『コミック乱ツインズ』 2017年2月号
リイド社の『コミック乱ツインズ』誌の2月号は、新連載が池田邦彦『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』、連続企画の池波正太郎時代劇スペシャルは原秀則『恋文』という、なかなか意外性のある内容。今回も、印象に残った作品を一作品ずつ紹介していきたいと思います。
池波正太郎 時代劇スペシャル『恋文』(原秀則&篁千夏&池波正太郎)
というわけで毎回作品と、それ以上に作画者のチョイスに驚かされる企画ですが、今回はその中でも最大クラスの驚きでしょう。ラブコメ・恋愛ものを得意としてきた原秀則が初めて時代漫画を描くのですから。
ある日、想いを寄せていた足袋問屋の娘・おそのから付け文を受け取った丁子屋奉公人の音松。親の縁談を嫌がり、自分を連れて逃げて欲しいという内容に、待ち合わせ場所に向かった音松ですが、しかしいつまでも彼女はこない。
それもそのはず、その付け文は、店の同僚とその仲間が音松をからかうために書いた偽物。しかし、真に受けた音松が店の掛取り金を持ち逃げしていたことから、思わぬ惨劇が……
という前半から、後半のおそのの復讐劇と大きく動いていく物語を、作画者はこれが初時代漫画とは思えぬ達者な筆致で描写。特にキャラクター一人ひとりのデザイン、そして浮かべる表情が実に「らしい」のに感心させられます。
特に絶品なのは、後半の主人公となるおそのの描写。思わぬ運命の変転に巻き込まれた彼女、無口な箱入り娘に過ぎなかった彼女が見せる思わぬ強さ、怖さ、逞しさを、浮かべる表情一つ一つの変化で浮かび上がらせるのには、お見事としか言いようがありません。
『エイトドッグス 忍法八犬伝』(山口譲司&山田風太郎)
トーナメントバトルの華ともいうべき敵味方のリスト(死亡者に×印がつく)が表紙でいよいよテンションがあがる忍法合戦。そのリストから里見方・服部方二名づつが消え、八玉も二つまでが村雨姫の手に戻ったものの、まだまだ圧倒的に不利な状況。
追い詰められた村雨姫の前に現れたのは、胡散臭い香具師の男と、娘姿の美青年で――
というわけで登場した当代の犬山道節と犬塚信乃ですが、他の八犬士同様、この二人もお家に対する忠義心は薬にしたくともない奴らですが……いや、彼らにないのはあくまでも「お家に対する」忠義心。再び村雨姫を追い詰める服部忍軍の外縛陣に対し、道節が立ち上がることとなります。
ここで驚かされるのは原作では無名だった道節の忍法に名前が付いた点で……というのはさておき、これは原作どおりの名セリフとともに道節が必死の働きを見せるシーンは、彼がなんともすっとぼけた表情だけに、大いにインパクトがあったところです。
『怨ノ介 Fの佩刀人』(玉井雪雄)
武士として仇討をするため、不破刀と別れを告げた末、ついに怨敵・多々羅玄地の潜む巌鬼山神社に到着した怨ノ介。その前に現れたのは、不破刀とは瓜二つの少女――当代の玄地の娘でありました。
父に代わり仇討ちを受けて立つという娘とは戦うことができず逃げ出した怨ノ介の前に現れたのは、以前出会った無頼漢・倦雲で……
というわけでクライマックスも目前となった本作、前回描かれた日本刀そもそもの由来にまつわる物語……伝説の刀鍛冶・鬼王丸の物語が再び思わぬ形でクローズアップされ、怨ノ介と多々羅玄地の因縁に繋がっていくのには驚かされますが、しかし真に驚かされるのはその先にある、玄地の真実。
何故彼が怨ノ介の家を滅ぼしたのか……一見通俗的な時代劇めいた御家騒動に見えたその背後にあった真実の無常さ、異常さを何と評すべきでしょうか。
というわけでここに来て一気に物語の構図が逆転したのにはただただ絶句させられますが、それだけに最後に描かれる当代玄地の姿はちょっと残念なところ。……いや、それもこの異常な「機関」が生み出したものというべきでしょうか。この永久継続の地獄にいかに怨ノ介が挑むのか。結末が楽しみです。
(そして今回もさらりと深いことを呟く倦雲がまたイイのです)
その他、新連載の『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)は、鉄道黎明期の私鉄という非常にユニークな題材の物語ですが、個人的にはちょっと登場人物の思考についていけないものがあった……という印象。
また『仕掛人藤枝梅安』(武村勇治)は、原作の「後は知らない」の漫画化。依頼の金額の大きさから標的の強さを悟り、闘志を燃やす梅安というのは、この作画者ならではのビジュアルだなあ……と感心いたしました。
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