『コミック乱ツインズ』2017年1月号(その二)
『コミック乱ツインズ』誌2017年1月号の作品紹介のその二であります。
『すしいち!』(小川悦司)
今回は鯛介はお休みで、おりんが主役を務めるエピソード。かつて亡き父に連れられて来ていた浅草寺の御開帳に来た彼女が、晩年仲違いしてしまった父のことを思い出しているうちに不思議な寿司屋と出会って……という物語であります。
その寿司屋の名は「聖寿司」。そして職人の眉間には膨らみが……と、まさか○○様が寿司を! という展開にはひっくり返りました。
が、既にこの物語の時点で浅草では採れなくなっていた浅草海苔が……というのは物語的にも料理的にもうまい絡め方で、またそれがおりんと父の思い出に繋がっていくのには、ただお見事というべきでしょう。
『エイトドッグス 忍法八犬伝』(山口譲司&山田風太郎)
村雨姫の懇請に応え、奪われた八玉を奪還するために始まった犬士たちと、服部のくノ一たちの忍法合戦第一番の後半戦が描かれる今回。
己を影に変える忍法「摩羅蝋燭」で二人のくノ一を打ち、このまま一気に全員を抜くか……という勢いの犬坂毛野の活躍が描かれることとなりますが、いや、やはりハッタリの効いた忍法合戦は良いものです。
しかし服部忍軍の総帥たる半蔵の前にはさしもの毛野も苦戦必死、そして多勢に無勢の果てに……という展開は、これもまた忍法帖の美学でしょう。無頼の男たちが、純粋無垢な聖姫のために死地に赴くという本作の基本構造は、今回も美しく描き出されます。
と、敵味方はイーブンとなったものの、敵の追っ手に追いつめられた村雨姫。そこに救いの手をさしのべたのは、美しい外見に似合わぬ鉄火な口調の美少女(?)と剽げた外見の男で……という、実にニクい引きで次回に続きます。
『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
政宗の生涯でも最悪の事件である父・輝宗の死を描く一連のエピソードも今回でひとまずのラストとなります。
畠山義継に捕らえられ、息子の夢を守るために自ら死を選んだ輝宗と、怒りに燃えて敵を鏖殺した政宗(義継への振る舞いにはちょっと引きますが……)。
それで全てが終わったわけではなく、政宗は、そして畠山方も報復戦を決意。しかしそれ以上に、ようやく和解できたかに見えた政宗の母は、政宗に対して恐るべき疑念を――
というドシリアスな展開が続くのですが、そんな中でまさしく一世一代のとんでもないギャグをぶちかました輝宗が全てを持って行った感があります。いや、ここでこのネタを持ってくるのにはある意味感心。
その他、『江戸怪盗記』(大島やすいち&池波正太郎)は、ここしばらく『剣客商売』を漫画化してきた作者が鬼平と外道盗人・葵小僧の対決を描く、というのが目を引く作品。が、葵小僧の造形はなかなか面白いものの、絵的にも構成的にもかなり苦しいというのが正直な印象でした。
そして次号で池波正太郎を漫画化するのは何と原秀則。いやはや、全く予想もしていなかった組み合わせであります。
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