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2017.01.14

輪渡颯介『溝猫長屋 祠之怪』 四人の子供、幽霊を「感じる」!?

 『古道具屋皆塵堂』シリーズも完結し、寂しい気持ちでいた輪渡ファンに嬉しいプレゼント……言うまでもなくユニークな新たの怪談が登場しました。長屋を舞台に、おかしな習いのおかげで幽霊と出くわすようになってしまった四人の子供たちが引き起こす騒動を描く快作であります。

 その名のとおり、何匹もの猫たちが溝の中までゴロゴロしている溝猫長屋。一見、どこにでもあるようなこの長屋ですが、一つだけ余所とは違う点があります。
 それは長屋の奥にある祠を、長屋に住んでいる男の子でその年に一番の年長が毎朝お参りすること――

 何年にも渡り行われてきたこの行事(?)に今年当たったのは、十二歳の忠次、銀太、新七、留吉の四人。何やら曰くありげな周囲の大人たちの態度に不審を抱きつつ、毎日を過ごす四人ですが、やがて彼らの周囲で奇怪な、いや怪奇な事件が起きます。
 人死にがあったという近所の空き家から、新七は鼻の曲がるような悪臭を嗅ぎ、留吉は子供の声を聞いたことから、家の中に忍び込んだ四人。そこで忠次は、見るも無惨な姿の子供の幽霊と出くわしてしまったのです。

 実はかつてある事件で殺されたお多恵という女の子を祀る長屋の祠は、拝んだ子供たちが、皆「幽霊がわかる」ようになってしまうという曰くつきのものだったのです。それも「嗅ぐ」「聞く」「見る」と一人ひとり別々の形で。
 かくて、次々と妙な形で幽霊に遭遇することになってしまった四人ですが、その幽霊たちには奇妙な共通点が――


 というわけで、本作においても、かなり怖い怪談と、ユーモラスで人情味が効いたちょっとイイ話、そして隠し味のミステリ趣向という輪渡ワールドの魅力は健在……というより絶好調であります。

 思わぬことから幽霊騒動に巻き込まれるようになってしまった個性豊かな四人の子供――主人公格の忠次、悪ガキ……というよりア○の銀太、優等生の新七に弟妹の世話に追われる留吉――を中心に、子供目線で展開する物語は、何とも賑やかで微笑ましく、それでいて容赦なくコワい展開の連続で、まさに「これこれ」とニンマリしたくなるほど。

 何よりも怖楽しいのは、彼らが幽霊を感じるのが、毎回視覚・嗅覚・聴覚と一人ずつバラバラであることであります。
 それもある感覚で経験すれば、同じ感覚には連続で当たらず、次は別の感覚で幽霊を感じるというルール(?)が何ともユニークで、幽霊の出現にバリエーションを付ける面白さはもちろんのこと、それを知った子供たちのリアクションもまた愉快なのです。

 しかし、感覚は三つ、子供は四人……ということは毎回一人余ることになるのですが、その辺りがどうなるかがまた非常に楽しい。
 この辺り、作者の別の作品を連想させるところもありますが、奇妙な設定が生む悲喜こもごものシチュエーションが、また一層可笑しさを生むのが、いかにも作者らしいところでしょう。

 そして作者が得意とするといえばデビュー作から一貫する、怪談の中のミステリ味。
 本作の最初のエピソードで語られるのは、かつて押し込み強盗に殺された子供の存在なのですが、以降、様々な形でその悲劇は後を引き、実は……という形で、大きな物語に繋がっていくのも、実に好みの趣向です。


 そして本作には、もう一つ魅力があります。それは、元気な子供たちを見守る周囲の大人たちの存在であります。

 口うるさく説教ばかりながら、子供たちを深く愛する大家さん。長屋のOBで元は相当やんちゃをしながら、今は「泣く子も黙る」弥之助親分。子供たちにナメられがちな寺子屋の師匠にして、とんでもないもう一つの顔を持つ蓮十郎先生。
 これまた個性的な面子ですが、共通するのは、子供たちに振り回されつつも、時に厳しく、しかし暖かく彼らを見守ること――

 どれだけ幽霊が、悪人が恐ろしくとも、どれだけ子供たちが騒動を起こそうとも……それを受け止め、子供たちを守り導く大人たちの存在が、大人がきちんと「大人」していることが、幽霊が跋扈する本作において、地に足の着いた安定感を与えているのです。


 こうした長屋の面々に、大店の娘でトラブルメーカーの美少女・お紺も加わって、まさに役者は揃ったというこの溝猫長屋の物語、この一作で終わるということはまさかありますまい。
 コワくておかしくて、そして優しい……そんな物語がこの先も描かれていくことを期待しております。


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溝猫長屋 祠之怪

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