『コミック乱ツインズ』2017年1月号(その一)
今年最後の(号数で言えば来年最初の)、そして創刊14周年の『コミック乱ツインズ』誌の紹介であります。恒例の池波正太郎原作作品は大島やすいちの『江戸怪盗記』、ゲスト読み切りは速水螺旋人の『鬼と兵隊』と、この雑誌らしいバラエティの豊かさであります。今回も、特に印象に残った作品を紹介しましょう。
『勘定吟味役異聞 破斬』(かどたひろし&上田秀人)
父親の商売敵に捕らえられ、あわや落花狼藉のヒロイン・紅を救うべく走る聡四郎は……という緊迫の展開。
ですが、その結末がいささかすっきりしない上に(原作でもそうだったかしらん)、後半は静かな展開が続くのが、個人的には少々残念な印象であります。
にしても、怒りに任せて自分から破落戸を叩き斬りに行く主人公や、敵方の豪快な策略など、最近の原作者の作品ではあまり見られない展開で、妙なところで感心してしまいました。
『鬼と兵隊』(速水螺旋人)
冒頭で紹介した今回の特別読み切りですが、ミリタリー漫画家がどのような作品を……と思いきや、本作もやはりミリタリーもの、しかし何ともゆるくて暢気な味わいの物語です。
第二次大戦中の中国大陸で、「鬼(おばけ)」に出会ってしまった一人の日本兵。何故か日本軍の砦に行きたいというおばけに対し、彼は自分もおばけだと偽って連れて行くことになります。
砦に着くや、おばけを捕まえたと大声を上げる兵隊ですが、仲間たちが見たのは――
という本作、何故おばけが砦にやってきたか、という理由が何ともおかしくもちょっと哀しいのですが、オチも含めて何とも微笑ましい感触。これが時代劇か、いやもはやこの時代の物語も時代劇なのだ、などと堅いことを言うことなく楽しみたい作品です。
ちなみに本作のベースとなっているのは中国の怪奇小説集『捜神記』の「売鬼」という物語。前半は意外なくらい原典を活かした内容となっており、こちらを知っていると楽しさも倍増であります。
『怨ノ介 Fの佩刀人』(玉井雪雄)
怨敵・多々羅玄地を北へ北へ追ってきた怨ノ介の旅も、出羽国月山に到着。そこで彼は何者かに追われる刀鍛冶の男と同行することになるのですが、男が持っていた舞草刀も魔刀の一つでありました。
その男に関わるなという不破刀の言葉も聞かず、逆にこれからは武士の仇討ちだからと不破刀(の魔女)と別れを告げる怨ノ介。そして再び現れた刀鍛冶の追っ手と対峙した彼が知る意外な真実とは――
これまでのどこかゆるい雰囲気とは一転、ほとんどシリアス一辺倒の今回。初めて不破刀を手にした時にはてんで素人だった怨ノ介も、既にいっぱしの剣士として行動することになるのですが……しかし物語は、彼の復讐譚を超えた域に踏み込んでいく様子を見せます。
刀鍛冶の男が語る伝説の刀鍛冶・鬼王丸――鬼と刀の物語は何を意味するのか。鬼とは、魔刀とは何なのか。一方でその問いかけは、怨ノ介自身の物語にも深く繋がっていくこととなります。
朧気ながら敵の真実、巨大な怨念の姿が見えてきたようにも思えますが、果たして魔女と別れた怨ノ介はこの怨念に打ち勝つことができるのか。クライマックスは目前でしょうか。
またもや長くなってしまいましたので、二回に分けたいと思います。
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