『コミック乱ツインズ』 2017年3月号(その一)
乱ツインズの3月号は、新連載やゲスト作品はありませんが(強いて言えば『勘定吟味役異聞』と同時掲載の『そば屋幻庵』がゲスト?)、その掲載作品はむしろ充実の一言。印象に残った作品を挙げるだけで、相当な分量になってしまいました。
『鬼役』(橋本孤蔵&坂岡真)
水野忠邦を暗殺しようとした相手が、旧知の甲府勤番だった男・矢代田平内と知った蔵人介ですが、平内の仇と勘違いされ、ドテっ腹を刺されて……
という前回を受けての後編、事件の黒幕があまりにも短慮で、いかにもな悪人なのは、まあこの作品らしいのかもしれませんが、平内を友と呼んで仇討ちに向かう蔵人介の姿はやはりグッとくるものがあります。
(しかし明らかにどうしようもない悪人とはいえ、形の上は蔵人介の独断に任せる上役もどうかと……)
それにしても、刺されても軽傷だったからと、自分で傷を縫いながら毒味役を務める蔵人介にはこちらもビックリ。
『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
関西鉄道の命運を賭けた高性能機関車・早風を導入したものの、その扱いに苦慮する島安次郎が出会った機関士・雨宮。扱いの難しい早風を滑らかに発車させる雨宮の技の秘密を知ろうとする安次郎ですが……
と、日本の鉄道技術者の元祖ともいうべき安次郎を主人公とした連載第2回。前回は人命よりも定刻を重視する雨宮の姿に、正直全くついていけなかったのですが、今回の機関車発車を巡る展開は、きっちりと理詰めの内容が面白く、素直に感心しました。
おまけページの様々な機関車に関する蘊蓄も楽しく、なかなか面白い存在になりそうです。
しかしラストの主人公の選択は、仕方はないとはいえどうなのかなあ……
『鬼切丸伝』(楠桂)
連載再開となった今回の題材は信長と本能寺の変。信長についてはこれまで連載化第1回に比叡山焼き討ちを、そして最近、天正伊賀の乱を題材に描いてきましたが、今回は後者のB面にして続編とでも言うべき内容であります。
かつて伊賀の百地三太夫により、死して鬼と化す秘術を掛けられた少女・蓮華。彼女は鬼切丸の少年と出会い、一時の安らぎを得たものの、その秘術を求める信長により非業の死を遂げることとなりました。
そして今回描かれるのは、その三太夫がそれとほぼ同時期に仕掛けた呪い――信長に対して無私の忠誠心を抱く森蘭丸は、死してなお信長に仕えるために、三太夫の誘いに乗ったのであります。
そして訪れた本能寺の変。深手を負い、信長の眼前で鬼と化した蘭丸と少年は対峙するのですが――
人間が人間を殺し、人間のものを奪う……ある意味人間と鬼の境目が現代以上に薄かった、戦国時代を中心とした過去の時代を舞台とする本作。その中でも信長は、一際鬼に近い存在として描かれてきました。
しかし今回のエピソードのラストで信長が見せた想い、それはまさしく人間ならではのものであり、人間を冷笑し、鬼を斬る少年をして愕然とさせるものでありました。
ラストの少年の表情が強く心に残る本作、冒頭に述べたとおり充実の今号においても、個人的に最も印象に残った作品であります。
長くなりますので続きます。
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