくれるのではないかと期待します。
 今後が楽しみな作家がまた一人増えました。


『ぶっこん 明治不可視議モノ語り』(塩島れい 白泉社花とゆめコミックス) Amazon
ぶっこん~明治不可視議モノ語り~ (花とゆめCOMICS)

| | トラックバック (0)

2016.11.14

たみ&富沢義彦『クロボーズ』第1巻 天国から地獄へ……現代の黒人ボクサー、「弥助」になる

 連載開始以来二回ほど取り上げて、後は単行本刊行時のお楽しみ(?)のために取っていた、たみ&富沢義彦『クロボーズ』第1巻が発売されました。現代の黒人ボクサーが、何と織田信長の時代にタイムスリップ、信長に仕えた実在の人物として活躍するという、驚天動地の物語の始まりであります。

 貧しい中から這い上がり、愛する妹たちの目の前で、ついにボクシングヘビー級のタイトルを掴んだヤーボ・モートン。しかし一瞬意識が遠のいた彼が次の瞬間にいたのは、見慣れぬ格好の兵士たちが殺し合う戦場でした。
 そこで宣教師ヴァリニャーノと出会ったヤーボは、自分がいる場所が四百年前の日本の戦国時代と知ります。そこでヴァリニャーノから信長に引き合わされ、やむを得ず信長に仕えることとなったヤーボ。信長はそんな彼に「弥助」という名を与えて――


 フィクションの世界では、いかに信長が現代人のタイムスリップを引き寄せる機会が多くとも、その中でも本作の意外性は随一といって良いでしょう。もちろん、タイムスリップするのがヘビー級ボクサーというのも意外ですが、その彼が「弥助」に「なる」のが実に面白いのであります。
 というのも弥助は確かに実在した人物。天正9年に信長に謁見したヴァリニャーノが連れていた「黒坊主」として『信長公記』に描かれ、以降、様々な文書にその存在が記されている人物なのであります。

 戦国時代に黒人というのは確かに嘘のような本当の話で、時代伝奇ものの世界でも「弥助」はなかなかの人気者。ブードゥー教の妖術師であったり、アレキサンダー大王の剣を持ってきたり、五条河原でドラマーとして演奏したり――
 と、いささか極端な例ばかりではありますが、しかしそれが現代のボクサーというのは、さすがに空前絶後であります(現代の野球選手という例はありますが……)


 しかし本作は、その題材の意外性のみに寄りかかった作品ではありません。本作で描かれるのは、信長麾下に加わり、その無双の豪腕で並み居る敵(その中には、腕試しを仕掛けてきた前田利家や、信長暗殺を狙う望月千代女までもが!)を吹き飛ばすヤーボの活躍だけではありません。
 何よりも本作の基調をなすのは、彼が異なる時代、異なる世界にやってきて抱く違和感と望郷の念といった内心の葛藤なのですから。

 この辺り、上記のとおり弥助が記録に現れるのが天正9年という信長の最晩年である(すなわち、最前線にはほとんど出ていない)ことも関係しているかもしれません。
 しかし、苦労に苦労を重ねて這い上がった頂点、天国からいきなり異境の地獄――年端もいかぬ子供すら武器を構える世界――に突き落とされたとあらば、その心中を描くのはむしろ当然でしょう。

 そして、その地獄で彼が見つけた思わぬ蜘蛛の糸――それはなんと信長その人という展開が実に面白い。信長がある折りに口にした歌……それは明らかにこの時代にあるはずのない異国の歌、それもかつてヤーボが妹たちに歌っていたものなのですから……! 
 果たして信長はいかにしてこの歌を知ったのか。その謎を信長が語る時、あるいはヤーボの旅も終わるのかもしれません。

 そしてもう一人、ヤーボと近くに接し、そして同様に信長あってこその人生を送ってきた人物がいます。それは羽柴秀吉――物語の当初からヤーボに何くれとなく世話を焼き、彼のこの時代で唯一の友となった彼女にとっても、信長の存在はあまりにも大きいことは言うまでもないでしょう。

 ――彼女? そう、実は本作の秀吉は女という設定。それも単純に性別が逆転しているだけでなく、性は女だが心は男(つまり史実通り女好き)というありそうでなかった設定であります。
 果たしてこのあまりに特異な秀吉像がいかにこの先の物語に影響を与えるのか……こればかりは全く予想がつきません。


 しかし、二人に、信長に、残された時は多くありません。この巻のラストではあの本能寺の変が勃発。いまにも本能寺の炎の中に信長は消えんとしているのであります(そしてそこに登場したある人物にまた仰天!)。

 史実では本能寺の変の直後までしか記録が残されていない「弥助」。方や、その後の快進撃は歴史が示すところである秀吉。
 果たしてこの物語がどこまで描かれるのかはわかりませんが、少なくとも本作においては、この事件が二人にとっては史実以上の大きな意味を持つことは間違いないでしょう。

 果たしてヤーボを待つ「未来」は……この先の展開が否応なしに気になるヒキの第1巻なのであります。


『クロボーズ』第1巻(たみ&富沢義彦 アース・スターコミックス) Amazon
クロボーズ(1) (アース・スターコミックス)


関連サイト
 公開サイト

| | トラックバック (0)

2016.11.13

作品集成を更新しました

 このブログをはじめとして、私が運営しているサイトで取りあげた作品データを掲載しているデータベース「作品集成」を更新しました。なんと昨年9月分から本年10月分までと、実に一年以上更新をサボっていたため、大変な分量になってしまいました。作成に当たっては、今回も、EKAKIN'S SCRIBBLE PAGE様の私本管理Plusを利用させていただいております。
 なお、これまでデータを置いていた@niftyのホームページサービスが終了するため、サーバーを引っ越しました。そのため、アドレスが変更になっております。また、ページのデザインや機能を一部簡略化しておりますが、とりあえず移行期間ということでご容赦いただければと思います。

| | トラックバック (0)

2016.11.12

和月伸宏『明日郎前科アリ るろうに剣心・異聞』前編 過去から踏み出した少年たち

 『るろうに剣心』の「世界」が帰ってきました。「ジャンプSQ」12月号に前後編の前編が掲載された本作、剣心が活躍したのとほぼ同じ時代、同じ場所で、新たに少年少女が繰り広げる冒険譚であります。

 物語の始まりは、小菅集治監の前から……そこから出所した少年二人が出会うことから始まります。二人のうち、見るからに軽そうな洋装の少年は、密航の罪で三ヶ月収監された井上阿爛。目つきが鋭く凶暴な少年は、食い逃げで五年(!)収監されていた長谷川悪太郎――

 同い年ではあるものの、何から何まで違う二人の共通点は、行く宛も、食べるものもないこと。何となく行動をともにすることになった二人は、評判の牛鍋屋の裏口で残飯を漁ろうとして失敗、はぐれ者の吹き溜まりのような集落に迷い込むのですが、そこに現れたのは旭と名乗る一人の少女でありました。

 悪太郎の出所を待っていたという旭。彼女は、かつて悪太郎と同じ一団に属していました。五年前、この日本を奪おうとした賊、今では政府からその存在を抹消された「言禁の首魁」の下に集った賊に。
 そして旭が悪太郎を待っていた理由は、彼が持ち出したという「言禁の首魁」にまつわる「御宝」を求めてだったのですが――


 というわけで、「赤べこ」(しかも宝塚バージョン)、「落人郡」、そして国盗りを狙った賊の首魁の……と(あと「うふふ」と笑う笠かぶった幽霊と)、剣心ファンであればニヤニヤが止まらない本作。その多くは遠景としての登場ですが、予告以来、本作を心待ちにしていた人間としては嬉しいサービスであります。
 そしてその中で決して遠景には留まらないのが、あの男の存在。五年前に剣心に倒され、その本拠も爆散したにも関わらず、今なお随所に影響を及ぼしているのは、彼らしいというべきでしょうか。

