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2017.07.30

石ノ森章太郎『新変身忍者嵐』 もう一つの恐るべき結末

 石ノ森章太郎の漫画版『変身忍者嵐』紹介、今回はいわゆる『希望の友』版、約20年前に『新変身忍者嵐』のタイトルで単行本化された作品です。先日2回にわたってご紹介した『週刊少年マガジン』連載版に比べるとはるかにTV版に近い内容ですが、しかしこちらも衝撃の結末が……

 父・嵐鬼十の編み出した化身忍者の法を悪用し、父を殺した血車党を滅ぼすため、同じ法を用いて嵐に変身する青年・ハヤテの戦いを描く本作。
 設定的には本作やTV版と同一ながら完全に独自路線を行ったハードな変身ヒーローものであった少年マガジン版に比べれば、本作は遥かにTV版に近い内容と言えます。

 少年マガジン版では冒頭しか登場しなかったタツマキ親子は、レギュラーとして約半数のエピソードに登場。ハヤテやタツマキ親子のコスチュームもほぼTV版と同じものとなっています(映像では……だった格好が漫画で見ると全く印象が変わるのに感心)。

 何よりも、こちらでは1エピソードを除き嵐がきちんと(?)登場。TV版の変身台詞の「吹けよ嵐、嵐」や秘剣影うつしも、一度だけではありますが(「吹け嵐 嵐よ」とちょっと異同はありますが)しっかり登場し、変身しないエピソードも作中で一回のみと、まずはヒーロー漫画と呼んで違和感のない内容です。

 もっとも、TV版の完全なコミカライズというわけではなく、物語は完全にオリジナル。
 基本的には旅を続けるハヤテらに襲いかかる化身忍者の戦い、あるいは化身忍者の陰謀を砕くためにハヤテが戦いを挑むという展開ですが、登場する化身忍者も、かまいたち以外は皆漫画オリジナルの存在であります。

 また、他の版ではあまり詳しくは述べられなかった印象のある化身忍者の法も、脳に針を打ち込むことでその一部を異常に活性化させるという説明が行われるのも興味深いところです。(そしてラストでこれが思わぬ意味を……)

 内容の方も怪奇性強めで、文字通り人間の皮を被った化身忍者が登場したり、人間が無数の虫に襲われて骨のみを残して食い殺されたりとインパクトの大きなシーンも少なくありません。
 特に後者が登場するエピソード『虫愛ずる姫』は、その「敵」の正体の悲劇性とおぞましさ、救いのなさで、作中屈指であります。

 ちなみにTV版の方は、幾度となく大きな路線変更が行われ、戦う敵も変わったりもしましたが、本作はもちろん(?)それはなし。
 しかし後半にタツマキ親子が登場しなくなったり、狼男やミイラ男などが登場するようになったのは、TV版の影響があるのかもしれません。(ちなみにこちらの狼男やミイラ男は国産で、時代劇としての設定を崩さずに登場させているのに感心いたします)


 しかし本作の最大の独自性は、最終話『さらば変身一族』で明かされる化身忍者の正体、物語の核心に関わる大ドンデン返しであることは間違いでしょう。
(以下、物語の核心に触れますのでご寛恕下さい)

 ある晩、天を過ぎった流れ星を追い、ある山を訪れたハヤテ。その山に潜んでいた化身忍者たちを蹴散らし山頂に向かったハヤテの前に現れたがいこつ丸は、流れ星の正体が空飛ぶ円盤であったことを明かします。

 それだけでも驚く展開ですが、しかし真に驚かされるのはここからであります。実は化身忍者たちは宇宙から地球にやってきた一族、20年ほど前に円盤が故障して地球に着陸し、円盤を修理するために人間社会に潜伏し、力を蓄えていたというのです。
 そして嵐鬼十が編み出した化身の法も、人間を他の生物に化身させるのではなく、元々化身する能力を持つ彼らを人間の姿に留めておくためであったと……

 いやはや、ハヤテでなくとも唖然とするほかない展開、化身忍者の設定については、冷静に考えると色々と首を傾げる点があるのですが、しかしここで一気に世界観を覆してみせる豪腕には驚くほかありません。
(あるいはTV版に登場した空飛ぶ円盤からの連想か?)

 物語を通じて変身ヒーローと怪人の戦いを同族殺しとして描き、最終回でそれを救いようのない形で明確化してみせた少年マガジン版に比べれば、これは確かに唐突な印象は否めません。
 しかしここで描かれる、化身忍者こそが彼らの真の姿であったという価値観の逆転もまた、同様に変身ヒーローものに対する強烈なカウンターとして記憶すべきものと言えるのではないでしょうか。

 いや、どうかなあ……


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新変身忍者嵐 (秋田文庫 (5-36))


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