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2017.07.02

三好昌子『京の縁結び 縁見屋の娘』 巨大な因果因縁を描く時代奇譚

 毎回ユニークな作品が輩出されてきた『このミステリーがすごい!』大賞で優秀賞を獲得した本作は、ミステリというよりも時代伝奇、時代奇譚と言うべき物語。代々娘が26歳で亡くなるという家に生まれたヒロインが、不思議な修験者とともに自分たちを縛る運命と対峙することになります。

 天明年間の京都、口入れ屋「縁見屋」で、父とともに忙しくも平和な日々を送っていたの一人娘・お輪には、一つの悩みがありました。
 それは「縁見屋の娘は祟りで男子を産まずに26歳で死ぬ」という噂――いや、現に曾祖母も、祖母も、何よりも母も26歳で亡くなっていた彼女にとって、次第に近づいてくるその時は、噂では済まされない問題だったのです。

 そんな中、店を訪ねてきたのが、帰燕を名乗る旅の修験者。代々の因縁があるために、通りすがりの僧や旅人に手厚く世話を焼く縁見屋では、彼を歓待するのですが――しかしお輪は、帰燕に不思議に惹きつけられるものを感じることになります。

 曾祖父が残した地蔵と火伏の神を祀る火伏堂の堂守となった帰燕と触れ合ううち、彼への想いを募らせていくお輪。
 しかし堂に隠されていた曾祖父の遺した天狗の秘図面なる宝物が見つかったことをきっかけに、彼女と帰燕の運命は大きく動いていくことに……


 冒頭で述べたとおり、ミステリというにはだいぶ異なる内容の本作。確かに物語を貫く謎は存在するものの、それは解き明かされる対象というよりも、人々の運命を(すなわち物語を)支配する巨大な因縁として存在しているのであります。

 しかし、そのような内容でありつつも、本作が優秀賞を獲得したのは、おそらくはその完成度の高さゆえでしょう。

 なぜ縁見屋の娘は26歳で亡くなるのか。天狗の秘図面とはどこからもたらされたのか。謎めいた帰燕とは何者なのか。そしてお輪は悪因縁から解放されるのか……
 物語を構成する数々の謎と登場人物たち、どの要素も無駄になることなく精緻に組み上げられて相互に作用しあい、やがてそこに一つの巨大な因縁の姿が浮かび上がる。

 終盤にはしっかりと派手なクライマックスが(それも史実を踏まえたものが)用意され、おそらくはこれが作者のデビュー作とは思えない隙のなさであります。一点を除いては……


 そう、本作は大いに私好みの作品ではあったのですが、しかし実は本作にはノれない部分も少なくなった――というのも正直なところであります。

 それは一つには、私が前世からの因縁という題材や、人を魂の器とみなすという考え方にはあまりポジティブな印象を持てないということがあるのですが、それは個人的な好みの問題。
 それ以上に気になったのは、ある意味本作の根幹を成す、お輪の帰燕への想いに共感できなかった――というより説得力を感じられなかったという点につきます。

 まさしく帰燕とは運命的な結びつきを持ち、それゆえに激しく惹かれ惹かれる関係となるお輪。しかし、彼女が帰燕に惹かれる理由が、その運命以外には存在しないように見えてしまうのはいかがなものか。
(いや、確かに帰燕はイケメンで有能な人物ではありますが、しかしそれで人によっては引くほどの惹かれぶりとなるものかどうか)

 あるいはこの点も、先に述べた前世等々に対する好みの問題と繋がってくるのかもしれませんが……


 冒頭に述べたように、本作が巨大な因果因縁を描いた伝奇物語――というより時代奇譚としては実に完成度が高く、楽しめる作品であることは間違いありません。
 それだけに、この点だけはどうにも惜しいと感じてしまった次第であります。


『京の縁結び 縁見屋の娘』(三好昌子 宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ) Amazon
【2017年・第15回『このミステリーがすごい!大賞』優秀賞受賞作】 縁見屋の娘 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

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