宮川輝『買厄懸場帖 九頭竜 KUZURYU』第3巻 三人目の九頭竜が選んだ道
石ノ森章太郎の原作漫画を宮川輝がアレンジする本作もこの第3巻でついに完結。母の仇を捜す買厄人・九頭竜の旅は思いも寄らぬ方向に進み、九頭の竜の前金物に秘められた莫大な黄金を巡る争いに巻き込まれることに。そして死闘の果てに彼を待つものとは――
表の顔は薬売り=売薬人、そして裏の顔は金で厄介事を始末する買厄人・九頭竜。幼い頃に母を殺した下手人を追う彼は、母が残した前金物を手がかりに旅から旅を続ける中、ついに下手人の正体を知ることになります。
それは自分を拾い、育て上げた養父とその仲間たち――謎の行者姿の一団。長きに渡りこの国の歴史の陰で戦いを繰り広げてきた二つの勢力の一つに属する彼らは、その軍資金として隠し金山から莫大な黄金を掘り出し、それに関わった者たちを皆殺しにしたというのであります。
そしてその黄金の隠し場所が記されたのが、全部で九枚存在する前金物。九頭竜は残る仇を追い、真実を確かめるため、残りの前金物を追うのですが……その前に現れたのは、武田家の残党・天涯法師率いる一団。そして行者たちの配下である謎の女・蛇姫でありました。
かくて九頭竜の旅は、復讐行から、思わぬ三つ巴の秘宝争奪戦へと変わることに――
これまで描写の少々の違いこそあれ、原作をほぼ忠実に追ってきた本作。この最終巻で描かれるのは、その原作の中盤から終盤からの物語なのですが……物語が進むにつれ、その内容は、やはり原作を踏まえつつも、しかし大きくその方向性を変えていくこととなります。
九頭竜とその配下、天涯法師一味、そして行者たちと蛇姫……三派が各地で繰り広げる壮絶な血闘の数々。その最中で変わっていく九頭竜と蛇姫の関係性。そして訪れる別れと秘宝の真実――
その多くは原作通りでありながら、本作が迎えるのは、ある意味原作とは正反対の結末。冷静に考えれば原作では曖昧なままであった部分に答えを示したのはさておき、全く異なる結末の味わいには、原作ファンからは賛否が分かれるかもしれません。
……が、私はこの結末を大いに気に入っています。
以前にも紹介していますが、本作は、実はさいとう・たかをによるリライト『買厄人九頭竜』に続く二番目のリライト。その意味では、本作の九頭竜は、三人目の九頭竜と言うことができるでしょう。
そして過去の二人の九頭竜は、出会う真実はほぼ同じだったとしても、その選んだ道、辿った運命は、また大きく異なるものでした。
その結末について詳細に述べることは避けますが、一人目の九頭竜はその運命に飲み込まれ(あるいは殉じ)、二人目の九頭竜はその運命を投げ出した……そう表することができるのではないかと思います。
それに対して本作の九頭竜、三人目の九頭竜は、その運命を自ら切り開いたと言うべきでしょうか。己を苦しめ、翻弄してきた運命の真実を知ってもなお、それを受け止め、そして前向きに歩き出す――それが本作の九頭竜の選んだ道なのです。
繰り返しになりますが、この結末に違和感を感じる方はいても不思議ではありません。しかしあくまでも本作は三人目の九頭竜の物語であり、ようやく「九頭竜」は未来を手にしたのだと――最終回、あまりにも意外なゲスト(カメオ)の登場を通じて、私は感じられたのです。
(そして、原作終盤では薄れがちであった「買厄人」という要素を思わぬ形で甦らせたラストも心憎い)
「邀撃」で描かれる天涯法師とその息子の辿る結末、「逮夜」冒頭で描かれる卑小な人間に対する自然の巨大さなど、描写の面でも印象に残り、唸らされることも少なくなかった本作。
まずは大団円を迎えた作品として、私は満足しております。
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