 しかし本作の面白いところは、主人公二人が、そんな存在とは(少なくとも悪太郎は)無縁とは言わないまでも、ほとんど全く縛られていない点でしょう。
 かつてその存在が多くの人間(もしかすると作者自身も含めて)の心を捕らえ、そして本作においてもいまだその影響の下に置いているあの男。その男を全く畏れず有り難がらず、自分自身の生を生きようとする二人の姿は、むしろ痛快ですらあります。

 思えば『るろうに剣心』という作品は、過去に縛られてきた男が現在を守り、未来に向かって歩み始める物語でありました。それから考えると本作は、良きにつけ悪しきにつけ、既に一歩も二歩も踏み出した物語であるように感じられます。

 もちろんそれは、二人が過去から完全に自由であることを意味しないでしょう。二人がこの前編の終盤で手にしたもの……その存在は、好むと好まざるとに関わらず、過去から続く因縁に二人を巻き込むことは間違いありません。
 そしてそもそも、彼らにもそれぞれ背負う過去があることもまた、間違いないのですから。

 そして感心させられるのは、そのそれぞれの過去の存在を、食べ物に対する態度を通じて描き出すことであります。残飯を喰らうことも全く躊躇わない悪太郎と、そんな彼を涙ながらに止めようとする阿爛と……その対照的な姿は、さほど多くないページ数の中でも強く印象に残ります。

 そしてこの阿爛の行動がまた、作者が、作者の作品が持つ本質的にポジティブさを強く感じさせてくれるのも、ファンとしても涙が出そうなほど嬉しいのです。


 さて、波乱の予感を残しつつ後編に続く本作。果たして二人は過去から逃れ、現在を、未来を掴むことができるのか。
 そのタイトルを見れば、それはある程度予想できる……というのは意地悪な見方かもしれませんが、それを上回るものを見せてくれるに違いないと期待しているところであります。


『明日郎前科アリ るろうに剣心・異聞』前編(和月伸宏 「ジャンプSQ」12月号掲載) Amazon
ジャンプSQ.(ジャンプスクエア) 2016年 12 月号 [雑誌]

| | トラックバック (0)

2016.11.11

『仮面の忍者赤影』 第47話「魔風堂の怪獣」

 飛騨から本拠地である甲信に撤退することを考える雷丸。魔風堂に赤影たちをおびき寄せるべく、捕らえた猿彦に化けた犬彦は赤影たちに情報を流す。その情報通りに魔風堂に向かった赤影と白影だが、犬彦に騙された白影が捕らえられてしまう。観念しかけた赤影の前に、猿彦が現れた……

 黄金の仮面は再び雷丸の手に渡ったものの、陽炎が帰ってきて大喜びの赤影たち。一方、雷丸は影一族の本拠である飛騨での戦いの不利を悟り、魔風の本拠である甲州・信州への帰還を決意するのでした。魔風はこちらの出身だったのか、というのはさておき、単に撤退するだけでは、影一族の黄金の在り処はわからぬまま。雷丸はそこで赤影たちをおびき寄せる策を巡らせるのですが――

 前回、青影とともに留守番をしていたと思ったらいつの間にか行方不明になっていた猿彦。彼は捕らえられ、無残にもリンチを受けて吊るされていたのですが、犬彦がその猿彦に化けて赤影たちの前に現れます。
 いや、あの頬のイボは、そして前回青影に見破られた匂いはと思いきや、イボは取り外し自由だったらしく、また匂いもそれなりに対処していたのでしょう。いずれにせよ、偽猿彦の犬彦は、赤影たちに雷丸が魔風堂に向かうという情報を流し、自分は一足先に行っていると姿を消すのでした。

 さて、赤影と白影は魔風堂へ向かい、青影は陽炎を守って留守番となりましたが、その頃、崖に吊されていた猿彦の見張りをしていたのは足切主水。前回陽炎を奪還されたのを散々犬彦に詰られたのを根に持って、ザバミを呼び出して猿彦に泡を吹きかけさせるという陰湿な仕返しをしてから姿を消します。(その後、猿彦の匂いを感じ取った陽炎に連れられた青影によって助け出される猿彦)
 双子ゆえ感覚が繋がっており、猿彦が泡で窒息すると犬彦も……というわけで苦しんでいるところに合流した赤影と白影は、草原にいきなり立っているトルコ風屋根の堂である魔風堂に向かうのですが――

 堂の中では、これまでに亡くなった魔風忍者の慰霊祭の真っ最中。その隙に潜入した一向、赤影と白影・偽猿彦が別行動を取ったところで、正体を現した犬彦に白影が捕らえられてしまいます。そうとは知らず堂の雷丸の前に参上し、黄金の仮面を奪取した赤影ですが、犬彦に捕らえられた白影を見て形勢逆転。犬彦を殺せば猿彦も死ぬと知り、赤影は仮面を手放し、武装解除に応じようとするのですが……そこに本物の猿彦が現れます。
 既に満身創痍の猿彦は、何と自らに刀を突き立て、苦しむ犬彦にトドメの一刀。腹心であった犬彦を失った雷丸は、仮面を置いて撤退を命じます。しかし猿彦も無事で済むわけがありません。崩れ落ちた猿彦は、最もウマがあっていた白影に対し、青影ちゃんによろしくな、と最後の言葉を伝えて逝くのでした。

 猿彦の死に、誓いも新たに仮面を手にした赤影ですが、突然激しく堂が揺れ始めます。主水操るザバミの襲撃に、堂から飛び出そうとする赤影と白影(ここで死んだはずの猿彦が立ち上がるという謎の演出)。しかし間に合わず堂は破壊され、二人はその下敷きとなって仮面も落としてしまいます。さらにザバミの巨大な鋏につまみ上げられる赤影――
 苦しみながらもザバミを操る術者の存在を悟った赤影は、仮面のスコープモードで透明になっていた主水を発見。「忍法流れ星!」のかけ声とともに必殺光線を放ち、主水を倒すと、ザバミもスッと姿を消すのでした。

 駆けつけた青影と陽炎に、猿彦の死を告げる赤影。抱きついて泣きじゃくる陽炎(意外と冷静な青影)をなだめながらも、赤影は闘志を燃やすのでした。しかしその頃、破壊された堂から雷丸は仮面を拾い上げていて……


 魔風篇を様々に引っかき回し、盛り上げてきた名脇役の雲間猿彦退場編。哀しい展開ではありますが、双子の間の感応を利用してのクライマックスの盛り上がりはお見事。そして今回も策の巧みさといい撤退の判断といい、雷丸の意外なクレバーさが光りました。


今回の怪忍者
雲間犬彦

 猿彦の双子の弟。兄とは頬のイボのみが異なる(が取り外し可能な模様)。雷丸の側近的立場で、逆らえば兄とて容赦なく制裁を加える。死を覚悟した兄によって討たれる。

足切主水
 ザバミを操る十三忍の一人。顔に縦一直線にラインが入り、西洋風のマントをまとう。犬彦に詰られた怨みを猿彦で果たすなど、性格は陰湿。透明になってザバミを操っていたが赤影に見破られ、忍法流れ星を受けて死亡。

今回の怪忍獣
ザバミ

 足切主水が操る巨大な淡水ガニの怪獣。魔風堂内の赤影と白影を襲い、鋏で赤影を捕らえたが、主水を倒されて消失した。


『仮面の忍者赤影』Vol.2(TOEI COMPANY,LTD BDソフト) Amazon
仮面の忍者 赤影 Blu‐ray BOX VOL.2<完> (初回生産限定) [Blu-ray]


関連記事
 『仮面の忍者赤影』 放映リスト&キャラクター紹介

| | トラックバック (0)

