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2016.12.27

山口貴由『衛府の七忍』第3巻 新章突入、南海の守護者と隻腕の武士と

 治国平天下大君として天下に圧政を敷き、まつろわぬ民たちを駆り立てる家康の「覇府」に対して立ち上がった七人の「衛府」よりの使者・怨身忍者たちの活躍を描く本作も、はや単行本第3巻。葉隠谷のカクゴと現人鬼・波裸羅、二人の宿命の激突の行方は、そして南海に出現する新たなまつろわぬ民とは――

 真田の遺臣の娘・伊織を守り、家康に戦いを挑むため旅を続けるカクゴ。怨身忍者・零鬼の力を持つ彼に対して幕府が刺客として差し向けたのは、常人を超えた美貌と暴力性を備えた両性具有の怪人、現人鬼・波裸羅であります。
 カクゴ同様、霞鬼に変身する力を持ちながらも家康に与する彼は、自らを囮にカクゴらを誘き寄せる策(しかも全裸の女に化けて牛裂きの刑にかけられるという無茶すぎる策)に出ることになります。

 まんまとその罠にはまったカクゴは、幕府の忍者と壮絶な忍法合戦を繰り広げた末にこれを退けたものの、正体を現した波裸羅の圧倒的な力に追い詰められることに。
 そしてさらに二人に迫るは、やはり家康に与する吉備津彦命の配下、お伽話の登場人物(?)たちから取られた外見と能力を持つ奇怪な累人たちの群れ。圧倒的な力を持つ敵の前に二人が絶体絶命となる中、波裸羅の行動は――


 いきなりラスボス級の存在である波裸羅様の登場、それもある意味因縁の相手であるカクゴとの対決と、見どころ満載となったこの「霞鬼編」。
 「衛府の七忍」の一人であることは間違いないものの、これまで(?)以上に奔放無頼の存在と化した波裸羅様、それもあろうことか権力側に与してしまった彼が、本当に衛府の同志となるのか?

 これまで以上に先が読めないエピソードですが、蓋を開けてみれば、強大かつ奇怪な敵とカクゴが繰り広げる死闘を存分に描きつつ、波裸羅の凄みと、彼の変身いや変心を説得力を持って描く展開に大いに納得であります。(それにしても、今日び「頭に”忍法”って付いているから忍法なの!」的な技の数々を見ることができるとは……)

 特に波裸羅が終盤で取る行動については、その理由をあからさまに描くことなく、それでいて彼ならばこそと思わせてくれるのが素晴らしい。
 彼ならではの孤高の美学と、それ以上に彼もまたまつろわぬ民、人々に圧政を敷く者と、その下でさらに弱き者たちを虐げる者たちによって虐げられてきた者の一人なのだと……そのキャラクターを崩すことなく描いてみせたのには脱帽であります。

 もっとも、だからといって彼がおとなしくカクゴや伊織と行動と志を共にするとも考えられないのですが……それはこの先のお楽しみでしょう。


 そしてこの巻の後半からスタートするのは第五章というべき「霹鬼編」。「霹」といえば、本作のモチーフである『エクゾスカル零
』においては美少年・九十九猛が装着した強化外骨格の名ですが――
 本作に登場するのはその姿を一変させた野性味溢れる美青年、琉球の九十九御城の護り手、ニライカナイの戦士たる猛丸であります。

 ……なるほど、これまで時の権力に虐げられる数々のまつろわぬ民たちを描いてきた本作ですが、この時代の琉球人ほどそれに相応しい――という表現を使ってよいのかは悩ましいところですが――人々はいないでしょう。
 本作における最大の敵たる徳川幕府(だけ)ではなく、島津家の圧政の下にあった琉球。本作はその琉球の民を描くに当たり、さらなるドラマを用意しています。

 本作の舞台は大坂の陣の直後。これまでの章でも豊臣家残党を巡る物語が幾度となく描かれてきましたが、今回登場するのはその首魁ともいうべき豊臣秀頼……生きていた秀頼が薩摩に落ち延びたという説は有名ですが、本作はさらにその先の琉球にまで到着していたという設定であります。
 そして何よりも驚かされるのは、その秀頼に仕える隻腕の武士の存在。その名は犬養幻之介――そう、あの『シグルイ』の藤木源之助をモチーフとした青年武士であります。

 いわゆるスターシステムを採っている本作において、源之助の登場は意外ではないと言えばその通りですが、しかしやはり元作品で彼の辿った運命を考えれば、気にならないわけがありません。それも、今回も仕える主君が明らかに暗君と来れば――

 この巻における猛丸との出会いが、果たして幻之介に何をもたらすことになるのか……そして猛丸に何をもたらすのか。今から次の巻が大いに気になるではありませんか。


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