片山陽介『仁王 金色の侍』第1巻 海から来た侍、その名は……
実に13年前に第一報が出て以来、発売されることなく時は流れ、ついに今年発売に至った際には公式がネタにしたほどの(正直それはどうかと思いますが)ゲーム『仁王』。本作はその漫画版――日本に漂着した金毛碧眼の侍・ウィリアムと魑魅魍魎との戦いを描く物語です。
時は1600年、徳川家康と石田三成の間の緊張が爆発寸前の頃に日本に漂着した一隻の異国船。「愛」を意味する名のその船に乗っていた金髪の大男・ウィリアムは、海に投げ出され、岸に漂着したところを、漁村の少女に救われます。
折しも漁村は野武士の一団に蹂躙され続け、少女も、かつて彼らに逆らった父を殺されたという過去の持ち主。そして今また来襲した野武士に対し、ウィリアムが立ち上がる――
と、この第1話の展開は、もはや懐かしいような典型的バイオレンスもののそれ。ヒャッハーな連中に蹂躙される弱き者を救うため、正体不明の来訪者が一人戦いを挑む……というあれです。
しかし本作が独自の展開を見せ始めるのは、ウィリアムと野武士の長が激突した時からであります。
常人離れした力でもって野武士たちを叩き伏せるウィリアムに対し、長が見せた奥の手。それはアムリタなる秘薬の力により、我が身を奇怪な鬼と変えることだったのです。
しかしウィリアムにとってそれは、意外ながらも望んだ展開。実は彼は、そのアムリタを用いて他者を怪物とする者を追って、この日本にやってきたのですから。
そして両者の戦いを見つめる忍び、その名も服部半蔵正就(!)の思惑とは――
冒頭に述べたとおり、ゲームを原作としている本作。私は今のところゲームの方は未プレイですが、本作はそんな人間でも問題なく楽しめる(時折、これはゲームに登場する用語なのだろうな、というものはありますが、それも気にならず)、一個の作品として成立しております。
何よりも気に入ったのは、主人公「ウィリアム」の存在。
彼とその船の名、そして日本を訪れた年からすれば、彼が何者なのかはほぼ明らかですが、しかしまさかあの人物が――そもそも主人公になるのも珍しいのに――これほどのバイオレンス伝奇ヒーローになるとは! と大いに驚かされました。
そしてその相棒的存在になるのが、部下にストライキを起こされたことで悪名高き三代目服部半蔵正就というのにも驚かされますが、本作の正就は、そうした史実とは無縁の、人間臭い若者として描かれているのが面白い。
家康に仕えることは史実通りの彼ですが、その目的・信念は、ウィリアムのようなヒーローとはまた異なる、常人サイドのキャラクターとして描かれていると言えるでしょう。
さて、この第1巻の後半では、正就に誘われて黒田如水・長政親子が守る豊前中津城を訪れたウィリアム(史実で彼が漂着したのは豊後なのでそれなりに平仄はあっている)が、城を襲う魑魅魍魎の群れと戦うことになります。
この辺り、魑魅魍魎にまともにダメージを与えられるのはウィリアムのみ、という物語のルールを踏まえて、正就や長政たちが彼らなりの戦いを見せるというのは、なかなか面白いところであります。
正直に申し上げれば、バトル描写、特に籠城戦のそれにはかなりガチャガチャした印象を受けるのですが、しかしこれまで述べたとおり、史実とのリンク、そして史実との違いが楽しく、それなりに楽しめる本作。
この先ウィリアムの戦いが、日本にどのような影響を与えていくのか……ゲームとは独立した、もう一つの『仁王』の物語が描かれることに期待したいところです。
『仁王 金色の侍』第1巻(片山陽介&コーエーテクモゲームス 講談社週刊少年マガジンKC) Amazon
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