2016.11.10

宮本昌孝『ドナ・ビボラの爪』下巻 美しき復讐鬼、信長を狙う

 織田信長の正室にして斎藤道三の娘・帰蝶を中心に、信長の天下布武の有様と、彼に対する驚天動地の復讐絵巻を描く大作の下巻であります。運命の悪意に翻弄され、歴史の闇に埋もれた帰蝶。彼女はどこに消えたのか、そして謎の「ドナ・ビボラ」とは……(上巻の詳細に触れますのでご容赦下さい)

 未曾有の大洪水の中で産声を上げた道三の娘・帰蝶。父と瓜二つの顔立ちであった彼女は、しかし信長から特にと請われて彼の正室となり、信長と深い愛情で結ばれ、若き彼を支えて活躍することになります。
 やがてついに彼の子を宿した彼女ですが、しかし、兄の地位を狙う織田信行とのたった一度の過ちが、信行誅伐という最悪のタイミングで明かされたことで、。幸せの絶頂から不幸のどん底に引きずり落とされることに――という上巻の結末から八年後の時点から下巻の物語は始まることとなります。

 道三にその才能を認められた麒麟児であり、そして帰蝶の守り役にして親友、母にして姉のような存在だった煕子の夫である明智十兵衛(光秀)。諸国を渡り歩いた末、信長の下に参じた彼は、瞬く間に頭角を現していくことになります。
 木下藤吉郎と並び、信長の天下布武を支えて活躍する十兵衛。しかし彼には隠された大望がありました。信長を討つという……

 表向きは信行誅伐に驚き、転倒して頭を打って亡くなったと語られてきた帰蝶。しかしその実、信長の容赦ない打擲によって力尽きた彼女の無念を晴らすため、十兵衛と煕子は、獅子身中の虫となって、信長の隙を窺っていたのであります。
 「ドナ・ビボラ」を奉じて――


 というわけで、ついに登場する謎の存在ドナ・ビボラ。……なのですが、しかし弱ったことに、これ以上は何を述べても物語の興を削ぐことになりかねません。
 詳細に触れぬように申し上げれば、この下巻で描かれるのは、復讐劇の陰に存在する、奇しき人々の因縁。それは上巻の時点から既に綿密に用意され、思いも寄らぬ形でこちらの前に明かされることとなります。

 その意外性、そしてフェアさは、ほとんどミステリ小説的と言えるでしょうか……真実が明かされるたびに、嗚呼! と驚き唸らされるばかりなのであります。

 その一方で本作は、主に十兵衛の視点から、織田信長という男が、その破天荒なやり方で天下布武を押し進めていく、その姿を描き出す、歴史小説としての性格も強く持つ作品であります。

 かの道三を瞠目させ、何よりもその薫陶を受けた娘・帰蝶が心身を捧げ尽くした信長。この下巻ではその非情ぶり、酷薄さが嫌と言うほど描かれるとはいえ、彼自身が歴史を変えた風雲児であることは間違いありません。
 そしてその信長の姿は、次第に十兵衛の心をも変えていきます。その行き着く先を見てみたい、その中で己の力を試したい……と。

 それが物語にいかなる影響を与えるかは置いておくとして、この十兵衛の姿、さらには信長の姿から浮かび上がるのは、野心を抱き、他者の血肉を喰らってでものし上がろうという、乱世における男という存在の愚かしさであると感じます。
 そしてもう一つ、煕子や帰蝶のように、そんな彼らを案じながらも愛し、包み込もうとする女の強さもまた。

 その両者の溝とすれ違いは、復讐という本作の主題と相まって、何とも切なく、もの悲しく感じられるのです。


 しかし、本作で描かれるのは、決して哀しみや虚しさだけではありません。

 本作における復讐者たち――帰蝶を慕い、彼女のために信長を討たんとする者たちは、誰に命じられたわけでもありません。彼らは皆、ただ帰蝶を慕い、彼女の無念を晴らすために立ち上がるのです。
 そこから浮かび上がるのは、たとえ不幸に死したとしても、その人物を悼み、慕い続ける者がいるとすれば、その者の生は決して無駄ではなかったと言うべきではないか――その想いであります。

 本作のエピローグ――あまりにも意外な、しかし極めてフェアな「最後の一撃」が用意された結末は、これぞ宮本作品! と叫びたくなるほど痛快極まりないものであると同時に、この想いを形にしてみせたものである……そう感じるのであります。
 そして同時にそれは、男の野心に対する女の愛情の勝利であるとも――

 伝奇色の強い復讐劇であると同時に骨太の歴史小説であり、何よりも男と女の愛の物語である……作者ならではの一大ロマンであります。


『ドナ・ビボラの爪』下巻(宮本昌孝 中央公論新社) Amazon
ドナ・ビボラの爪 下


関連記事
 宮本昌孝『ドナ・ビボラの爪』上巻 猛き武人姫、信長を愛す

| | トラックバック (0)

2016.11.09

青山文平『半席』 ホワイダニットの向こうにある人臭さ

 Twitterのミステリクラスタの方々の間で評判が高かった本作、作者のイメージから最初は疑問符だったのですが、一読してみればなるほどこれは……と感心。徒目付の青年が、下手人たちの「何故」を追う、武家小説の名品にして、優れた「ホワイダニット」のミステリー連作であります。

 タイトルの「半席」とは、一代御目見――すなわち、代々の御目見=旗本ではない御家人の家格のこと。御目見の御役目に二回つけば旗本にランクアップでき、その二回は父子二代がかりでもよい……そんな徳川幕府のシステムであります。
 本作の主人公・片岡直人は、父が一度御役目についたものの二度目はなく、一度小普請組に落とされたところから苦労して徒目付(目付の下で監察・調査の任務に当たる御役目)となった青年。徒目付から勘定方に出世し、旗本となって、子孫に自分のしたような苦労をさせたくない……そんな想いを胸に日々お勤めを果たす優等生であります。

 そんな彼に何かとちょっかいをかけてくるのは組頭の内藤雅之。「旨いもんを喰やあ、人間知らずに笑顔になる」がモットーの捌けた人柄ですが、出世を目指すでも余録を求めるでもない、直人にとっては得体の知れない人物であります。
 そんな彼から、本来業務ではなく様々な人伝手に持ち込まれる「頼まれ御用」を頼まれた直人。初めは業務の――つまり出世の邪魔と反発するのですが、しかしついついその内容が気になって引き受けてしまい……というのが、本作の基本設定となります。

 さて、その頼まれ御用の内容ですが、これが何とも面白い。直人に持ち込まれるのは、下手人は捕まっていたり、事件性はないと判断されていたりと、いずれも表向きは終わっている事件なのです。
 しかしその中でただ一つわかっていないのは、「何故」そんなことに……という点。それを知りたいと願った被害者や、加害者の周囲の人間たちの依頼により、直人は頭を悩ませることになるのです。なるほど、見事に「ホワイダニット」であります。

 この頼まれ御用で厄介なのは、既に裁きは定まっている点。刑が執行されるまで時間はわずかしかなく、しかし下手人(と目される人物)は口を固く閉ざして語ろうとしない……そんな状況で、いかにして直人が事件の真相を悟り、そして相手を落とすか。この点が、ミステリとして見て堪らなく面白いのであります。
(ここでもう一人直人と絡むのが、系図買いであったり、歩き巫女のヒモであったり、名前も職業もコロコロ変わる謎の浪人というのも楽しい)

 しかし本作の真に見事な点は、そのホワイダニットの解明という、ミステリ性にだけあるのではありません。各エピソードで圧倒されるのは、その「何故」の中身――それであります。

 本作に登場する下手人たちは、ほとんどの場合が老人、それも長年御役目を忠実に果たし、社会的身分も分別もそれなりにある者たちであります。
 そんな彼らが、突然に罪を犯した理由――それはいずれも、些細なようでいて、しかし本人たちにとっては決して見過ごしにできないもの、知った時に「嗚呼!」と天を仰いで嘆息したくなるようなものばかりなのです。

