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2017.04.22

細谷正充『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』 

 他のジャンルに比べると意外なほど少ない印象がありますが、それでもコンスタントに発売されている時代小説の紹介本。しかしその中でも本書ほど個性的な本はないでしょう。時代小説を中心に八面六臂の活躍を続ける著者による本書は、類書ではまずお目にかかれないような切り口の一冊なのですから――

 そのマニアックなまでの知識の深さと、リーダビリティの高い語り口で、文庫解説の点数が減少する中でも、一人気を吐いている著者。私も、面白そうだと思って手に取った文庫の解説が、かなりの確率で著者のものであったりするのですが……それはさておき。
 そんな著者が時代小説の解説本を書くとすれば、通り一遍のものにはなるまいと思いきや、その予感は的中。何しろそのチョイスが、実にユニークなものなのです。

 タイトルのとおり、歴史・時代小説を100作品紹介している本書。その中で本書は11のサブジャンルに分けて作品を取り上げるのですが……そのチョイスは以下の通りです。

 歴史・時代小説名作選
 剣豪・忍者時代小説
 伝奇
 捕物帖・ミステリー
 SF・ホラー
 エロ
 大陸
 海外
 ライトノベル
 短篇
 偏愛

 最初の4つはわかります。というより当然です。SF・ホラーも。しかしエロとは!? いや、あまり表立って取り上げられることはありませんが、確かに今でも時代小説の中で、隠然たる勢力を誇っている(?)サブジャンルではありますが……
 そして続くサブジャンルも、やはり解説本の類では、なかなか見かけないものばかり。あるとしても、ジャンルで数作品分まとめての記載で、作品が一つ一つ取り上げられることは滅多にない、という印象があります。

 そうした作品もきっちり一つ一つ取り上げていくのですから、それだけで本書のユニークさが、そして価値がわかろうというものではありませんか。


 さて、ここで恥を忍んで打ち上げれば、本書で紹介されている100作品中、私が存在すら知らなかった作品が20ありました(その約半数がエロでしたが)。
 そんな人間が言っても説得力がないかもしれませんが、本書において「こんな作品があったとは!?」と驚かされることがあっても、「こんな作品が載っているなんて……」と思わされるものはほぼなかった、というのが正直な印象であります。

 それは紛れもなく、著者の目の確かさと、それと同時に、カバーする範囲の広さによるものでしょう。
 ある意味その広さ故に、人によっては合わない作品があるかもしれませんが……しかしここで紹介されている作品は確実に面白い(のだろう)と感じます。

 まずは本書を助けに、存在を知らなかった作品を探しにいくとしましょう。


『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』(細谷正充 河出書房新社) Amazon
歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド

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