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2016.12.17

仁木英之『神仙の告白 僕僕先生 旅路の果てに』 十年、十巻が積み上げてきたもの

 ニート青年・王弁とボクっ子美少女仙人・僕僕の冒険を描いてきた『僕僕先生』も本作でついに開始から十年目、そして十巻目を迎えました。物語の方もいよいよクライマックスに突入、神仙界の恐るべき決定を前に僕僕の真意が問われる中、天上の英雄たちが次々と参戦し、事態は混沌を極めることに――

 これまでの旅の中で幾度となく僕僕一行の前に現れ、対峙してきた王朝の密偵集団・胡蝶の長・貂との決戦の末、劉欣を失った一行。
 ひとまず皇帝に仕える仙人であり僕僕とも旧知の司馬承禎のもとに身を寄せる一行ですが、王弁が突然の目覚めぬ眠りに落ち、僕僕は彼を救うための材料を求めて世界を回ることとなります。

 王弁を乗せてきた神馬の吉良、長らく一行から離れていた薄妃とともに星々の世界にまで足を踏み入れる僕僕ですが、各地で彼女を待ち受けるのは伝説に名を残す仙人や英雄たち、そして物語の陰で暗躍してきた怪仙人・王方平。
 その背後には、いずれこの世界のバランスを崩すと思われる人界を滅ぼすという決定を下した神仙界があるのですが……僕僕は神仙界と人界、果たしてどちらの側につくのか。いやそもそも、僕僕とは何者で、何を思って人界を旅するのか?

 そしてその一方で、胡蝶の残党を掌中にした司馬承禎は僕僕を裏切り、王弁の中に潜むある力を甦らせることで、都を大混乱に陥れます。果たして王弁は目覚めることが、再び僕僕と出会うことができるのか――


 と、まさに風雲急を告げる展開の本作。そもそも主人公である王弁がほとんど寝ているという時点で異常事態ですが、世界滅亡の瀬戸際なのですからそれどころではない……というより、あるいは王弁こそがその鍵!? という状況なのであります。
 そして僕僕の方も、これまでの作品でフラッシュバック的に描かれた過去の姿が改めて問われることになりますが、しかし彼女を巡るドラマはそれだけではありません。

 今回登場するのは、彼女が長き時の中で取ってきた弟子たち……いわば王弁の先輩たち(その中にはとんでもない大物も!)。彼らの存在からわかるのは、気ままに見えた彼女の旅にもある意図があったこと、そしてそれがこれまで成功してこなかったということであります。
 王弁は初めての成功例なのか、それでは王弁は僕僕の道具に過ぎないのか? 疑問と謎は山積みなのです。


 そしてそんな物語をさらにややこしく、そして賑やかに盛り上げるのはスペシャルゲストの面々であります。

 かつて御仏(今回語られる神仙と仏の関係も実に興味深い)の教えを求めて苦しく長い道のりを旅し、その功で今は天上界で暮らすあの三人組。そして吉良と同族の赤い天馬に乗り、自慢の美しい髭を靡かせる義の武人。
 彼らもこの世界に存在していたのか(いや、存在して当たり前なのですが)と驚いたり納得したりのビッグゲストたちです。

 一歩間違えれば、ここまでの大物の前に既存のキャラクターが食われたり、あるいはゲストが物語から浮いてしまうこともあるわけですが、しかし本作に限ってはもちろん心配ありません。
 僕僕たち登場人物も、物語そのものも、彼らの存在をしっかりと違和感なく渡り合い、受け止めているという印象があります。

 それを可能とするのは、もちろんこの『僕僕先生』という物語が、その中で生きてきたキャラクターたちが、ちょっとやそっとのことでは揺るがない、しっかりとした「厚み」を備えているからにほかなりません。
 冒頭で述べたように、十年十巻――その積み重ねてきたものの存在を、強く感じさせられた次第です。


 と言いつつも、物語の方は別の意味で大揺れであります。文字通りの闇落ちを仕掛けた王弁に対し、タイトルどおりの行動を取る僕僕。それがこの世界を救うことになるのか――
 そして最後の最後で王弁が出会うこととなるのは、全くもって思いも寄らぬ人物。あの、ある意味シリーズ最大の問題作とここで繋がるとは! と、とにかく驚きの結末としか言いようがありません。

 本シリーズはいよいよ次巻で完結とのことですが……これだけ衝撃的な引きを見せられたら、もう今すぐにでも次を読みたい! としか言いようがありません。
 結末目前という感慨よりも、そんなわがままな想いが遙かに強いというのが、正直なところなのであります。


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神仙の告白 僕僕先生: 旅路の果てに


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