吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第4巻 尖って歪んだ少年活劇
家族の仇を討ち、妹を救うために鬼との孤独な戦いを続けてきた炭治郎。ついに仲間が登場と思いきや、これが相当の珍キャラだった上に、さらにもう一人、この巻ではこれまた大いに変な奴が登場することになります。何はともあれ三人パーティとなった彼らの次なる敵は、しかし桁違いの力を持つ存在で――
鬼たちが潜み、鼓の音とともに姿を変える不気味な閉鎖空間と化した屋敷に、超絶ヘタレの同期・我妻善逸とともに挑み、何とか強敵を打ち倒した炭治郎。しかし外で待っていたのは、途中ではぐれた善逸が謎の猪の頭を被った男にボコボコにされている姿でした。
禰豆子の入った箱を守って殴られまくった善逸に代わり、猪男に挑む炭治郎。しかし相手の正体は、彼らと同期の鬼殺隊士……最終試練の場には誰よりも早く来て誰よりも早く帰ったという凄い理由で今まで顔を見せていなかった、五人目の合格者――嘴平伊之助でありました。
猪突猛進という言葉を人間にしたような伊之助を、独特の天然すぎる包容力で受け止めてしまった炭治郎。なんだかんだで行動を共にすることとなった三人に下った次の指令は、那田蜘蛛山に急行することでしたが、しかしそこでは先輩隊士たちを次々と毒牙にかける、恐るべき鬼たちの姿が――
というわけで仲間と言ってよいものか色々と不安ではあるものの、新たな面子が加わった今回。
前巻で登場した善逸は、超へたれで利己的で、しかし根っ子の部分では弱い者を守ろうとする気持ちが強いという(そして意識を失うと真の実力を発揮するという)実に面白いキャラクターでありました。
今回登場した伊之助は、猪の頭をかぶった上半身裸の男という一歩間違えればホラー映画の殺人鬼的ビジュアルながら、言動はいわゆるバトルマニア(というより極度の単純○○)、しかして素顔は美少年という、これまた実に尖った造形のキャラです。
これは炭治郎もそうした点が多分にありますが、少年漫画然としたところから意図的に尖らせた、あるいは歪ませた彼らのキャラクター造形は、同様の方向性を持つ物語と相まって、本作ならではの不思議な味わいを――生々しさを独特の間のコミカルさでくるんだものを生み出していると感じられます。
この巻でもそうですが、描かれている内容は相当に血生臭く容赦ないものでありつつも、不思議に不快感を感じさせないのは、この独特の味付けによるものでしょう。
そしてその上で、炭治郎の鬼に対しても見せる優しさ、善逸の中に眠る強さ、伊之助のホワホワ(?)と、彼らの中の善き部分、あるいはその成長が描かれるのが、なかなか気持ちがよいところであります。
もっとも正直なところ、毎回指令が来て鬼退治点という展開は、炭治郎にとっては鬼の血集めという目的に沿ってはいるものの、こちらにとっては物語全体の方向性というものが見えないのが、いささか歯がゆいところではあります。
どのようにこの先手札を切っていくかは、作者の中では決まっているのだとは思いますが――
何はともあれ、強敵との対決は半ばで終わったこの巻。炭治郎たち三人がこの先どのように戦いの中で成長していくのか、そして物語の冒頭以来久々に登場した鬼殺隊の「柱」――冨岡義勇の力はいかほどのものなのか。
久方ぶりに少年漫画の楽しさを味わっているところなのであります。
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