 そしてそんな彼らの姿は、「半席」であり、そこから抜け出そうとあがく直人の心にも、強い影響を与えることとなります。なるほど、彼らは罪を犯しました。しかし自分と彼らとの間にどれほどの差があるのか。武士たらんとする自分と、武士であったがために罪を犯した彼らとの間に……と。
 この点において、本作は優れたミステリであると同時に(そしてそれ以前に)優れた武家小説であると言えるでしょう。


 しかしそんな本作の読後感は、決して悪いものではありません。それは、本作が、「武士」や「御役目」という一種のシステムだけではなく、その背後に確かにいる「人間」の存在をも、物語を通じて浮かび上がらせるからではないでしょうか。
 この世界は、決してシステムだけが動かしているものではない。時に過ちもするが、心を持ち血の通った人間が動かしている――直人が知るその事実は、同時にこの世界に、人間として自分自身の居場所があるということを意味するのです。

 何故を解き明かすために奔走する中で、不思議な人臭さを感じ、本来は脇道でしかなかった頼まれ御用に惹きつけられていく直人。
 それは半席というシステムに埋もれかかっていた彼の人間性回復の過程であり――だからこそ、形こそ違え実は同様の境遇にある現代の我々の心を動かしてくれるのではないでしょうか。


『半席』(青山文平 新潮社) Amazon
半席

| | トラックバック (0)

2016.11.08

樹なつみ『一の食卓』第4巻 明の奮闘、そして一の過去へ

 築地の外国人居留地のベーカリー・フェリパン舎でパン職人を目指す少女・西塔明の奮闘と、明のいる店にやってきた謎の男・藤田五郎(=斎藤一)の活躍を描く本作も、気がつけばもう第4巻。原田や永倉まで現れてずいぶんと賑やかになったフェリパン舎に最大のピンチが……

 新政府の密偵として活動する中、その足掛かりとしてフェリパン舎に潜入した斎藤。彼は、不平士族が起こす事件に対処していく一方、明との交流の中で、無愛想な中にもこれまでにない人間臭さを見せていくようになっていきます。
 そんな中、上京してきた永倉新八と再会した斎藤。彼は東京で行方不明となった義理の弟を探しに来たというのですが、その一件は斎藤の追っていた事件とも絡むことになります。

 しかし同じ事件を追っていた弾正台の人間たちが斎藤を追ってフェリパン舎に現れ、当時では極めて貴重だったパン種の壷を壊したことで、明は思わぬピンチに陥ることになります。
 折悪しく店の主人・フェリックス氏が不在としている中、パンを絶やすまいと奮闘する明。しかしそんな時に限って大口の注文が入ってしまい……


 と、斎藤の追う事件と明のパン作りと、本作を構成する二つの要素が絡み合い、一つのクライマックスを迎えることとなるこの巻。
 正直なところ、斎藤の方はあっさりと解決してしまった感があっていささか拍子抜けなのですが、明の方はなかなかの盛り上がりであります。

 材料や手段が限定的な中で何とか料理を作らなければならない状況に、工夫と根性で挑むというのは料理漫画の王道パターンの一つですが、この巻での明はまさにそれ。
 物がパンなのでビジュアル的に今ひとつ派手さはないのですが(特に作るものがパン種ということもあって)、斎藤を感じ入らせるほどの明の希薄は本物であります。

 また、これまで明や斎藤たちに押されて影の薄かった佐助青年も、思わぬ材料を使ってのデザート製作で維持と根性を見せるのも楽しいところです。
(そして明と佐助の決意を後押しする原田の台詞が、いかにも「らしい」ものなのが実にいいのです)


 しかし、一件落着しても気が済まないのは斎藤。今回の明の窮地は、自分がフェリパン舎にいるゆえ、とある決意を固めるのですが……ここに登場するある人物が美味しいところを全部かっさらっていくというのが、歴史ものとしても面白い。
 そしてキレ者として知られるこの人物を、斎藤にとって、そしてもちろん原田や永倉にとっても忘れられぬ人物である土方と比して語るという視点も実にユニークかつ妙な説得力があるのですが――


 このエピソードが終わった後に始まるのは、何とこの土方と斎藤、いや斎藤と新選組の出会いの物語。そう、本編の前日譚である江戸編であります。

 貧乏御家人の次男坊に生まれ、幼い頃から両親や実の兄と折り合いの悪かった斎藤。典型的な無頼の部屋住みという体の彼が、町で出会った妙な優男、そして故あって乗り込んだ町道場で出会った生意気な少年とは――
 斎藤の父の思わぬ出自(ある意味血は争えないというか……)も描かれ、なかなかに気になる物語が始まることとなります。

 時期的に(子供時代であっても)明の登場はなさそうで、その意味では本作の魅力の片翼がない状態での物語となるのは気になるところではありますが、しかし新選組(の面々)の描写が、これまで実にツボを心得たものばかりであった本作。
 やはり気になる新展開なのであります。


『一の食卓』第4巻(樹なつみ 白泉社花とゆめCOMICS) Amazon
一の食卓 4 (花とゆめCOMICS)


関連記事
 『一の食卓』第1巻 陽の料理人見習いと陰の密偵と
 樹なつみ『一の食卓』第2巻 第三の極、その名は原田左之助!?
 樹なつみ『一の食卓』第3巻 五郎の過去と明の未来の交わるところ

| | トラックバック (0)

2016.11.07

友野詳『ジャバウォック 真田邪忍帖』 勃発、何でもありの忍者大戦!

 「魔界戦国」が終結してから十年。既に過去の記憶も薄れつつある太平の世に、再び魔界を生み出そうとする者たち――真田十勇士改め十幽鬼が出現した。悪神の力を宿して甦り、千姫が在り処を知る豊臣家の莫大な黄金を狙う彼らの前に立ち塞がるのは、大坂の陣で散ったはずの男――真田大介であった!

 時代小説参入以来、ユニークな作品を次々繰り出してきた友野詳がしばしの時をおいて発表した新作は、超時代伝奇バイオレンスとも言うべき異色作にして痛快作であります。

 大坂の陣によって戦国の世が終結し、徳川幕府によって太平の世が訪れて十年――厳重に警備された本多忠刻の屋敷を、何者かが襲撃する場面から物語は始まります。
 居並ぶ猛者たちを次々と物言わぬ肉塊に変えていく、あたかもミイラ化した猿のような奇怪な襲撃者。佐助と名乗る怪人の狙いは、この屋敷の奥方――かつて豊臣秀頼に嫁した千姫でありました。

 家中の者たちを傷つけぬため、自ら佐助に同行を申し出た千姫。しかしその二人の前に、隻眼の若武者が現れます。佐助の術技をものともせず、その大剣で佐助の首を叩き斬った青年の名は真田大介――かつて大坂城に依って家康を散々に悩ませた真田幸村の子にして、大坂城に散ったと思われていた男であります。

 やはり落ち延びた主君・秀頼と各地を旅していたものの、ある目的を持って、一人千姫の前に現れたという大介。その目的とは、かつて豊臣家が隠し、千姫がその鍵になるという莫大な黄金の封印でありました。
 同行を諾った千姫、そして追ってきた千姫付きのくノ一・あとらとともに旅立つ大介の前に次々と現れるのは、佐助と同じく冥府から悪神を宿して甦った十勇士改め十幽鬼。さらに謎の伊賀者・四貫目も加わり、行く先々を血と闇に染める死闘旅が各地で繰り広げられることに……


 ということで、全編これこちらの好物で構成されたかのような本作。いずれも超絶の力を持つ怪物十勇士が敵という、かの名作伝奇漫画『虚無戦史MIROKU』を思わせる構図だけでも堪えられませんが、その魔戦の中に入り乱れるのは、忍術妖術剣術、果ては怪しげな未来科学と、何でもありの大活劇!

