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2016.12.31

このブログが選ぶ2016年ベストランキング(単行本編)

 昨日の続き、単行本の2016年ベストランキングであります。こちらも2015年10月から2016年9月末発刊の時代小説・歴史小説について、皆様にお勧めしたい6作(シリーズ)を挙げていきます。

 ある意味文庫書き下ろし以上に範囲が広い単行本。文庫書き下ろしには少ない歴史小説が含まれるため当たり前ではありますが、私のランキングの方も、歴史小説に含まれるものが大半となりました。

1位『室町無頼』(垣根涼介 新潮社)
2位『真田十勇士』シリーズ(松尾清貴 理論社)
3位『ドナ・ビボラの爪』(宮本昌孝 中央公論新社)
4位『半席』(青山文平 新潮社)
5位『戦国24時 さいごの刻』(木下昌輝 光文社)
5位『信長さまはもういない』(谷津矢車 光文社)

 1位は、応仁の乱の数年前を京を舞台に、上は腐敗の極み、下は貧困の極みという時代に風穴を開けようとする三人の男たちを描いた作品です。
 現代と大きく重なる舞台と物語設定の的確さもさることながら、何よりもタイトルに示される「無頼」のあり方が何とも痛快。単純に既存の法に縛られないというだけでなく、この世界に己以外に頼む者無い、独立独歩の精神――一種の内部規範としての「無頼」概念は、かつての柴錬のそれを髣髴とさせるものがあります。

 主人公の一人である少年・兵庫の危険極まりない武術修行のシーンなど、エンターテイメントとしての面白さももちろん超一級の作品であります。

 2位は――こうした表現は誰に対しても大変失礼なものではあるのですが――私以外がこの作品を推していないのが全く理解できない真田ものの快作。戦国時代の背後に潜み、恐るべき陰謀を展開する百地三太夫に抗する真田幸村と彼の下に集った勇士たち……という伝奇活劇としても屈指の面白さを誇る本シリーズですが、さらに驚かされるのはその物語を貫く基本構造です。

 本作においては「天下」という概念を、従来の武士と土地の結びつきを解体し、個としての人間性を否定しかねないものとして設定。その構図と、戦乱の中でそれぞれに人間性を否定されてきた勇士たちの姿が重なり、天下vs人間性とも言うべき物語へと展開していくのはただ圧巻、必見の作品であります。

 そして3位は、伝奇性豊かな歴史小説を描けば当代きっての達人が久々に描いた長編伝奇の快作。長の正室として知られながらも歴史の闇に消えた道三の娘・帰蝶を物語の中心に据え、その意思を継ぐ者たちの復讐絵巻を展開させてみせた物語展開の妙には引き込まれるばかり(特にタイトルの「ドナ・ビボラ」の正体がわかった時の驚きたるや!)

 復讐もの故の重さ、暗さは否めないものの、ラストに描かれる痛快な大どんでん返しは、まさしく作者ならではの爽快な味わいであります。

 4位は時代小説ファンと同時にミステリファンに好評を以って迎えられた作品です。徒目付の青年が、内々に持ち込まれる問題の解決に奔走するという物語ですが、面白いのはそのいずれもが、下手人が判明し、すでに表向き事件は解決しているものの、「何故」という点のみが不明であること。
 つまりホワイダニットのミステリとして読むことができる作品なのですが、そこに武士と人間の間に揺れる人々の姿、そして出世だけを求めることが人生かと悩む主人公の姿が重なり合うことにより、時代小説として、そして一種のビルドゥングスロマンとしても高レベルの作品であります。

 そして5位は同率2作品。まず『戦国24時』は、戦国時代の大事件、有名人の死の直前24時間を取り出し、そこに秘められた人の心、事件の真相を浮き彫りにしてみせるという、歴史小説の基本構造を濃縮してみせたような極めて意欲的な連作短編集。
 そして『信長さまはもういない』は、信長の乳兄弟・池田恒興を、信長の指示なしでは何もできない男として描き、本能寺以降の混乱の中で右往左往する姿をコミカルに、そしてどこか哀しく描く物語であります。

 近年躍進著しい若手歴史小説作家ならではの新鮮な感性が光る両作品、いささか失礼な表現かもしれませんが「俺たちの世代」の作品として、いま読まれるべき作品であると信じるところです。


 以上、駆け足ではありますが今年の単行本ベストランキング、次点としては、『大東亜忍法帖』上巻(荒山徹 創土社)を、下巻が無事刊行されるよう祈りを込めて、挙げたいと思います。



 『室町無頼』(垣根涼介 新潮社)(芝村凉也 講談社文庫) Amazon
 『真田十勇士 1 忍術使い』(松尾清貴 理論社) Amazon
 『ドナ・ビボラの爪』上巻(宮本昌孝 中央公論新社) Amazon
 『半席』(青山文平 新潮社) Amazon
 『戦国24時 さいごの刻』(木下昌輝 光文社) Amazon
 『信長さまはもういない』(谷津矢車 光文社) Amazon

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