吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第9巻 吉原に舞う鬼と神!(と三人組)
今年は一躍、週刊少年ジャンプの連載漫画の中でもダークホースからゴボウ抜きして本命に躍り出た感のある『鬼滅の刃』。その今年最後の単行本、第9巻が刊行されました。今回の舞台となるのは色町・吉原――表紙を独占した音柱・宇髄天元を中心に、新たなる死闘が始まることになります。
夢を自在に操り、鉄道と一体化する下限の壱・魘夢、真っ正面から相手を叩き潰す恐るべき戦闘力の持ち主である上弦の参・猗窩座との死闘の果てに、「柱」の一人である炎柱・煉獄杏寿郎を眼前で失った炭治郎・善逸・伊之助。
一時は悲しみに沈みながらも、杏寿郎の遺志を受け止めた三人組は、鬼との戦いを続けていたのですが――そんな中、蝶屋敷に現れ、女性隊員たちを強引に連れだそうとしていた天元と、三人組は対峙して……
と、女性隊員の代わりに天元の下で任務に就くことになった三人組。その向かう先は吉原――というわけで、何となくこの先の展開に予想がついたと思えばその通りで、三人組は女装させられて吉原に潜入することになります。
実は鬼の存在を察知した天元により送り込まれた彼の三人の嫁(ここで当然のように善逸が嫉妬を大爆発させるのが非常に可笑しい)が消息を絶ったことから、彼は三人を追って吉原に向かおうとしていたのであります。
ちなみに吉原遊郭といえばやはり江戸時代の印象が強いのですが、遊郭がなくなったのは終戦後しばらく経ってからなので、この時代に遊郭があることはおかしくはありません。
(ちなみに花魁道中も、明治時代に一度途絶えたものが、大正初期に復活しているので作中に登場するのは問題なし)
というわけでほとんど女衒のような言動の天元(しかし冷静に考えると、当初の予定どおり女性隊員たちが連れて行かれていたら、コレ大問題だったのでは)によってそれぞれ別の女郎屋に放り込まれた三人組。
行方を断った人々を探す彼らは、やがて色町に潜む邪悪な存在に気付くことに……
と、まさに「遊郭潜入大作戦」だったこの第9巻(の前半)ですが、ここで猛威を振るったのは、本作ならではの緩急の(緩緩の?)ついたギャグシーンの数々であります。。
この吉原編の陰の主役とも言うべき天元ですが、派手メイクを落とせば超イケメンながら、しかし自らを「派手を司る神、祭りの神」と自称する怪人物。そんな天元と三人組の絡みが絶品で、感受性が豊かすぎる三人組のリアクションにいちいち同じレベルで返す姿が、とにかく可笑しい。
特に、三人組がそれぞれ女郎屋に放り込まれながらも、それぞれの特技(?)を活かして活躍するシーンは抱腹絶倒であります。
黙っていれば超美少女フェイスの伊之助、持ち前の音感で吉原一の花魁を目指す善逸、生真面目さと体力で甲斐甲斐しく働く炭治郎……
一番まともなはずの炭治郎までもが変顔を披露するなど、潜入捜査とくれば緊迫感に満ちた展開のはずですが、相変わらず全く油断できない作品です。
……が、「緩」が大きければ大きいほど、「急」の部分がさらに大きくなるのが本作。闇深き街、吉原に潜むのは、花魁の姿を隠れ蓑にした上弦の陸・堕姫であります。
吉原で密かに語り継がれてきた、何十年かごとに現れる、美しくも邪悪な花魁――その正体である彼女は、既に吉原中に魔手を及ぼしていたのです。
そしてそれぞれの立場から、堕姫の脅威を知り、対峙することになる三人組と天元(この辺り、四人がバラバラに分かれて探索しているという状況を巧みに使って、緊迫感を高めるのがお見事!)。
炭治郎が単身堕姫と遭遇、孤独な戦いを始める一方で、伊之助が、善逸がそれぞれの戦いを始め、そしてそこに――!
という猛烈に盛り上がる展開で引きとなったこの第9巻。今まで以上に読み始めると止まらない巻でしたが、決して勢いだけでないうまさ、巧みさがあることを単行本で再確認させられました。
実はこの紹介を書いている時点で、まだ決着していないこの戦い。その先の展開に想いを馳せつつ、もう何回か、読み返すことになるかと思います。
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