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2017.12.16

輪渡颯介『欺きの童霊 溝猫長屋 祠之怪』 パターン破りの二周目突入!?

 コミカルで、そしておっかない時代怪談を書かせたら右に出る者がいない作者の人気シリーズも三作目。幽霊を「嗅いで」「聞いて」「見て」しまう溝猫長屋の悪ガキ四人組が、今回も様々な幽霊騒動に巻き込まれることになるのですが――今回は何と「二周目」アリ!?

 大量にいる猫が溝にはまって寝ていることから「溝猫長屋」と呼ばれる長屋にある祠。
 溝猫長屋では、かつてある事件で亡くなった女の子・お多恵を祀るこの祠に、毎年最年長の子供がこの祠に詣でるしきたりがあったのですが――お参りをした子供は、なんと幽霊に出くわすようになってしまうのでした。

 今年この順番に当たったのは、忠次、銀太、新七、留吉の四人組。しかし銀太を除く三人は、同じ幽霊に対して、それぞれ分担する形で「嗅いで」「聞いて」「見て」しまうようになってしまい、さらにそれが順繰りでやってくることになってしまいます。そして仲間はずれの形となった銀太には、最後に三つの感覚がまとめて襲いかかることに……

 と、おかしな形で幽霊に出くわす形になってしまった子供たちの冒険を描く本シリーズですが、今回はちょっと変化球。
 上の基本設定ゆえに、これまで全四話構成(三つの感覚が忠次・新七・留吉で一周+三つまとめて銀太)だった本シリーズですが、今回はなんと七話構成なのです。

 つまり二周目が――というわけなのですが、その理由が、冒頭で銀太が銭を入れた巾着袋をなくしたのを、お多恵ちゃんのおかげで幽霊に出くわしたからと嘘をつこうとした上に、毎回パターンに忠実なお多恵ちゃんのことを「芸がない」と罵ったからというのが、何ともすっとぼけていておかしい。
 おかげで本物の幽霊に出くわした上に、二周目という新パターンにまで突入され――と、今回も四人組は大いに幽霊に振り回されることになるのです。


 シリーズの毎回の物語展開に定番のパターンがあるというのは、うまくいけばその安定感に心地よさを感じるものですが、同時にワンパターンに陥りかねないという諸刃の剣でもあります。それも、そのパターンが特殊であればあるほど、その危険性が高まると感じられます。
 しかし本作においては、その危険性を逆手にとって、パターン破りを一つの題材としてしまう点に、何とも人を食った面白さがあります。

 実際、本作では作中で登場人物たちが「いつもだったらここで○○が出て来て……」とか「いつもだったら一連の出来事が実は裏で繋がってるはず」などと言い出す、メタ一歩手前の発言を連発。
 危険球スレスレではありますが、物語構造を逆手にとっての半ば捨て身の展開は実に楽しい。キャラクター造形や会話の妙も相まって、これまで以上に、読みながら幾度となく吹き出してしまった――というのは決して大げさな表現ではありません。

 もちろんその一方で、怪談としてもキッチリ成立しているのも本作の魅力であることは間違いありません。
 話数――すなわち怪異の数がこれまでの倍近いということは、そのバラエティもまた同様というわけで(特に二周目は一種の縛りもなくなったということもあって)これまで以上に楽しませていただきました。

 そして怖いだけでなく、切ない怪異があるのもまた本シリーズの魅力。
 本作で描かれた固く締め切られているはずの無人の長屋で人の生活の気配が――というエピソードなどは、その真相も相まって、温かみすら感じさせてくれる、ある意味本シリーズらしい人情怪談であります。


 とはいうものの、やはりパターン破りを売りにするというのは、シリーズとしては一度限りの大ネタ、窮余の一策という印象は否めません。
 内容的にも、毎度お馴染みの、あるキャラクターの「活躍」がおまけのようになってしまったりと(結果としてそのキャラの異常性をより浮き彫りにしているようにも感じますが)、マイナスの影響も感じます。

 本作の中で何度かほのめかされているように、いよいよ四人組とも別れの時が近いのかもしれませんが、いずれにせよ次回が正念場となることだけは間違いないでしょう。
 その時が来るのが楽しみなような怖いような――そんな気分なのであります。


『欺きの童霊 溝猫長屋 祠之怪』(輪渡颯介 講談社) Amazon
欺きの童霊 溝猫長屋 祠之怪


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