伊藤勢『天竺熱風録』第2巻 熱い大地を行く混蛋(バカ)二人!
田中芳樹が唐代に実在した快男児を主人公に描いた物語を、伊藤勢が独自の視点で漫画化した第2巻であります。摩伽陀国を簒奪した暴君に理不尽に仲間ともども捕らえられた唐の外交使節・王玄策の冒険は、いよいよここから本格的に始まることになります。
唐の外交使節団の正史として、久方ぶりに摩伽陀国を訪れた王玄策。しかし摩伽陀国の王・ハルシャ王は謎めいた死を遂げ、その後を継いだと称するアルジュナの命により、玄策と使節団数十名は、無法にも捕らえられ、獄に繋がれることとなります。
牢獄の中で出会った怪老人・那羅延娑婆寐から、抜け道の存在を教えられる玄策。しかしそこから全員が抜け出しても逃げ切れるはずもありません。
かくて悩んだ末に、玄策は自分と副使の蒋師仁の二人のみで密かに牢を脱出し、ネパール・カトマンドゥからの援兵を連れて悪王を討つという道を選ぶのですが……
というわけで、牢から脱出したところから始まるこの第2巻。ひとまずは自由の身となった玄策と師仁ですが、しかしその自由はあくまでもかりそめのもの。自分を信じて送り出してくれた仲間たちを救い出すためのものであります。
そのためには一刻も早く摩伽陀国を脱出しなければならないのですが――しかし早くも襲いかかるオリジナル展開!
折悪しく、アルジュナ配下の奇怪な仮面の怪人に見つかってしまった二人。ここで見つかれば全てが水の泡と、怪人に挑む二人ですが、魔神めいた複数の腕を持つ怪人に多大な苦戦を強いられることに……
上で述べたようにこの辺りはオリジナル展開なのですが、ビジュアルといい正体といい、いかにも伊藤勢らしい趣味の怪人と、これまた伊藤勢らしいダイナミックな活劇が実に楽しいのであります。
そしてそんな強敵を辛くも撃破したものの一文無しの二人。先立つものがなければと、覚悟を決めてある屋敷に潜入してみれば、そこは……
と、ここで描かれるのは、おそらくは前半の山場であろう、玄策と先王の妹・ラージャシュリー、そして彼女に仕える少女・ヤスミナとの出会いであります。
民に慕われ、ひとまずは身の安全を保証されながらも、完全に軟禁状態におかれ、本人は視力を失ったラージャシュリー。
一歩間違えればアルジュナ以上に摩伽陀国にとっては害となりかねぬ玄策の考えを見抜きつつも、あえて力を貸すラージャシュリーの助けで、なんとか玄策と師仁は城を脱出しようとするのですが……
この辺りの展開はほぼ原作同様ではありますが、しかし玄策とラージャシュリーの間で語られる内容――摩伽陀国を巡る状況やアルジュナの正体を巡る会話のディテールの細かさは、これはこの漫画版ならではの内容と言うべきでしょうか。
そして漫画版ならではといえば、この後に描かれる玄策たちの王都・曲女城脱出劇もまた、実にそれらしい。
ヤスミナの先導で城門に向かう二人。城兵に誰何されて危機一髪、というところで彼らを助けたのは――というのも原作通りですが、ここでの助っ人たちの活躍ぶり、というよりも彼らの造形が実にまたイイのであります。
(きっといつか出て来るだろうと思いきや、やっぱりスターシステムで登場した彼女)
イイといえば何よりもヤスミナもいい。外見は凛とした美人ながらも、内面は威勢と気風の良いという、いかにも伊藤勢らしいヒロインぶりで、冷静に考えれば出番はそれほど多くないのですが、実に印象的なキャラクターであります。
そして彼女たちの想いを受けて、男たちは荒野に足を踏み出します。その中で「天竺」とそこに住む人々への、己の想いを確かめつつ……(というか、このあたりは完全に作者の想いだとは思いますが)
そんな想いを抱きつつも、仲間たちを救うため、無謀というも愚かな絶望的な任務に挑む混蛋(バカ)二人。
ラストには何とも気になる新キャラクターが登場し、まだまだ波乱含み、いや波乱しかない物語は続きます。
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