琥狗ハヤテ『メテオラ 肆』 過去との決別と新たな出会いと
琥狗ハヤテによる獣人水滸伝『メテオラ』、待望の続巻であります。自分たち魔星(メテオラ)の前世と宿命を知り、メテオラの拠点となる地を拓くために宿敵の目から隠れることのできる聖域を探す旅に出た林冲と魯智深。二人の前に現れる追っ手、そして新たなる魔星とは――
獣人に変化する力を持つことから、呪われた存在として忌避される者たち「魔星(メテオラ)」。その一人でありながら、育ての親の王進らの愛に包まれ、人として育った林冲は、しかし自分たちを狙う敵の存在を知ることになります。
その敵の名は「混沌」――かつて魔星との戦いに敗れ、封印された災いが、魔星を食らい、この世に舞い戻るために活動を始めたのであります。
混沌の化身と化した高キュウの配下により王進をはじめとする周囲の人々を失い、親友であり同じ魔星である魯智深と都を逃れた林冲。彼らは、やはり魔星である柴進のもとで、ついに自分たちの運命と成すべきことを知ることになります。
そして柴進が二人に託したのは、混沌の目を逃れ、魔星たちが拠ることのできる地を探すこと。今はまだ見ぬ地に向けて旅立った二人ですが……
というところから始まったこの巻、いきなり道に迷う羽目になった二人は、風が吹き、雪が降る中、古ぼけた廟に一夜の宿を借りることになります。
……とくれば、このくだりは「風雪山神廟」。原典では、林冲が都からの高キュウの追っ手となったかつての知人・陸謙と対決することになる見せ場の一つであります。
そして本作においても、やはり陸謙は林冲の前に現れるのですが――しかしその姿は本作に相応しいというべきか、悍ましくも哀しきもの。
混沌の餌食となり、配下とされた彼は、一種のゾンビとして、林冲と対峙するのであります。
これまで様々な水滸伝の中で、幾度も対峙してきた林冲と陸謙。本作はそんなある意味手垢のついた対決を、獣人vs屍人という、本作に相応しい異形の者同士の対峙として描きます。
しかしそれが一転、子供時代の二人の姿にオーバーラップしていく描写は、林冲が姿は獣であっても、どこまでも人間であることを何よりも強く示すものでしょう。
子供時代の描写の中で陸謙が林冲にかける言葉の哀しさも相まって、本作で幾度となく描かれてきた悲劇の中でも、特に心に刺さるくだりであります。
しかし、なおも二人の旅は続くことになります。旅の途中、人喰い虎が出没するという山にさしかかった二人は、酒屋のおやじが止めるのも構わず(何しろこの二人が野獣を恐れるはずもないわけで)先に進むのですが……
果たしてその前に現れた一匹の巨大な虎。しかしその虎に襲いかかるもう一匹の、いやもう一人の隻眼の虎の姿が!
そう、ここで新たに登場する魔星は、虎退治の豪傑、行者武松。武松が虎の姿に変じる作品は本作が初めてではありませんが、やはりしっくりくる組み合わせであります。
仲間と出会ったことを喜ぶ武松に誘われた二人が出会ったのは、病床にある武松の兄・武大と、その妻・潘金蓮。そして魯智深に対して怪しからぬ振る舞いをみせる潘金蓮ですが……
というわけで、この巻の後半で描かれるのは、武十回ミーツ林冲&魯智深というべき展開。この辺りは、基本的に武松側のシチュエーション的には原典通りということもあり、前巻や、そのエピローグとも言うべきこの巻の前半の展開に比べるとかなり大人しめの印象があります。
しかし見慣れたシチュエーションの中に、本来であれば全く無関係(もっとも、原典では柴進と武松には繋がりがあるわけですが)の林冲と魯智深がいるというのはなかなか面白い刺激であることはまちがいありません。
実は本作は、この巻からは電子書籍のみでの刊行となる模様ですが、しかしどのような形であれ物語が続くというのは素晴らしいことであります。
武松の物語もまだまだプロローグ、それがここからどのように本作流に料理されるのか――楽しみになるではありませんか。
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