玉井雪雄『本阿弥ストラット』第2巻 落ちこぼれチームのレース始まる!?
最近は時代漫画家としての活躍が目立つ作者の新作もこれで第2巻。本阿弥光悦の玄孫・本阿弥光健を中心に据え、全く先の読めない形で始まった物語も、新酒番船を巡るレースという明確な目的が設定されたものの――そこに至るまでの道はまだまだ波瀾万丈であります。
女郎屋の代金を踏み倒したために、人買い商人の奴隷船に叩き売られた光健。彼と一緒に閉じ込められていたのは、あらゆる共同体から捨てられて人別を失い、自分たちも希望や気力を失った「棄人」たちのみという最低最悪の状況でしたが……
しかし自分の「目利き」に絶対の自信を持つ彼は、その力で棄人たちを奮起させ――その過程で想像外の出来事も多々あったものの――人買い商人一味から棄人たちを解放したのでした。
ところが物語はここから意外な方向に向かいます。棄人の一人・とっつぁん――かつては凄腕の船頭として知られた男・桐下は、棄人たちを率いて、新酒番船に参戦することを宣言したのであります。
この新酒番船とは、一言でいえば新酒の輸送レース。毎年、上方の新酒を積んだ廻船を大坂や西宮の問屋14軒がそれぞれ仕立て、西宮-江戸間の競争を行ったものです。
通常で5日ほど、最高記録は2日半という通常では考えられない過酷なこのレースは、それだけに海の男たちの誇りと技術の粋を結集した一大イベント。どうやら本作では裏の顔もあったようですがそれはさておき……
しかし、桐下を除けばド素人だらけの面子でこのレースに参戦するのは無謀の一言。そもそも、参加のためには参加権が必要で――というわけで桐下と光健は、かつて桐下を裏切り、全てを奪ってのし上がった男が作った廻船問屋・海老屋を最初のターゲットにすることになります。
その跡取りの器を見極め、揺さぶりをかける光健ですが、それが思わぬ結果をもたらすことに……
(ちなみにここで桐下の後ろ盾になるのが、史実の上でも色々と曰くのある兵庫の北風家なのが実に面白い)
と、第1巻の時点では人買い船の上が舞台と、全く先が読めなかった本作ですが、この巻ではだいぶその向かう先が見えてきた印象があります。
それは言うなれば落ちこぼれチームもの――世間からはみ出した連中が、能力的にも立場的にも圧倒的に上の相手に、特技とチームワークで立ち向かっていくという、スポーツものなどによくあるパターンであります。
しかし時代劇ではほとんど記憶にないこのパターンを、このような形でやってしまうとは――と大いに驚かされるのですが、本作の面白さはそれだけに留まりません。
これがスポーツものであればスカウトマンでありコーチ役ともいえる光健――しかし第1巻の紹介でも触れたように、彼が行うのはあくまでも人物の器を「目利き」すること。その先、その器を相手がどう使うかまでは、彼のコントロールするところではないのです。
この巻でも、海老屋の息子たちを彼が目利きしたことがきっかけで、とんでもない事態に発展するのですが――そのままならなさが実に面白いとしか言いようがありません。
何はともあれ、光健も加わった棄人チームも参加して、ついに始まった新酒番船。
海老屋だけでなく、ほかにも一癖も二癖もありそうな連中が参加したこのレースの行方はどうなるのか、そして光健は仲間たちの、そして自分自身の目利きをすることができるのか……
いよいよ物語が走り出した今、その向かう先が楽しみでなりません。
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