『コミック乱ツインズ』2017年7月号
コンビニ等で見かけると、もう月も半ばだな――という気分になる『コミック乱ツインズ』、今月号の表紙は連載第100回の『そば屋幻庵』であります。今回も、個人的に印象に残った作品を紹介していきましょう。
『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
今日も今日とて日本の鉄道の能力向上のために奮闘する島と雨宮。輸送力増強のため列車の最高速度を引き上げたいと悩む島の前に現れた老人は、「日本の鉄道のハンディキャップ」の存在を指摘します。そのハンディキャップとは何か。意外な正体を見せたその老人の提案に対し、島はどう答えるのか……
困難に挑む技術開発史という側面と、そこに関わる人々による一種の人情話という側面を持つ本作ですが、今回はさらに歴史ものとしての側面がクローズアップされます。
それが今回登場する謎の老人の存在なのですが――現在の呼び名から正体はすぐに推測できるものの、「彼」と鉄道がすぐには結びつかない組み合わせなのが実に面白い。
彼が語る日本鉄道のハンディキャップの正体も納得ですが、その打開策に対する島のリアクションも、もっともといえばもっとも。とはいえ具体的な解決策が示せたわけではないので、それはこの先に期待でしょうか。
オチもやりすぎ感はあるものの、やはりニヤリとできる内容であります。
『すしいち!』(小川悦司)
前々回、江ノ島で婚約した鯛介とおりんの祝言が描かれる今回。しかしむしろ中心になるのは、鯛介の愛弟子であり、ともに菜の花寿司を支えてきた蛤吉であります。自分の存在が二人の邪魔になると、店を辞める決意を密かに固めた彼が、祝言にあたって望んだのは、客へのふるまい寿司を握ること……
というわけで蛤吉の成長が語られるのですが、ここで彼が握る寿司が、これまで作中で鯛介が握ったものという趣向が面白い。これまで見せた技(料理)が再び――というのは、漫画のクライマックスとして定番のパターンの一つですが、それを主人公ではなく蛤吉が行うのが、受け継がれる技の存在を示すようで印象に残ります。
そしてタイトルの「すしいち」という言葉の意味も語られ、誌面には特に言及はなかったものの、ほとんど最終回のような……と思いきや、作者のツイートによれば、やはりひとまずの最終回とのこと。まずは綺麗な結末であったと思います。
『エイトドッグス 忍法八犬伝』(山口譲司&山田風太郎)
いよいよ最強の八犬士・親兵衛と最後の八犬士・荘助が登場してクライマックスも近づいた感のある本作。服部屋敷に囚われた村雨姫を救うため、犬士たちの作戦が始まることになります。
正面から殴り込んだ(また殴り込みか、的なことを言われているのには笑いましたが)親兵衛が半蔵とくノ一を相手にし、さらに大角の忍法で村雨と瓜二つになった信乃と荘助が陽動、その間に大角が村雨を救い出す……と、彼らにしては珍しい連携を見せるのは、もちろん村雨の存在あってこそ。
特に剽悍無比な親兵衛が、村雨から亡き兄に代わって慕われた過去を胸に強敵に挑む展開は、やはり大いに盛り上がります。
くノ一たちを血祭りにあげつつも半蔵の刃に深手を負い、地に伏した彼が最後に発動した忍法こそは、あの――というわけで、まだまだ盛り上がります。
『鬼切丸伝』(楠桂)
前回、ようやく倒されたかと思いきや、今回も堂々登場する信長鬼。実は時系列的には今回の方が先なのですが――今回描かれるのは、死を目前とした信長麾下の武将たちのもとを、信長鬼が訪れる姿であります。
丹羽長秀、蒲生氏郷、豊臣秀吉、前田利家――死を間際にして無念の想いを抱えた彼らの前に現れた信長。彼は自らの「鬼の肉」を彼らに与え、死して後に鬼に転生することを唆したのであります。そして関が原を目前に信長鬼が倒されたことが契機となったように、彼らは鬼と化して復活を……
と、転生バトルロイヤルものの序章といった趣の今回。まさか本作でこのような展開が――と驚かされましたが、しかしその手があったか! という気もいたします。丹羽長秀だけ他の人物とは異なる時期に亡くなっているのですが、復活のトリガーが信長鬼の死ということで、設定上の整合性が取れているのにも感心です。
次号は『勘定吟味役異聞』が新章に突入。今号に続き、かどたひろし大活躍であります。
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