野田サトル『ゴールデンカムイ』第11巻 蝮と雷が遺したもの
やはりというべきか、まさかのというべきか、アニメ化が決定した『ゴールデンカムイ』。しかし物語はまだまだ刺青人皮争奪戦の真っ最中――呉越同舟となった杉元勢と土方勢の珍道中は続き、その一方で鶴見勢は新たな囚人と対決することになります。
思わぬ成り行きから手を組むことになったものの、白石捕縛などのアクシデントから一部メンバーを入れ替え、二手に分かれた杉元勢と土方勢。現在杉元と行動を共にしているのは、アシリパ、白石、尾形の(見かけは)比較的常識派のメンバーであります。
白石救出のために大きく道を逸れた杉元たちは、鶴見勢の追っ手を撒くと同時に、噂を耳にした釧路にいるという囚人を追うために、旅を続けることになります。
その一方、複製人皮を手にした鶴見と二階堂、月島、鯉登の面々は小樽に向かいますが――そこで登場するのが今回のメイン、稲妻強盗と蝮のお銀のカップルであります。
韋駄天の如き脚力を持つ強盗殺人犯・坂本慶一郎と、千枚通しを得物に次々と旅人を殺してきた凶悪犯・蝮のお銀――凶悪だからこそ惹かれ合った二人は、ここ蝦夷地において、明治のボニー&クライドとも言うべき暴れっぷりを見せていたのです。
ちなみにこの二人、作中では「実在した」と語られていますが、少なくとも慶一郎の方は、ほぼ間違いなく、稲妻強盗(稲妻小僧とも)と呼ばれ、樺戸集治監から脱獄した経歴を持つ坂本慶次郎のもじり。
蝮のお銀の方は明確なモデルが見つからなかったのですが――あるいは明治期に毒婦として知られた蝮のお政なのでしょうか。
閑話休題、小樽で賭場荒らしを目論むカップルは、土方勢についた元・日泥一家の用心棒を味方に引き入れ、刺青人皮があるという賭場を狙うのですが――しかしそれは鶴見勢の罠。
待ち構えていた鶴見たちの攻撃を受ける慶次郎らですが、賭場が油問屋で開かれていたことから、油を周囲に巻いて鶴見たちの動きを封じ、脱出を狙うことに……
と、どちらが主役かわからなくなるような両者の戦いは、どちらもそれぞれのメンバーが持つ能力をフルに活用しての展開が見所。
特に月島-二階堂-鯉登-鶴見と、鶴見勢が流れるような連携で慶一郎を追い詰めるくだりは、変態軍団の印象が強い彼らの地力というものを感じさせられます(その一方で、油を撒かれて真顔で滑り落ちる彼らの姿が異常におかしい)。
しかしこのエピソードの真の見所は、その構成の妙と結末でしょう。
この戦いが繰り広げられていた頃に杉元たちが何をしていたかと言えば、森林の中を彷徨いながら、白石が蝮に噛まれたり、伝説の大蛇に出くわしたりという珍道中。その一方で、愛なき家庭環境から生みだされたと言うべき、尾形の凄惨な過去の所業も描かれるのですが……
一見無関係に見えるこれらのエピソードも、蝮と雷にまつわるアイヌ神話をアシリパに語らせることで慶一郎とお銀の深い繋がりを暗示。
そして二人が遺したものが尾形の境遇と重ね合わされるような形で描かれる結末は、人間性というものの淵源に想いを馳せらずにはいられない、本作において屈指の感動的な場面となっているのです。
……が、その余韻を次の回で完膚なきまでにぶち壊すのもまた本作らしい展開。
これまで物語に登場してきた変態の中でも群を抜く変態、全年齢向けのこのブログではその詳細を語ることが憚られる超弩級の変態・姉畑支遁の登場で、物語は一気に怪しい雲行きとなります。
刺青囚人の一人であり、次々と凶行を繰り返す支遁。ようやく杉元たちと合流したものの、その支遁に銃を奪われ、濡れ衣を着せられた谷垣のためにも、後を追う杉元とアシリパという場面で次巻に続くのですが……
いやはや、ここまで先が見たいような見たくないような展開は本作でも初めてなのであります。
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