吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第6巻 緊迫の裁判と、脱力の特訓と!?
家族を殺した「鬼」と戦うため、「鬼殺隊」に加わった少年・竈門炭治郎の死闘を描く本作も、めでたく連載一周年を突破しました。今回紹介する第6巻では、その作品世界がより広がる展開が描かれることになります。鬼殺隊最強のメンバー、「柱」の登場によって……
那田蜘蛛山に潜む鬼との死闘を辛くも生き延びた炭治郎と禰豆子。しかし、「鬼」である禰豆子と、彼女を庇う(そして他の鬼にも哀れみの念を抱く)炭治郎に対し、疑念を抱く者たちにより、二人は鬼殺隊の本部に連行されることになります。
そこで二人を待つのは、鬼殺隊最強の戦力、鬼側最強の十二鬼月を討つ力を持つ九人――水・蟲・炎・音・恋・岩・霞・蛇・風の流派を代表する「柱」たちであります。
しかし、炭治郎と禰豆子を襲った最初の悲劇の時から面識を持ち、炭治郎が鬼殺隊に加わるきっかけを作るなど、浅からぬ縁を持つ水柱の冨岡は格別、その他の柱にとっては二人は鬼とそれを庇う異端分子に過ぎません。
かくて、二人は鬼殺隊柱合裁判にかけられることに……
主人公が組織に所属する戦士である少年漫画の場合、しばしば登場する、それよりもランクが上の戦士集団の存在。
彼らは主人公にとっては頼もしい先輩にもあれば乗り越えるべき最強の敵にもなるわけですが――鬼という明確な敵が存在する本作において後者のパターンはないかなと思えば、なるほどこの手があったか、と感心いたします。
それにしてもこの九人の柱、これまで登場した冨岡と蟲柱のしのぶは普通の人間だった一方で、新登場の面子はビジュアル的にも言動的にもキャラが立ちすぎていて、ちょっと不安になるくらいだったのですが……
ちょっとした描写で、そのキャラクターの印象を変えたり、深みを与えたり――という本作のキャラ描写と造形の巧みさはこれまで同様で、一歩間違えれば嫌味な先輩集団になりかねないところに、きっちりと(ギャグを交えつつ)人間味を与えているのには感心させられます。
そしてこの巻の後半、何とか鬼殺隊に改めて迎えられた炭治郎たちを待つのは、傷の治療と特訓――と言いつつ、その地味そうな印象とは裏腹に、半ばギャグパートになっているのが面白い。
少しの間出番のなかった善逸と伊之助が再登場するも、二人とも戦いのダメージは深刻で――と、本来であれば洒落にならないところに、強引に笑いを突っ込んでくるのも、実に本作らしいところであります。
それでいて、これまで鬼に対して情を見せる炭治郎に対して否定的な態度を見せてきたしのぶが、その慇懃かつ冷徹な仮面の下に秘めてきた過去と、炭治郎への希望を語るくだりなど、ドラマとしても、キャラクターの肉付けとしても、実と面白い。
前巻までの蜘蛛鬼との死闘、この巻前半の柱との対面、そしてこの後半と――静と動、戦いと笑いなど、緩急の付け方が実に巧みとしか言いようがありません。
そして静の展開が続けば、次に来るのは動――鬼との死闘。傷が癒え、新たな力を得た炭治郎たちを待つものは――次の巻の紹介にて。
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