『SP版 お江戸ねこぱんち 傑作集でござる!』 単行本未収録作+αの傑作選
これまで第十四号まで刊行されてきたお江戸猫漫画誌「お江戸ねこぱんち」。本書はタイトルが示す通り、その傑作集――第一号から第八号までに掲載された単行本未収録作+αで構成された特別編であります。
これまでもブログで紹介してきたように(最新二号は紹介できていないのですが)、私も「お江戸ねこぱんち」は第一号から全て読んでおります。
そんなわけで本書は軽い気持ちで手に取ったのですが、しかし振り返ってみれば第一号の刊行は2010年と六年前で、かなり記憶も薄れている上に、こちらはチェックしていなかった「おとなのねこぱんち」誌掲載作が一つ、さらに書き下ろしが一つということで、やはりこれは紹介せねば! と思った次第。
さて、それでは掲載作品は、と言えば以下の通り――
『明け六つの猫』(ほしのなつみ)(全四話)
『華纏想い猫』(清水ユウ)
『猫姫』(山野りんりん&島村洋子)(前後編)
『大奥 三毛猫始末』(結城のぞみ)
『大奥 白猫騒動』(結城のぞみ)
『猫飛脚』(鷹野久)
『しばふね』(紗久楽さわ)
『あたうち』(紗久楽さわ)
『物見の文士 柳暗花明』(晏芸嘉三)
上で述べたとおり、2010年第一号から13年第八号までの掲載作を中心に、『しばふね』のみは「おとなのねこぱんち」誌、『物見の文士』は書き下ろしとなっています。
そんな本書、表紙では「特集 大奥猫物語」となっていますが、収録作品のうち、山野りんりんと結城のぞみの二作品全四話が大奥を題材としているためで、正直なところ、それほど特集という印象ではありません。
とはいえ、特に徳間文庫の『大江戸猫三昧』に収録された島村洋子の小説を原作とする『猫姫』は、猫がきっかけでお末から思わぬ出世を遂げ、将軍の側に侍った主人公の数奇な運命と、彼女から将軍の寵を奪った娘の思わぬ因縁を描いて、強く印象に残る作品であります。
(それにしても二作品とも、猫の扱いがもとで大奥で出世していく少女、というシチュエーションが共通しているのは面白い)
その他、個人的に印象に残ったのは、初出時に紗久楽さわが蜜子名義で発表した二作品。『あだうち』の方は既読(このブログでも紹介)ですが、『しばふね』の方は初読で、これがまた実によい作品。
青年二人が乗った雪見船に、青年の一人に妙に懐いた猫まで乗ってきて……という一幕なのですが、青年たちの他愛もないやりとりが楽しく、そこに猫が絡む理由がまたおかしくも切ない、洒落た味わいの作品であります。
もう一作品、巻末に収録された晏芸嘉三『物見の文士』シリーズの最新作は書き下ろし作品。「見え」てしまう体質の文士・夜都木周平先生を主人公とするシリーズですが、しかし舞台は明治の作品が「お江戸」とは――
と思いきや、今回は先生と親友の新聞記者が、招き猫が変じた不思議な猫に誘われて、どう見ても明治の風俗ではない遊郭に迷いこんで……という展開で、なるほどタイムスリップね、と思いきや、これが一筋縄ではいかないところが実に面白い。
興を削いではいけないのであまり詳しくは述べませんが、現にありながらも一種の虚構の世界ともいうべき吉原の存在を、このように処理してみせたというのはあまりない趣向。
正直なところいささか台詞量が多いのは気になるものの、ひねりの効いた内容に好感が持てました。
というわけで、傑作集と言っても読みどころの多い本書、ぜひ残る号の収録作品も……と思いますし、何よりも本誌の続きも、と願うところであります。
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