「コミック乱ツインズ」2018年2月号(その二)
今年も充実のスタートの『コミック乱ツインズ』誌、2月号の紹介の続きであります。
『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
いつ果てるとも知れない吉原からの刺客との戦いに苦戦する聡四郎。同門の弟弟子である俊英・玄馬を家士とした聡四郎ですが、はじめての人斬りに玄馬は目からハイライトがなくなって……
という上田作品ではお馴染みの展開ですが、こういう時体育会系の聡四郎は役に立たない。では誰が――といえば当然この人! というわけで紅さんがその煽りスキルをフル活用。煽りの中に聡四郎への惚気を交えるという高等テクニックで玄馬の使命感を奮い立たせ、見事復活させることになります。
そして白石からの催促に決戦を決意した二人は、師・入江無手斎に最後の稽古をつけてもらうことに――というわけで後半は無手斎無双。紅と無手斎、さらに玄馬と、聡四郎以外のキャラの活躍も増えてきたのが嬉しいところであります。
『鬼切丸伝』(楠桂)
犬神娘の悲恋を描く物語の後編――一族を失い、ようやく愛する人との平穏な暮らしを手に入れた犬神使いの少女・なつ。しかし彼女の夫となった元一領具足の甚八は、新領主である山内一豊の卑劣なだまし討ちにより、仲間共々命を落とすことになります。怒りと怨念に燃えるなつの犬神は鬼と化して……
というわけで前編を読んだ時の不吉な予感は半分当たり半分外れて、鬼と化したのはなつ自身ではなく犬神の方。しかし鬼殺すマンにとっては見過ごせる事態ではなく、久々になつの前に現れた鬼切丸の少年は、彼女に刃を向けることとなります。
しかし人間への不信と怨念に燃えるなつに対して、誰も恨むことなく命を擲った自分の母の話をする少年はちょっと悪手。予想通り、火に油を注ぐことになるのですが――しかし母への想いが、人間に怨みは向けないという少年の行動原理となっているのは面白いところです。
なにはともあれ、最悪の事態は避けられたものの、かつて愛しあった相手に対しても、犬神使いとしての使命を果たさざるを得なかったなつを何と評すべきか。しかしそうすることこそが、相手が愛してくれた自分だと、しっかりと二本の足で立つなつの姿は、哀しくも一つの強さを感じさせます。
とはいえ、ラストの山内一豊の妻の言葉のおかげで、「まこと女子は業が深い」という少年の言葉でオチとなってしまうのは、正直なところちょっと残念ではあります。
『用心棒稼業』(やまさき拓味)
年齢も境遇もバラバラながら、西へ東へ放浪を続ける用心棒稼業という点のみ共通する三人の男を描く新連載の第2回。
終活、仇討、鬼輪(いつの間にかこれが渾名に)とそれぞれを呼び合う三人のうち、今回は仇討――海境坐望の主役回となります。
三人分の宿代のための用心棒仕事に急ぐ坐望が、その途中で出会った、これから仇討ちの決闘に向かうという兄弟。まだ幼いその姿にかつての兄と自分の姿を見た彼は、一度は見過ごしながらも、とって返して助太刀を買ってでることに……
と、物語的には定番の内容ながら、絵の力で大いに読まされてしまう本作。坐望が、自分の稼業を擲ってまで兄弟のもとに駆けつけるまでの心の動きの描写もさることながら、何よりも、吹雪の中での決闘シーンが10ページに渡ってほとんど無音(擬音なし)で描かれるのが素晴らしいのであります。
それにしても海境坐望という名前は原典がありそうですが――わからない自分の浅学ぶりがお恥ずかしい。
その他、『エンジニール』は、ドイツ出張中でほとんど登場しない島の代わりに、その子・秀雄が主役となるエピソード。当時の都電の弱点を解消するための実験が、後の彼の偉大な業績に繋がるという展開は、面白くはありますが、さすがに逆算めいたものになっているのは残念。
また、『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)は、芦名家の跡継ぎを巡る各勢力の思惑の描写がメインで、合戦続きだった最近に比べれば動きは少ない回ですが、兄への複雑な想いを覗かせる伊達小次郎の描写はさすがであります。(夫を亡くした悲しみからの義姫の復活方法もさすが)
次号は久々に『軍鶏侍』(山本康人&野口卓)が復活。今号の新連載のようにすっ飛ばす一方で、人気小説の漫画化作品も着実に掲載するのが、本誌の強みだと今更ながらに感じます。
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