横山光輝『伊賀の影丸 若葉城の巻』(その一) 超人「的」忍者vs超人忍者
忍者漫画の原型の一つとも言うべき名作『伊賀の影丸』。今回からしばらく、その各章(○○の巻)を紹介したいと思います。まずは記念すべきファーストエピソード「若葉城の巻」――若葉城の秘密を巡り、影丸とその永遠のライバル・阿魔野邪鬼が早くも激突するエピソードであります。
時は江戸時代前期、公儀隠密総帥・5代目服部半蔵の下で、様々な陰謀に立ち向かう若きエース・影丸の活躍を描くこの『伊賀の影丸』。昭和36年から41年まで連載された本作の冒頭を飾るのが、この「若葉城の巻」であります。
将軍(この時点では家光?)が御成りになることになった若葉城。しかし若葉城主・若葉右近には将軍家に対する謀反の疑いがあり、それを探りに向かった公儀隠密たちが姿を次々と消したことから、新たに影丸が送り込まれることとなります。
若葉藩到着早々、影丸を襲う常識では計り知れぬ特殊な肉体を持つ忍者たち。彼ら甲賀七人衆に苦戦する影丸は、途中増援に駆けつけた仲間たちと共に戦うものの、不死身の体を持つ七人衆のリーダー・阿魔野邪鬼に幾度も苦しめられることになります。
邪鬼をはじめとする七人衆の秘密を探るため、彼らの故郷である姫宮村に向かう影丸。その間にも若葉城の普請は進み、いよいよ将軍御成りは目前に迫るのですが……
というわけで、若葉城主の企みを探るという目的はあるものの、基本的なストーリーとしては影丸ら公儀隠密と甲賀七人衆のトーナメントバトルという、極めてシンプルな内容となっているこのエピソード。
その中で見事なのは、影丸ら今までの忍者漫画の中で一般的であった忍者、すなわち手裏剣やマキビシなどの忍具と体術で戦う隠密と、甲賀七人衆ら人外の域まで達するような特異な肉体を持つ忍者と――その両者の戦いを、少年漫画のフォーマット上で描いたことではないでしょうか。
(もちろん、特異な肉体を持つ忍者という点では、この数年前に登場した同じ名前の主人公を持つ作品、白土三平『忍者武芸帳』の影一族がいるわけですが、あちらは貸本の長編漫画の登場人物ということで……)
ここで甲賀七人衆のメンバーと能力を見てみましょう。
阿魔野邪鬼:殺されても再生する不死身の肉体を持つ
十兵衛:カメレオンのように周囲の景色に体色を同化させる
くも丸:口から強烈な粘性を持つ唾を吐く
犬丸:強力な嗅覚を持ち、犬を操る
五郎兵衛:刃も弾く非常に硬い肉体を持つ
半太夫:分身と催眠術を得意とし、相手を自決に追い込む
半助:水中に長時間潜ることができる
いずれも忍者というよりも超能力者と言ってもいいようなレベルの存在――いわば超人であります。
そんな彼らと、常人を凌ぐとはいえあくまでも超人「的」な人間(影丸の切り札である木の葉隠れの術も、あくまでも「技術」のレベル)との対決を描くことで、本作はヒーローものとしての側面と、忍法バトルの側面を両方持たせることに成功したといえるのではないでしょうか。
もっともこのバトル、七人衆が残り二名となった中盤以降でスピード感がガクンと落ち、舞台が若葉藩を離れてしまうのには違和感は否めませんし、影丸の仲間たちのキャラクター性もそれほど高くないため、やられ役としての印象が強いのも残念なのですが……)
しかし――こうした点以上に、このエピソードを語る上でどうしても触れないわけにはいかない点があるのですが、それについては長くなりますので次回に続きます。
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