 ジャバウォック――わけのわからぬ化け物というタイトルに相応しい、混沌とした、というごった煮感と、エロも人死にも容赦ない展開は、懐かしの80年代末~90年代前半の伝奇バイオレンスを彷彿とさせるものがあり、そういうもので育ってきた私のような人間には直撃としか言いようがありません。
(そもそも登場する忍者の名前など、わかる人にはニヤニヤできる、スーパー忍者大戦状態で……)


 ただしここで一つ白状すれば、本作の発売前、あらすじ等を目にした時には、複雑な想いがあったのもまた事実であります。
 何しろ、本作のバックグラウンドにあるのは、かつて魔王信長が召還した邪悪な神々により、数々の神魔邪怪の入り乱れる状態となった「魔界戦国」という異形の戦国時代。つまりはファンタジー、つまりはパラレルワールドで、その先に展開される物語も、史実と異なる、(厳しい表現をすれば)無責任なものとなるのではないか……と。

 もちろんそれはそれで面白いものではありますし、否定してよいものでは決してありません。しかしこれだけの材料がありながら、どうにも勿体ない……という気持ちは、一読、見事に背負い投げを食らうことになります。
 詳しいことは述べませんが、ある人物の存在を通じ、本作においてはその世界観、つまり我々の知る史実とは異なる魔界戦国の存在もまた、一つの仕掛け――その史実に至るまでにあったかもしれない世界として機能しているのですから。

 そしてこれはマニアの深読みですが、本作における魔界戦国の存在は、これまで描かれてきた様々な忍者ものをはじめとする戦国伝奇アクションへの、一つのエクスキューズとしても機能しているのではないでしょうか。
 忍法といいつつ、どう考えても超能力や妖術、未来の超科学にしか見えない、懐かしの作品群に登場する秘術の数々。それらをいまこの時代の作品に甦らせつつ、かつそこに本作なりの理屈を付ける……そのための魔界戦国でもあるのではないかと。

 もう一つ、こうして我々の前に甦ってきた懐かしの秘術のオンパレードと、戦国の世から甦ってきた十幽鬼たちの大暴れに、符号を感じてみるというのも、また楽しいことであります。

 繰り返しになりますが、これはこちらの勝手な想像に過ぎません。それでも――そんな妄想に心を遊ばせてみたくなる、そんな作品なのであります。


『ジャバウォック 真田邪忍帖』(友野詳 KADOKAWA Novel 0) Amazon
ジャバウォック 真田邪忍帖 (Novel 0)

| | トラックバック (0)

2016.11.06

『SP版 お江戸ねこぱんち 傑作集でござる!』 単行本未収録作+αの傑作選

 これまで第十四号まで刊行されてきたお江戸猫漫画誌「お江戸ねこぱんち」。本書はタイトルが示す通り、その傑作集――第一号から第八号までに掲載された単行本未収録作+αで構成された特別編であります。

 これまでもブログで紹介してきたように(最新二号は紹介できていないのですが)、私も「お江戸ねこぱんち」は第一号から全て読んでおります。
 そんなわけで本書は軽い気持ちで手に取ったのですが、しかし振り返ってみれば第一号の刊行は2010年と六年前で、かなり記憶も薄れている上に、こちらはチェックしていなかった「おとなのねこぱんち」誌掲載作が一つ、さらに書き下ろしが一つということで、やはりこれは紹介せねば! と思った次第。

 さて、それでは掲載作品は、と言えば以下の通り――
『明け六つの猫』(ほしのなつみ)(全四話)
『華纏想い猫』(清水ユウ)
『猫姫』(山野りんりん&島村洋子)(前後編)
『大奥 三毛猫始末』(結城のぞみ)
『大奥 白猫騒動』(結城のぞみ)
『猫飛脚』(鷹野久)
『しばふね』(紗久楽さわ)
『あたうち』(紗久楽さわ)
『物見の文士 柳暗花明』(晏芸嘉三)

 上で述べたとおり、2010年第一号から13年第八号までの掲載作を中心に、『しばふね』のみは「おとなのねこぱんち」誌、『物見の文士』は書き下ろしとなっています。


 そんな本書、表紙では「特集 大奥猫物語」となっていますが、収録作品のうち、山野りんりんと結城のぞみの二作品全四話が大奥を題材としているためで、正直なところ、それほど特集という印象ではありません。

 とはいえ、特に徳間文庫の『大江戸猫三昧』に収録された島村洋子の小説を原作とする『猫姫』は、猫がきっかけでお末から思わぬ出世を遂げ、将軍の側に侍った主人公の数奇な運命と、彼女から将軍の寵を奪った娘の思わぬ因縁を描いて、強く印象に残る作品であります。
(それにしても二作品とも、猫の扱いがもとで大奥で出世していく少女、というシチュエーションが共通しているのは面白い)

 その他、個人的に印象に残ったのは、初出時に紗久楽さわが蜜子名義で発表した二作品。『あだうち』の方は既読(このブログでも紹介)ですが、『しばふね』の方は初読で、これがまた実によい作品。
 青年二人が乗った雪見船に、青年の一人に妙に懐いた猫まで乗ってきて……という一幕なのですが、青年たちの他愛もないやりとりが楽しく、そこに猫が絡む理由がまたおかしくも切ない、洒落た味わいの作品であります。


 もう一作品、巻末に収録された晏芸嘉三『物見の文士』シリーズの最新作は書き下ろし作品。「見え」てしまう体質の文士・夜都木周平先生を主人公とするシリーズですが、しかし舞台は明治の作品が「お江戸」とは――
 と思いきや、今回は先生と親友の新聞記者が、招き猫が変じた不思議な猫に誘われて、どう見ても明治の風俗ではない遊郭に迷いこんで……という展開で、なるほどタイムスリップね、と思いきや、これが一筋縄ではいかないところが実に面白い。

 興を削いではいけないのであまり詳しくは述べませんが、現にありながらも一種の虚構の世界ともいうべき吉原の存在を、このように処理してみせたというのはあまりない趣向。
 正直なところいささか台詞量が多いのは気になるものの、ひねりの効いた内容に好感が持てました。


 というわけで、傑作集と言っても読みどころの多い本書、ぜひ残る号の収録作品も……と思いますし、何よりも本誌の続きも、と願うところであります。


『SP版 お江戸ねこぱんち 傑作集でござる!』(少年画報社) Amazon
SP版 お江戸ねこぱんち 傑作集でござる! (にゃんCOMI廉価版コミック)


関連記事
 「お江戸ねこぱんち」第二号
 「お江戸ねこぱんち」第三号 猫漫画で時代もので…
 「お江戸ねこぱんち」第四号 猫を通じて江戸時代を描く
 「お江戸ねこぱんち」第5号 半年に一度のお楽しみ
 「お江戸ねこぱんち」第六号 岐路に立つお江戸猫漫画誌?
 「お江戸ねこぱんち」第七号 ニューフェイスに期待しつつも…
 「お江戸ねこぱんち」第八号 そろそろ安定の猫時代漫画誌
 「お江戸ねこぱんち」第九号(その一) 約半年ぶりの賑やかさ
 「お江戸ねこぱんち」第九号(その二) 次号が待ち遠しい内容の作品群
 「お江戸ねこぱんち」第十号 猫時代漫画専門誌、ついに二桁突入も…
 『お江戸ねこぱんち』第十一号 久々の登場は水準以上
 『お江戸ねこぱんち』第十二号 猫時代漫画誌、半年ぶりのお目見え

| | トラックバック (0)

2016.11.05

『仮面の忍者赤影』 第46話「怪獣ががら対ざばみ」

 再び現れた猿彦をもう一度信じるという赤影。それに応え、偽物の仮面を手に雷丸のもとに戻った猿彦は、陽炎が阿弥陀ヶ池の塔に幽閉されていると聞き出す。しかし赤影と白影が阿弥陀ヶ池に向かう中、青影は猿彦に化けた犬彦に黄金の仮面を奪われてしまう。そして赤影たちの前にも巨大な影が……

