にわのまこと『変身忍者嵐Χ』第1巻 新たなる嵐、見たかった嵐、見参!
あのにわのまことが、あの石ノ森章太郎の『変身忍者嵐』をベースに新たな嵐の世界を描く、ファンであれば見逃せない作品の第1巻であります。舞台を戦国時代に移して描かれる本作、まだ序章とも言うべき印象ながら、ファンの期待を裏切らない内容です。
時は1600年、徳川家康と石田三成が、関ヶ原で激突を目前としていた頃――徳川軍本隊を率いて西へ向かう徳川秀忠の前に現れた正体不明の青年・風のハヤテ。
優れた忍びの技を持ちながら過去の記憶を持たず、しかし自分と同じく父の存在に屈託を抱えるらしいハヤテに、秀忠は不思議な親しみを覚えるのでした。
そしてその晩、徳川の陣に現れた奇怪な怪物。人間から巨大なオオサンショウオに変化したその怪物――化身忍者ハンザキは、秀忠を攫うと徳川の陣から脱出。追いすがる伊賀忍者・タツマキの攻撃をものともせず、その目的を達したかに見えたのですが……
その場に現れた謎の鳥人が二人を救い、深手を負いつつもハンザキを撃退、そして鳥人は、二人の前でハヤテの姿に戻るのでした。
秀忠とタツマキの命で、ハヤテの看護に当たるカスミ。目を覚ましたハヤテは、同時に自分が何者であるか、自分の身に何が起きたのかを思い出します。
そんなハヤテを再び襲撃するハンザキ。記憶を取り戻したハヤテは、父から授けられた愛刀を手に印を結び……「変身忍者嵐見参!」
という最初のエピソードは、嵐ファンであれば感涙ものの格好良さ。
設定、登場人物は石ノ森章太郎の漫画版をベースとしているものの(骸骨丸でではなく骨餓身丸が登場)、原作のデザインを踏まえつつも、作者らしいスタイルでリライトされた嵐は、実に精悍でいいのです。(嵐のデザインは、特にその大きな目など、一歩間違えるとかなり気の抜けた印象になるので……)
しかし何よりも盛り上がるのは、その初変身シーンであります。
襲いかかるハンザキと下忍たちを前に、すっくと立って印を結ぶハヤテ。その脳裏によぎるのは父の言葉――ケダモノに化けるのではなく、人の心を持って身が変わる。そう、化身忍者ではなく、変身忍者!
そして「吹けよ嵐、嵐、嵐!」のかけ声とともに天空高く舞い、地に降り立つや高々と天に刀を掲げ、名乗る姿の格好良さ!。
そう来たか! と膝を打ちたくなるような解釈(鬼十とハヤテは風一族の出身で、そこから「風を超えて嵐となれ」という嵐のネーミングもいい)からの、雷鳴をバックの秘剣影うつしも見事で、見たかった嵐、理想の嵐を見せていただいた気持ちであります。
ちなみにここで、変身の口上も秘剣影写しも、石ノ森章太郎の漫画版には登場してないのでは……と半可通的にイヤラシイ感想も頭によぎったのですが、大丈夫。
確かに少年マガジン版には登場していませんが(「忍法影うつし」は登場)、希望の友版には登場しております。
この辺り、うまく配慮(?)しつつ、一番嵐らしさを感じさせる、そして何よりも格好良い嵐を描いているのは、ヒーローマニアの作者らしい描写と感心いたします。
と、ビジュアルや演出にばかり触れてしまいましたが、本作の最大の特徴かつ相違点が舞台設定であることは間違いありません。
(明確に年代が登場したのは少年マガジン版のみであったものの)江戸時代前期を舞台としてきた原作に対して、本作の舞台は関ヶ原の戦と、戦国時代末期。
しかも最初のエピソードから秀忠ら実在の有名人たちが登場と、史実とはほとんど関わってこなかった原作に比して大きくそのスタンスを変えてきた印象があります。
その意図が、意味が奈辺にあるかこの時点ではまだわかりませんが、これまで人知れず行われてきた嵐と血車党の戦いが、本作においては、表の歴史と大きく関わる形で展開していくことは間違いないでしょう。
そして泰平の時代ではなく、戦乱の時代を舞台とすることで、その規模と内容も激しくなることも……
この第1巻に収録された後半のエピソードでは、この時に秀忠ら徳川軍と戦い、散々に翻弄してみせた真田昌幸・幸村父子が登場。
そこに化身忍者マシラ(ちなみハンザキ、マシラともに少年マガジン版の第1話に登場した化身忍者)が忍び寄り、いかなる史実との絡みが生じることになるのか……早くも波乱含みの展開となります。
その中で新たな嵐が如何なる活躍を見せるのか……期待に胸躍るではありませんか。
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