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2018.01.15

上田秀人『旅発 聡四郎巡検譚』 水城聡四郎、三度目の戦いへの旅立ち

 昨年7月に大団円を迎えた『御広敷用人大奥記録』。その続編、水城聡四郎の戦いを描く第3シリーズが早くも開幕することとなりました。「道中奉行副役」なる役目を与えられた彼の新たな戦いの始まりであります。

 新井白石に手駒として見出されたことから、幕府の金を巡る闇の数々と戦うこととなった『勘定吟味役異聞』。
 その最中に出会った徳川吉宗に命じられ、大奥改革のため、そして吉宗の愛する人のために奔走した『御広敷用人大奥記録』。

 いずれも四面楚歌の危険極まりないお役目をくぐり抜け、一時の平穏を得た聡四郎ですが――使える人間ほどこき使われるのが上田作品、あいや、吉宗の配下であります。
 久々に吉宗に召し出された聡四郎が任じられたのは、「道中奉行副役」という聞いたこともない役目。聞いたこともないのは道理、吉宗が聡四郎のために新たに作った役目だったのです。

 大奥の改革をひとまず終えた吉宗ですが、さらなる改革の最大の支障となるのは、吉宗を徳川の傍流とみて侮る諸大名や旗本たち。
 そんな自分の改革を妨げる者を炙り出すための監察役――目付へのステップとして、吉宗は道中奉行副役、すなわち主要街道の巡検使を設置したのであります。

 かくて聡四郎は、まずは三ヶ月世の中を見てこいという吉宗の命を受け、玄馬らを伴に東海道に旅立つのですが……


 というわけで、聡四郎三度目の受難の開幕編たる本作。今までに比べると「なにもなく旅をするだけでもかまわぬ」と、送り出す吉宗に言われているだけマシにも感じられますが、もちろんそれで済むわけがありません。

 何しろ、早速吉宗の決定が自分たちの権益を侵すと役人根性丸出しの目付たちが妨害活動を開始(しかし「水城? 勘定吟味役だから剣は駄目なんだろ?」的な彼らの勘違いが可笑しい)。
 そして前シリーズで散々聡四郎を逆恨みして襲いまくり、散々叩きのめされた末に江戸の暗黒街の住人にまで堕ちた伊賀者がしつこく彼を狙うことになります。

 さらに京では、これまた前シリーズで散々吉宗の恋路を妨害した末に隠居の身に追いやられた天英院の縁者までもが聡四郎を狙って――と、早くも聡四郎の四面楚歌状態がスタートした感があります。
(そこに、京と江戸の暗黒街の覇権争いが絡んでくるのがまた面白い)

 この巻では聡四郎の東海道中もまだ小田原・箱根どまりですが、この先旅が進めば、また雪だるま式に彼の敵は増えていくのでしょう。もちろん、そうなればなるほど、読む側の楽しみは増えるのですが……


 と、生まれたばかりの娘と相変わらずの奥さんから引き離されての苦行旅の聡四郎ですが、そんな彼――そしてお供の玄馬にとって、この旅にも一つの楽しみがあります。
 それは、二人の師である入江無手斎が用意した各地の道場への紹介状――長い間廻国修行を続けていた無手斎が知り合った各地の道場への紹介状を手にした二人は、各地の剣客たちとの出会いに胸躍らせるのです。

 そしてその第一弾が、小田原の一尖流道場。聞いたことのない名前ですが、あの無手斎が認めた相手なのですから、ただの道場のわけがありません。
 そこで聡四郎と玄馬は、強敵と対峙することになるのですが――その戦いは、これまでのシリーズになかったような、純粋かつ爽快なものであるのが嬉しいのです。

 これまでのシリーズでの聡四郎の戦いは、ほとんどの場合、任務の途上で襲ってきた者との対決でした。ということは、その戦いに絡むのは様々な欲であり、悪意であり、恨みであり――どうにも「暗い」ものばかりであります。
 しかしこの道場での戦いは、純粋な剣術家たちの競い合い。いわば剣豪ものとしての要素がここで大きくクローズアップされてきたとも言えますが、それが意外かつ魅力的なのです。

 もちろん、聡四郎は剣術家である以前に幕臣。あくまでも任務が優先であり、あまり剣術修行に現を抜かすわけにはいきません。
 しかしここで聡四郎を上回る剣の腕を持つ玄馬(もちろん彼も聡四郎の家士ではありますが)をより前面に押し出すことで、剣豪もの要素に違和感を感じさせない工夫がなされているのにも感心いたします。

 先に述べた通り、この先で聡四郎が出会う苦難の数々も気になりますが――それと同時に、この各地の剣術道場での、純粋な剣術(に終わる保証はないのですが……)との対峙も、大いに気になる新要素であります。


『旅発 聡四郎巡検譚』(上田秀人 光文社文庫) Amazon
旅発: 聡四郎巡検譚 (光文社時代小説文庫)


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