横山光輝『伊賀の影丸 若葉城の巻』(その二) 乾いたハードさに貫かれた死闘の中で
忍者漫画の金字塔ともいうべき『伊賀の影丸』の最初のエピソード「若葉城の巻」の紹介の後編であります。超人と超人的人間と、二つの忍者の死闘を描いたこのエピソードですが、そこにはどうしても触れないわけにはいかない話題があります。
それは、忍者ものとしてのある作品との類似性――前回紹介した甲賀七人衆の能力をご覧いただければ察しがつくのではないかと思いますが、山田風太郎の『甲賀忍法帖』との類似性であります。
本作の3年前に発表された忍法帖シリーズの第1作である『甲賀忍法帖』。その中には、周囲の風景に同化して襲いかかる、口からの液体を蜘蛛糸のように操る、不死身の肉体で再生するといった忍者たちが登場します。
それだけでなく、不死身の邪鬼の能力によって、変装能力を持つ忍者、口から武器を吐く忍者(本作の場合この両者は同一人なのですが)が倒されるというシチュエーションも、ほとんど同一のものがあるのには、さすがに驚かされるところであります。
と、この辺りはどう考えても今であれば色々とややこしいことになるのではないかと思いますが――当時と今の感覚の違いというものはあるのではないかと思いますし、この点について、これ以上ここで触れるのは本意ではありません。
それよりもここで触れたいのは、こうした類似性はあるものの、物語から受ける印象が全く異なる点であります。
もちろん、本作ではそれ以外の物語設定や展開が全く異なることを考えれば、それはむしろ当然であるかもしれません。しかしそれ以上に本作は、忍者ものとして、影丸のキャラクター設定から生まれるハードさを色濃く感じさせるのであります。
忍者同士のトーナメントバトルを描く作品である本作。しかし影丸はその中でヒーローとして存在するキャラクターであり、敵も味方も次々と死んでいく中で唯一生き残る、生き残らざるを得ない存在です。
死によって退場していく敵味方の中でただ一人残される影丸――そんな彼は、ある意味邪鬼に並ぶ不死者といえるかもしれませんが、所詮は悪役として、敗北して退場せざるを得ない邪鬼よりも、さらに強い孤独を背負っていると感じさせられるのであります。
そしてそれと同時に、影丸は敵を倒し、自分が生き残るためには全く容赦しない人物として描かれます。
特に彼が姫宮村に潜入するくだりでは、自らが窮地から逃れるために(当人がそれを望んだとしても)人の死体を使ったり、村の小屋に火をつけたりと、その行動はかなりヒドい。それはヒーローである以前に公儀隠密である彼としてはむしろ当然なのかもしれませんが、やはりどこか一線超えた印象があるのは否めません。
いずれにせよ、本作、特にこのエピソードで描かれるものは、忍者たちが己の技術を競い合う他に生きる意味を持てない山風忍法帖の虚しさや、歴史や社会体制と密接に結びついた状況から生まれる白土作品の残酷さとは全く異なる――むしろ乾いた非情さというものを感じさせる、独自のハードさなのであります。
(上記の類似性があるからこそ、よりそれが際立つ、というのはもちろん牽強付会にもほどがありますが……)
そしてこの辺りの感情移入を排除するかのようなハードさ(の中で繰り広げられる潰し合い)というのは、本作の、このエピソードのみのものではなく、横山作品(特にバビル2世)においてしばしば底流に流れているものではないか、とまで言ってしまえば、いささか脱線したお話になってしまいますが……
冒頭のエピソードからいきなり結論を書いてしまった印象もありますが、この辺りは、シリーズとしての格好が固まる以前だったからこそ感じられるものもあることでしょう。
この印象が大きく異なることになるのかどうか……その点も含めて、この先、影丸の各話を取り上げていくのが自分でも楽しみになっているところです。
ちなみに増援陣が今ひとつ目立たない中、後半の影丸の相棒となる彦三が、糸目の垂れ目という横光漫画の兄貴キャラビジュアルも相まって異常に格好良く見えるのですが――地面に突き立てた刃を蹴り上げるという得意技は、これはこれでちょっとギリギリ感ありますね。
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