『コミック乱ツインズ』2017年10月号(その一)
素晴らしいタッチのかどたひろし『勘定吟味役異聞』を中心に、『軍鶏侍』『仕掛人藤枝梅安』『鬼役』と原作付き作品四作品の主人公が配された、えらく男臭い表紙の「コミック乱ツインズ」2017年10月号。内容の方もこの四作品を中心に素晴らしい充実ぶりであります。
以下、印象に残った作品を一作ずつ紹介いたします。
『仕掛人 藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
来月単行本第1巻・第2巻が同時発売することとなった武村版梅安は巻頭カラー。小杉十五郎の初登場編である「梅安蟻地獄」の後編であります。
仕掛けの相手である宗伯と見間違えたことで梅安と知り合うこととなった小杉。一方、梅安の仕掛け相手であった伊豆屋長兵衛は宗伯の兄であったことから、協力することとなった二人ですが、相手の側も小杉を返り討ちしようと刺客を放って……
というわけで梅安・彦次郎・小杉揃い踏みとなった今回。本作では彦さんがかなり若く描かれているだけに、正直小杉さんとの違いはどうなるのかな……と思いましたが、三人が揃って見ると、彦さんはタレ目で細眉のイケメン、小杉さんは眉の太い正統派熱血漢という描き分けで一安心(?)であります。
などというのはさておき、今回のハイライトは、橋の上で梅安が長兵衛を仕掛けるシーンでしょう。ダイナミックな動きからの針の一撃を描いた見開きシーンは、まさに武村版ならではのものであると感じます。
『軍鶏侍』(山本康人&野口卓)
連載第2回となった今回は最初のエピソード「軍鶏侍」の後編。園瀬藩内の暗闘に巻き込まれた隠居侍・岩倉源太夫が、江戸の藩主のもとに家老の行状を記した告発状を届けることになって――というわけで、当然ながら源太夫の前に刺客が立ちふさがることになるのですが、ここで一捻りがあります。
家老方に雇われた、いかにもなビジュアルの三人の刺客――と思いきや、仲間割れからそのうちの年長の一人が残る二人を斬殺! 実はこの刺客と源太夫の間にはある因縁が……
と、この辺りは定番の展開ではありますが、しかし既に老境に近づいた源太夫たちの姿をしみじみと描く筆致はさすがと言うべきでしょう。
物語を終えてのもの悲しくもどこか爽やかな後味も、この描写あってのこと。隠居侍が再起する物語として、相応しいファーストエピソードであったかと思います。
『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
今回からは幻の豪華列車を巡るエピソード。鉄道技術者として活躍し、九州鉄道の社長を務めた仙石貢が、物語の中心となります。
ある日、島と雨宮のもとに仙石から舞い込んできた依頼。それは仙石が九州鉄道の社長時代にアメリカに発注した豪華車両のお披露目運転でした。
輸送力増強のために奔走する島から見れば、豪華列車は仙石が趣味で買ったような代物。そんなものをごり押しで、しかも高速で走らせようとする仙石に反発する島ですが……
前編で状況の説明と事件の発生を描き、後編でその背後の事情や解決を描くスタイルが定着してきた本作。その点からすれば、次回のキーとなるのは、「豪華さ」と「スピード」の両立を追求する仙石の真意であることは間違いありません。
主人公が島であることを考えれば、何となくその先はわかるように思えますが――さて。
以下、次回に続きます。
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