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2017.10.28

風野真知雄『女が、さむらい 最後の鑑定』 意外すぎる最終決戦!?

 女剣士と元御庭番のカップルが、村正をはじめとする数々の刀剣絡みの事件に挑むシリーズもいよいよ最終巻。彗星が江戸湾に落下したことから物語は急展開、異様な姿に変貌していく世界を舞台に、意外すぎる真の敵との最後の戦いが描かれることになります。

 男が頼りなく、女が逞しくなってきた江戸時代――村正を巡る事件で足の自由を失って刀鑑定屋となった御庭番・猫神創四郎と出会い、ともに様々な事件を解決することとなった北辰一刀流筆頭の女剣士・秋月七緒。

 そんな二人の前には、様々な者の手を転々とする月光村正、ねずみ村正、淫ら村正の三本の村正が、幾度となく現れることになります。
 徳川家に仇なすと妖刀と言われる村正の中でも特別な意味を持つと思われるこの三本に将軍家慶が異常な執着を見せるようになったことから、事態は大きく動き出すことに……

 無気力で「そうせい様」などと陰口を叩かれていたのがある日突然一変、自ら御庭番頭領を粛正して奇怪な術を操る忍びたちとともに村正探索に乗り出した家慶。
 さらに、天空を不気味な色に染め、江戸湾に落下した彗星と呼応するように、その忍びたちに斬られたはずの二人――尾張徳川家の若さまとその剣の師が復活、一路江戸城を目指すではありませんか。

 一方、七緒と創四郎も、虎徹という「聞いたこともない」刀を持ち込んできた男が現れたのをきっかけに、何かとてつもない変事が起き始めたことを察知。
 来るべき危機に対抗する力を持つという七本の村正を集めようとする二人がやがて知ることとなる恐るべき敵の正体と、この世界の真実とは……


 いやはや、前作のラストで急展開を予感させた本シリーズですが、最終巻で描かれるのは、まさしく想像を絶するとしか言いようのない、とんでもないにもほどがある超展開の連続。
 その内容を申し上げれば大きく興を削ぎかねないため、敢えて伏せたままとさせていただきますが、シリーズ開始時点の時点でこの展開を予測できたのは間違いなく作者のみ(いや失礼を承知で申し上げれば作者も予測していなかったのでは……)と言うほかない凄まじさであります。

 しかしその一方で、本作のムード自体はこれまでのシリーズと、いやこれまでの作者の作品と変わらぬ、どこか緩くユーモラスなものなのが実に面白い。
 まさしく世界崩壊の危機にある状況においてもどこか暢気で緊張感のないキャラクターたち(特に創四郎の母と姉)の存在感は、好き嫌いはあるかもしれませんが、その盛大なギャップが実に作者らしいと私は気に入っています。

 実のところ、本作の題材や趣向自体は決して前例のないものではないのですが、このギャップから生まれる衝撃と違和感は、唯一無二のものであると言えるのではないでしょうか。


 もっとも、やはり色々と困ったところがあるのも(山のように)また事実。

 中盤以降は時代小説としては完全にコースアウトとしか言えない展開になる――一応エクスキューズも用意されているのですが――のは、個人的には残念ではあるものの、好みの範疇かと思います。
 しかしいくら○○○でも、この時代にこの言葉はないだろうという言葉が出てきたり、比較的重要な人物がいきなり登場したり(その逆にあっさり退場する人物が)、色々と粗い点が見られるのは、非常に残念であります。

 さらにいえば、真の敵にあからさまに現実のモデルがいるのも、作者らしからぬ悪い意味での生々しさという印象があります。
(もっともこの敵に将軍が○○されることを思えば、作者らしい皮肉ととれなくもありませんが……)

 いずれにせよ、本作で描かれるのがインパクト絶大な内容であるからこそ、時代小説として足元をしっかりと固めて欲しかった――と、これは大いに勿体なく感じたところであります。


 とはいうものの、作者がこれだけのビッグネームとなってもそれに安住せず、様々な冒険をしてくれるのは、個人的には大歓迎であります。

 正直に申し上げて、真面目な読者の方は怒り出しても不思議ではない内容ですが――本作は作者でなければ書けなかった作品であることは、間違いないことでもあります。


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女が、さむらい 最後の鑑定 (角川文庫)


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