 黄金の仮面を取り戻したものの、未だ陽炎は囚われたままの状況で雪山に隠れている赤影たち。そこで呑気に焚き火で焼き芋を始める赤影と白影に驚く青影ですが、もちろんこれは赤影の策、誘き寄せた下忍たちを一掃するのですが、そこに猿彦が現れます。
 ぬけぬけとこれまでのことを詫びて本当に仲間になるという猿彦を、半ば呆れつつもいつものお人好しぶりを発揮して許す赤影。早速猿彦は三人を逃がし、自分は縛り上げられた振りをしてその場に残ります。そこにやってきた犬彦は怒り心頭、下忍に命じて兄をリンチにかけますが、雷丸はこれを止め、猿彦にもう一度潜入の機会を与えるのでした。

 これに応え、黄金の仮面を手に戻ってきた猿彦。猿彦は何気ないふりで陽炎の居場所を雷丸に尋ねると、阿弥陀ヶ池の塔にいると聞き出すのですが……雷丸は仮面が偽物だととうにお見通し、赤影と白影が塔に向かったことを犬彦の報告で知ると、足切主水に出陣を命じます。この足切主水、顔の真ん中にくっきりと白いラインを入れたメイクに宣教師のような襟付きマントとかなり妙な出で立ちですが、出撃の時にマントをバサッと翻した時に、思い切り雷丸にかぶせたのは素なのか何なのか……
 さて、赤影と白影が出陣する一方で、万が一の時のためと黄金の仮面を預けられ、猿彦共々残ることとなった青影。猿彦は出かけたのか、お堂の中で待っていた彼の前に、犬彦が現れます。初めはすっかり騙されていた青影、黒子と、何よりも匂いが違うと猿彦でないことを見抜くのですが時既に遅し。黄金の仮面は奪われた上に昏倒させられ、お堂には火をつけられてしまうのでした。

 さて、阿弥陀ヶ池に到着した赤影たちの前に聳えるのは、またうんざりするほど現代感丸出しの塔。そこに向かい小舟で漕いでいく二人ですが、突然周囲には不気味な泡が……そしてその中から巨大な鋏が! 破壊される小舟から塔に飛び移った二人は上に昇っていきますが、その鋏の持ち主・ザバミが塔を引き倒さんと襲いかかります。
 塔の上には確かに陽炎が柱に縛り付けられていたものの、彼女は既に気が触れ……ていたわけではないですが、術をかけられてけたたましく笑う姿が怖すぎます。

 と、そこに駆けつけたのは、すんでのところで意識を取り戻した青影。その姿に応えるように池の中からはガガラが出現、青影の草間大作並みにアバウトな命令に応え、ザバミに襲いかかります。ガガラが口から火を吐けば、ザバミは泡で消火にかかり……と一進一退の攻防に、塔の上の赤影たちも真面目にガガラコールで応援です(正直、このコールがかなりうるさい)。
 最終的にザバミは水中に姿を消し、ガガラもまた何処かへ消え、静けさを取り戻した塔。そこで正気に戻った陽炎とひしと抱き合い、青影はちょっと何が起きたのか一瞬わからないくらいの涙を流します。ここで後ろでもらい泣きする白影の小芝居が素晴らしいのですが……そこに響く雷丸の高笑い。ちゃっかり黄金の仮面をつけてご満悦の雷丸に、赤影は闘志を燃やすのでした。


 ガガラなのかががらなのか非常に混乱するタイトルはさておき、二重スパイとして奮闘する猿彦と、その彼を利用して陽炎と黄金の仮面を奪い合う両陣営の駆け引きが面白い今回。見かけによらずクレバーところがある雷丸のキャラクターが、この展開に一役買っているという印象です。
 その上に二大怪獣の対決も盛り上がるところ。姉を救うために駆ける青影のため、もう一人の姉が託した怪獣が現れたと思うとなかなか熱い展開ではありませんか。


今回の怪忍獣
ガガラ

 阿弥陀ヶ池で赤影たちを襲ったザバミと戦った個体。口からの火を泡で阻まれ苦戦するが、ザバミを撃退し、姿を消した。

ザバミ
 足切主水が操る巨大な淡水蟹の怪獣。右手の巨大な鋏と、口から吐く大量の泡が武器。阿弥陀ヶ池で赤影たちを待ち伏せて襲撃したが、援軍に現れたガガラとの激闘の末に撤退した。


『仮面の忍者赤影』Vol.2(TOEI COMPANY,LTD BDソフト) Amazon
仮面の忍者 赤影 Blu‐ray BOX VOL.2<完> (初回生産限定) [Blu-ray]


関連記事
 『仮面の忍者赤影』 放映リスト&キャラクター紹介

| | トラックバック (0)

2016.11.04

森野きこり『明治瓦斯燈妖夢抄 あかねや八雲』第5巻 八雲を通じて描かれた「物語」と「現実」

 怪談を蒐集する外国人拝み屋「小泉八雲」を巡る物語もいよいよ結末を迎えることとなります。「八雲」を名乗る彼と、真の「八雲」=ラフカディオ・ヘルンと、二人の八雲の対峙が何をもたらすのか。そして一宮巡査の選択は……(以下、物語の核心に触れますのであらかじめご了承下さい)

 詐欺師まがいの拝み屋を営む不良外人として監視を命じられたことから八雲と縁を持つこととなった一宮巡査。霊感体質であったことから様々な事件に巻き込まれる中、一宮は八雲に友情に似た想いを抱くことになります。
 そんな中、一宮の叔父の友人として来日した曰くありげな外国人・ヘルン。そして彼こそが真の小泉八雲であり、そして八雲の生みの親だったのです。

 幼い頃から様々な神秘譚・怪異譚に惹かれ、蒐集してきたヘルン。その彼がある日手にした古書に記されていた、ほとんど忘れ去られていた物語……ヘルンが名を与えることによって人の姿を取ることとなったその物語こそが「八雲」であり、ヘルンは彼を使って怪談を蒐集していたのであります。

 その真実を知ってもなお、自分の知る八雲こそが真の八雲だと信じ、行動する一宮。そんな二人に対し、ヘルンは自分を師と慕う混血の軍人・九十九少佐を操り、怪異により人々を襲わせると、八雲に濡れ衣を着せるのですが――


 前巻で明かされたそのあまりに意外な内容に驚かされつつも、しかし不思議に違和感を感じなかった「八雲」の正体。
 この巻ではそれを踏まえつつ、最後の物語が展開していくこととなります。

 「現実」と対置される怪異という「物語」を好み蒐集するだけでなく、その「現実」を「物語」を以て操作する……いや、「現実」を自分好みの「物語」へと変貌させんとするヘルン。
 その力は一宮と八雲にも及び、二人の現実は、それぞれにとっての理想の物語へと変貌していくのですが――

 物語の冒頭から、この現実に存在する怪異と対峙してきた一宮と八雲。その果てに待つものは、多くの場合、悲しみに満ちた現実でありました。
 それを物語として昇華することは、確かに一つの救いであるかもしれません。しかし物語とされることでこぼれ落ちるものもある。悲しみに満ちた現実の中にも、小さな光がある。二人の姿は、それを示してきました。

 それが生み出したものは、当然ながら冒頭から意図されていたであろう――そして恥ずかしながら終盤まで私はそれに気がつかなかったのですが――史実とのずれをも巧みに飲み込み、「小泉八雲」の誕生という美しい「現実」に落着したと感じます。

 八雲の正体にまつわる展開の意外さに比べると、終盤の展開はある程度予想はついたのですが、しかしこれもあるべきところに収まったと言うべきでしょう。

 八雲という存在を通じて描かれた「物語」と「現実」……ここに大団円であります。


『明治瓦斯燈妖夢抄 あかねや八雲』第5巻(森野きこり マッグガーデンブレイドコミックス) Amazon
明治瓦斯燈妖夢抄 あかねや八雲 5 (BLADE COMICS)


関連記事
 『明治瓦斯燈妖夢抄 あかねや八雲』第1巻 怪異を蒐める男「八雲」がゆく
 森野きこり『明治瓦斯燈妖夢抄 あかねや八雲』第3巻 怪異と浄化の物語
 森野きこり『明治瓦斯燈妖夢抄 あかねや八雲』第4巻 明かされる謎、ヘルンが求めた物語

| | トラックバック (0)

2016.11.03

杉山小弥花『明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者』第9巻 清十郎の初めての恋!?

