大柿ロクロウ『シノビノ』第1巻 最後の忍びの真の活躍や如何に
少年サンデー史上最高齢主人公、という謳い文句もユニークな本作――幕末に実在し、あのペリーの黒船に潜入したという、最後の忍び・沢村甚三郎(58)の歴史の陰での活躍を描くユニークな時代活劇であります。
1853年、浦賀沖に来航したマシュー・ペリー率いる4隻の軍艦からなる艦隊。言うまでもなく、幕末という時代を招くこととなった「黒船」であります。
一歩間違えればアメリカと開戦に繋がりかねない状況に、幕閣も対応に悩む中、老中・阿部正弘が招請したのは一人の老人――一見単なる隠居老人にしか見えぬその人物こそは凄腕の忍び・甚三郎。
そしてこの事態を打開するため、老中が甚三郎に下した命は、実現不可能としか思えぬものでした。
一方、ペリー側は日本との戦端を開くために日本側を挑発。それを担うのは、「部外戦隊」なるいずれも一癖有りげな兵士たち。
そして日本側にも、黒船を奪取せんと目論む狂熱的な人物が暗躍、事態はいよいよ混沌として……
冒頭に述べた通り、幕末に実在した忍びを主人公とした本作。
彼だけでなく、もちろんペリーも阿部老中も、甚三郎に巻き込まれることになる黒船の日本人乗組員(!)も、黒船強奪を目論む人物とその弟子も――本作に登場するキャラクターの多くは実在の人物であります。
そんな史実をベースにする――言い換えれば、史実という制約の中で大活劇を展開してみせるのが、本作の魅力でしょう。
そしてその魅力と直結するのが甚三郎の存在――そして彼の使う「忍術」であることは間違いありません。
猫の瞳で時刻を知るという、なんとも懐かしい(?)ものから自然現象をも操る強大なものまで、決して物理現象や人間の力を逸脱した忍法ではないものの、それだからこそ面白いのです。
(水蜘蛛はまあ、ギリギリセーフということで)
こうした「リアルな」忍術、そして基本的に人間臭い甚三郎のキャラクターも相まって、この世界でかつて実際に起きた出来事の、その裏側で起きていたかもしれない戦いを、地に足の着いたスタイルで――もちろん漫画としてのケレン味を十二分にキープしつつ――描こうとしているのには好感が持てます。
……が、それであればもう少し気を使えばよいのに、と感じる点も皆無ではありません。
特に、物語冒頭に登場して甚三郎に腕試しを挑んだ武士たちが「江戸幕府」と連呼したり、甚三郎監視のためにつけられた少女の役職が「徒目付」であったりする点は、何となく理由はわかるものの、もう少し何とかならなかったのかな、と感じます。
私はあまり考証に気を使う方ではありませんが、上で述べたような本作のムードがあるだけに、こうした点がどうしても気になってしまうのであります。
こうした点は気になるものの、やはり題材や方向性としては実に面白い本作。
実は史実では甚三郎の潜入成果は「最後の忍び」を象徴するようなあまりに物悲しい代物だったのですが、本作においてはそれで終わるはずもないでしょう。
最後の忍びの真の活躍がいかなるものであるか、この先の展開に期待しましょう。
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