『コミック乱ツインズ』2017年12月号(その一)
表記の上ではもう今年最後の号となったコミック乱ツインズ誌。表紙を飾るのは『仕掛人藤枝梅安』、そして特別企画として小島剛夕の『孤剣の狼 鎌鬼』が収録されています。
『仕掛人藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
単行本刊行に合わせてか、3号連続巻頭カラーの2回目となった今回は、「梅安初時雨」の中編。牛堀道場の跡目争いに巻き込まれ、江戸を売る羽目となった小杉さんと梅安の旅は続きます。
小杉さんが後継者に指名されたのを不服に思い、闇討ちしてきた相手を斬ったものの、それが旗本のバカ息子であったことから、梅安とともに江戸を離れることになった小杉さん。しかし偶然から二人の居所が知れ、実に六人の刺客が二人に迫ることになります。偶然それを知って追いかけてきた彦さんも加えて、迎え撃とうとする梅安ですが……
というわけで今回のクライマックスは三対六の死闘。それぞれの得意の技を繰り出しながらの疾走しながらの戦いは、さすがの迫力です。
しかし今回印象に残ったのは、藤枝で過ごした少年時代を思い出す梅安の姿。かつて自分をこきつかった宿の者たちも、今の自分のことをわからないと複雑な表情を見せる梅安ですが――いや、確かに顔よりも首が太い今の体格になっては、と妙に納得であります
『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
我が国独自の鉄道網構築のために奮闘する男たちを描いてきた本作、今回の中心となるのは、これまで幾度か描かれてきた明治の鉄道の最大の問題点であった狭軌から広軌への切り替えであります。
レールの幅の切り替えに伴い、新たな、日本独自の機関車開発を目指す島。そのために彼は大ベテランの技術者・森に機関車設計を依頼するのですが――補佐につけられた雨宮は、既存の機関車の延長線上のものを開発しようとする森に厳しい言葉を向けます。
その言葉に応え、奮起した森はついに斬新な機関車を設計するのですが……
これまでも鉄道を巡る理想と現実、上層と現場のせめぎ合いを描いてきた本作。それがついに表面化してしまった印象の今回のエピソードですが――明らかに現場の人間でありつつも、誰よりも島の理想を理解してきた雨宮の想いはどこに向かうのか。なかなか盛り上がってきました。
『孤剣の狼 鎌鬼』(小島剛夕)
冒頭に述べたとおり、名作復活特別企画として掲載された本作は、実に約50年前に発表された連作シリーズの一編であります。
伊吹剣流の達人である放浪の素浪人・ムサシが今回戦うことになるのは、ある城下町で満月になるたびに現れては人々をむごたらしく殺していく謎の怪人。
奇怪な面をつけ、鋭い鎌を用いて武士や町人、男や女を問わず殺していく怪人の前に、ムサシもあわやというところまで追い詰められるのですが……
鴉の群れとともに夜の闇に紛れて現れる怪人の不気味さ、義侠心ではなく自分の剣の宣伝のために怪人に挑むムサシなど、独特の乾いたハードさが印象に残る本作。
しかし何よりも目に焼き付くのは、そのアクション描写の見事さでしょう。都合二度描かれるムサシと怪人の対決シーンは、スピーディーかつダイナミックな(それでいて非常にわかりやすい)動きを見せ、特にラストのアクロバティックな殺陣の画には惚れ惚れとさせられます。
次回も同じ小島剛夕作品、それも未単行本化作品ということで期待しております。
(しかし何故今この作品の、それも怪人の正体が結構な危険球のこの回を――という印象は否めないのですが)
充実の今号、長くなってしまったので次回に続きます。
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