 明治初頭を舞台に、じゃじゃ馬女学生・菊乃と、現在無職の(?)元・伊賀忍び・清十郎のおかしな主従の姿を描くシリーズも、もう二桁の大台が見えるところまで来ました。前巻で不平士族の乱の中に巻き込まれ、それぞれに心中穏やかならざるものを抱えた二人の想いの行方は……

 それぞれの利害関係から、偽装結婚という形で結びついてきた菊乃と清十郎ですが、様々な事件を経て、嘘から出た誠というわけかその想いは本物に。
 しかしそれぞれに面倒くさい二人が躊躇っている間にも時代は動き続け、不平士族の乱が各地で勃発することになります。その中で、長州の不平士族のリーダー・桐生と、それぞれの立場から関わった末に、二人は互いにわだかまりと秘密を抱えることになるのでした。

 さらに、「清十郎」の真の顔を知る彼の師匠/上司が登場、彼を縛る軛の存在も描かれましたが……この巻ではその辺りの「大きな物語」は小休止。菊乃と清十郎の関係性に絞った物語が展開していくのですが、これはこれで実にややこしく、面白い。

 この巻に収められたエピソードは以下の四話――
 菊乃に想いを寄せるランスがプラントハンターに強請られた一件解決のため、二人がある博打を打つ「ブルージャパン」
 迷い鳩を助け、密かに女学校で買うようになった菊乃が、それがきっかけで思わぬ事件に巻き込まれる「一陽来復」
 軍での地図紛失事件と西洋画家志望の青年、浮世絵マニアの外国人少女が絡んで二人の関係がこじれていく「芸術は永く時は短し」
 菊乃へのキスを巡ってランスと清十郎が思わぬ合戦に臨む「沈黙こそが神の御言葉」

 正直に申しあげて、後先考えずに面倒事に頭から突っ込んでも碌なことにならないと君はもう少し学習しなさい、と菊乃には言いたくなるのですが、それはさておき、今回も時代性とミステリ味、そして何よりもラブコメ色が見事に絡み合って、実に楽しい。

 今回、どのエピソードも完成度が高いのですが、その中でも上の三つの要素の絡み合いという点では、「芸術は永く時は短し」が屈指の完成度であります。

 これまでも幾度となく二人を振り回してきた曲者の土佐軍人・楡大尉に依頼され、それぞれ紛失した九州の地図と、楡の友人が出会ったという外国人画家を探すこととなった清十郎と菊乃。
 しかし互いに互いの目的を隠していた上に、おかしな浮世絵マニアの美少女が絡んできたおかげで、二人の間はギクシャクすることに……さらに二人の追っていたものが交錯し、意外なクライマックスを迎えるのですが、なるほど、この時代にはこういうこともあったかも、と思わせる題材の妙に、今回も唸らされた次第です。

 そして楽しいのは、このエピソードに限らず、この巻での清十郎の菊乃への態度であります。
 その素性は未だ不明ながら、忍びとしての技量は凄腕としか言いようがない清十郎。これまで幾度か描かれてきたように、その手腕は女性に対しても遺憾なく発揮されてきたのですが……しかしそれはあくまでも任務の上だけだったことが明るみに出ることになります。

 要するに彼は任務以外で女性を抱いたことがない、何と申しますか精神的DT、というよりこれがほとんど初恋状態。その相手も、威勢はいいものの根は純情な菊乃なわけで、ああもう本当に今回もめんどくさい二人の姿が、実に愛おしいのであります。
(特に今回清十郎はストレスのあまり……)


 もちろんそれでも少しずつ、少しずつ距離を縮めていく二人。この調子であれば、近いうちに……という感じではありますが、しかしそうそううまくいくかはわかりません。
 冒頭で触れたように、今回はほとんど語られなかった「清十郎」の物語。それがこの先、どのように二人の行く末に絡んでいくのか――

 無情の忍びから有情の青年へと変わりつつある清十郎の、そしてもちろん菊乃の将来に幸あれと、いまは祈るしかないのであります。


『明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者』第9巻(杉山小弥花 秋田書店ボニータCOMICSα) Amazon
明治失業忍法帖~じゃじゃ馬主君とリストラ忍者~(9)(ボニータ・コミックスα)


関連記事
 「明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者」第1巻
 「明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者」第2巻 明治が背負う断絶の向こうに
 「明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者」第3巻 時代が生む男の悩み、女の惑い
 「明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者」第4巻 自分が自分であること、隙を見せるということ
 「明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者」第5巻 すれ違う近代人の感情と理性
 『明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者』第6巻 面倒くさい二人の関係、動く?
 杉山小弥花『明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者』第7巻 それぞれの欠落感と不安感の中で
 杉山小弥花『明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者』第8巻 清十郎を縛る愛と過去

| | トラックバック (0)

2016.11.02

かたやま和華 『大あくびして、猫の恋 猫の手屋繁盛記』 絶好調、妖怪もの+若様ものの快作

 猫股の祟りで人間大の猫……リアル猫侍になってしまった青年・宗太郎が、人間の姿に戻るために善行を積むべく、よろず請け負い屋として奔走する姿を描く『猫の手、貸します』シリーズも本作で第3弾。慣れぬ暮らしも板に付いてきた宗太郎ですが、今回請け負ったのはいささか厄介な出来事で……

 酔った帰りに猫股の長老を尻で踏んづけたことから、その祟りで巨大な猫にされてしまった遠……いや近山宗太郎。両親に迷惑をかけてはならんと自ら家を出た宗太郎は、百の善行を積めば願いが叶う――人間の姿に戻ることができると知り、困っている人に猫の手を貸すよろず請け負い業を始めます。

 とはいえ宗太郎は四角四面の石部金吉、しかもそれまで屋敷から出て暮らしたこともない彼にとって、市井暮らしそして猫暮らしは慣れないことばかり。
 周囲からは人間になりかけの化け猫・猫山猫太郎だと思いこまれ、おかしな役者の中村雁也や猫キチの絵師・国芳らにつきまとわれ、苦労続きの宗太郎ですが、最近はそれでもだいぶ丸くなって来た様子であります。

 そんなある日に宗太郎が同じ長屋の母娘から頼まれたのは、昼間姿を消している飼い猫・桃太郎の立ち回り先探し。早速跡を追った宗太郎は、桃太郎がさる旗本屋敷に我が物顔で入り込んでいるのを知ります。
 幸い相手も猫好き、屋敷の奥方に歓待された宗太郎は、逆に桃丸(=桃太郎)がどこの猫なのか探すように頼まれてしまうのですが、実は桃太郎の行動の陰には――


 そんなお話の第一話「にゃこうど」で描かれるのは、宗太郎から見れば忍者としか思えない桃太郎の活躍。
 なるほど、その身のこなしだけではなく、周囲の状況に合わせて別々の呼び名を使い分け、そのかわいい仕草で巧みに相手に接近してメロメロにしてしまうのは、確かに忍法、いやにゃんぽうかもしれません
(犬が武士なら猫は忍者だ、はけだし名言)

 しかしそんな桃太郎の行動の陰にあるのは、若い二人のある想いなのですが……この辺りに全く気付かない宗太郎のボケっぷりは、お約束とはいえ本当に楽しい。そうとわかった後のとんちんかんな言動も含め、シリーズも第3巻となればこの辺りの呼吸は見事なものであります。

 しかしこのエピソード、面白おかしいだけではありません。実は宗太郎に依頼してきた桃太郎の飼い主は、当時の天保の改革で表向きは禁じられた女髪結い。そんな稼業の自分が、桃太郎が縁とはいえ、旗本の奥方に近づいて良いはずがない……
 そんな彼女の悩みも解決すべく、宗太郎と桃太郎は奔走するのであります。

 これまでそれほど舞台となる時代背景をクローズアップしてこなかったという印象のある本シリーズですが、ここでこのような形で天保の改革の理不尽を描き出してきたのは、時代ものとして嬉しい目配り。
 何よりも、宗太郎の父親は、その役目の上でこの改革と密接に関わっているのですから――


 さて、好事家の奇談会の賑やかしに呼ばれた宗太郎が、ある晩出会ったおかしな老人と、彼を運ぶ猫の駕籠かきとともに経験した不思議な出来事を語る第二話「奇妙奇天烈な白猫姿の宗太郎が、語る」(これもまた奇妙な味わいの人情譚で素晴らしい)を経た第三話は「男坂女坂」。
 第一話では(もちろんそんなことで宗太郎が手を抜くはずもないのですが)他人事だったものが、宗太郎自身の身に降りかかってくることになります。

 宗太郎が人間であった頃、許嫁だった姫君・琴――彼女が、こともあろうに「剣術修行に出ると言ったきり姿を消した(しかし江戸にいるらしい)宗太郎を探して欲しい」と猫の手屋に依頼してきてしまったのであります。
 もちろん真実を告げるわけにはいかない、さりとて彼の性分として適当に誤魔化すこともできない……そんな中で描かれる宗太郎と琴姫の交流が、何ともこそばゆくも微笑ましく、このエピソードでは描かれることとなります。

 しかし考えてみれば、曲がりなりにもそんな交流ができたのは、宗太郎が猫になり、そして市井に暮らしたことで人間が丸く、大きくなったからにほかなりません。
 そう、非常にユニークなデコレーションがほどこされていますが、本作の基本は、一人の青年武士の成長物語なのであります。

 いわば「妖怪もの」と「若様もの」、二つの楽しさを兼ね備えた本作――体はもふもふ、心はもののふの宗太郎の今後が楽しみです。


『大あくびして、猫の恋 猫の手屋繁盛記』(かたやま和華 集英社文庫) Amazon
大あくびして、猫の恋 猫の手屋繁盛記 (集英社文庫)


関連記事
 『猫の手、貸します 猫の手屋繁盛記』 正真正銘、猫侍が行く!?
 かたやま和華『化け猫、まかり通る 猫の手屋繁盛記』 武士と庶民、人と猫の間に生きる

| | トラックバック (0)

2016.11.01

『仮面の忍者赤影』 第45話「岩石怪物ガガラ」

 口無水乃操るガガラによって連行された青影を傷つけると脅され、影の神像の秘密を語ってしまう陽炎。水乃は用済みの青影を殺せと命じられながらも、青影を逃がしてしまうのだった。一方、猿彦の正体を知り、口を割らせた赤影と白影も影の神像に駆けつけるが、そこに再びガガラが現れる……

 前回のラストで小屋の下から出現したガガラの襲撃を受けた青影。そこに駆けつけた赤影たちは、崖の上から飛騨忍法風渡りで(猿彦は白影にしがみついて)大ジャンプ、着地するやいなや爆弾連打で攻撃しますが、ガガラの強固な殼には効きません。そのままガガラは青影もろとも地中に消えてしまうのでした。何とか前回の姉妹は無事でしたが……

 さて、連れ去られた青影を待っていたのは、ガガラを操るくノ一・口無水乃と雷丸。雷丸は頑として口を割らない陽炎を喋らせるために青影を利用せんとしていたのです。耳を削ぎ、目をくりぬき、手足の指を落としてやるという子供番組では台詞だけでもギリギリ感ある言葉を放つと、雷丸は下忍にまず耳を削げと命じるのでした。
 自分はどれだけ拷問を受けようとも揺るがなかった陽炎もこれには堪らず、黄金の仮面を影一族の守り神・影の神像に持っていくよう話してしまいます。

 一方、水を汲んでくると言って犬彦と念話通信していた猿彦ですが、忘れた水筒を届けに来た白影がこれを目撃。すっかり心を許していた白影だけでなく、赤影も珍しいほどの怒りようで青影と陽炎の居場所を問い詰め、猿彦もあっさり白状するのでした。

 さて、陽炎を連れて雷丸が神像に向かう間、青影を見張るよう命じられた水乃は、そこに現れた犬彦から、青影を殺せという雷丸の言葉を伝えられるのですが……しかし先ほどから青影に何やら思うところがあった水乃は、殺せないと自分の想いを吐露します。実はかつて自分の目の前で修行中の事故で亡くなった幼い弟・一郎次がいた水乃。生きていれば同じくらいの歳の青影に弟を見た彼女は、ガガラの弱点は「三つの光」だと教え、青影を逃がすのでした。
 しかしその水乃の前に浮かぶのは雷丸の幻影。全てお見通しだった雷丸は、一度だけは許してやると、ガガラで赤影を殺せと命じるのでした。実は母親を人質に取られていた水乃には、従うほかの道はないのでした……

 さて、影の神像に辿り着いた雷丸・犬彦と陽炎。黄金の仮面を像の額につけるように言う彼女の言葉に、犬彦はその通りにするのですが、すると像の口から赤い煙が……堪らず転がり落ちた犬彦に、「この世から悪人を追い払う守り神よ」と告げる陽炎に応えるように、赤影と白影が参上!
 像の上に立ち、奪還した黄金の仮面を手に、握手で闘志を高める二人。しかしその直後、神像を崩してガガラが登場、その間に陽炎を乗せ雷丸たちは逃げてしまうのでした。

 再びガガラに挑む二人ですが、白影の槍から放つ有線ミサイル攻撃でもガガラは動ぜず、口から火を吐きながら二人を追ってきます。しかし、火だけでなく油も吐いていることに気付いた赤影は森の中にガガラを誘導、二手に分かれるとガガラにわざと火を吐かせ、辺り一面を炎に包むのでした(大丈夫かしらこの撮影……)。
 そこに駆けつけた青影は、ガガラの額にある三つの光が弱点だと教えるのですが、しかし赤影はそれには及ばないと答えます。その言葉どおり、体内に一杯に溜めてられていた油が誘爆、ガガラは大爆発するのでした。

 その跡地に倒れていた水乃に駆け寄る青影ですが、既に目も見えなくなっていた水乃は、ガガラはもう一度甦ると貝殻を青影に託し、弟の名を呟いて息を引き取るのでした。


 赤影最後のくノ一・水乃は、姉としての哀しい想いが印象に残るキャラクター。本作では裏切り率の高いくノ一ですが、彼女の行動には(雷丸があんななだけに)自然に納得できるものがあります。そんな彼女に、陽炎同様「姉ちゃん!」と青影が呼びかけるのも、実に切ないのであります。


今回の怪忍者
口無水乃

 ガガラを操るくノ一。雷丸に母を人質に取られている。青影を殺すよう命じられるが、亡くなった自分の弟を思い出し、逃がした。その後、やむなくガガラで赤影たちを襲うが、ガガラの爆発に巻き込まれて深手を負い、青影にガガラを託して逝く。

今回の怪忍獣
ガガラ

 水乃が操る、トカゲが殻に潜んだような姿の怪忍獣。口から油と火を吐き、その殻は爆弾で攻撃してもほぼ無敵の堅さを誇る。二度にわたり赤影たちを襲うが、赤影の策によって体内の油に引火、大爆発を起こす。額にある三つの光(目?)が弱点らしい。


『仮面の忍者赤影』Vol.2(TOEI COMPANY,LTD BDソフト) Amazon
仮面の忍者 赤影 Blu‐ray BOX VOL.2<完> (初回生産限定) [Blu-ray]


関連記事
 『仮面の忍者赤影』 放映リスト&キャラクター紹介

| | トラックバック (0)

« 2016年10月 | トップページ | 2016年12月 »