「コミック乱ツインズ」2018年4月号(その一)
「コミック乱ツインズ」最新号は、表紙が『軍鶏侍』と非常に渋いのに対して、巻頭カラーは華やかな『桜桃小町』という、ある意味、本誌のバラエティ豊かさを表していると言えるような内容。そんな本誌から、今回も印象に残った作品を1つずつ紹介いたします。
『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)
表の顔は腕利きの漢方医、裏の顔は公儀隠密というヒロイン・桃香の活躍を描く本作は二ヶ月ぶりの登場。冒頭で述べたように巻頭カラーであります。
今回登場するゲストキャラクターは、薩摩から江戸へやって来た女剣士・鹿屋桐葉。ふとしたことが縁で桐葉と知り合った桃香は、剣術指南役の家に生まれたために女であることを殺さねばならない彼女に、自分と重なるものを見出します。
そんな中、薩摩藩を挑発した(蘇鉄に葵の簪が――というあれ)公儀隠密が何者かに殺害される事件が発生。桃香は桐葉の仕業ではと探索を始めるのですが……
普段は隠密稼業を嫌う桃香が珍しく率先して探索に挑む今回。彼女とある意味同じ存在であり、そして対極にある存在である桐葉が(作者らしい美女ぶりも相まって)印象に残ります。
真の敵は登場した瞬間にわかってしまいますし、そのわかりやすい悪役ぶりもどうかと思いますが、桐葉の想いと行動を強く肯定してみせる桃香の姿は実に良いと思います。
『軍鶏侍』(山本康人&野口卓)
姦夫姦婦を斬って逐電した藩随一の剣の使い手・立川彦蔵と軍鶏侍・岩倉源太夫の対決編の後編。彦蔵に姉を斬られながらもなお彼を尊敬する若侍を通じて描かれる彦蔵の人物像と、その沈着なビジュアルが印象に残りますが――その彦蔵の前妻を後添えに迎えたという妙な因縁を背負いつつ、泰然と決闘に臨む源太夫も人物といえば人物。
冷静に考えれば非常に武士道残酷物語なシチュエーションをそう感じさせないのは、この二人の人物に依るところが大ですが――しかし決闘が始まってみればこれが壮絶の一言。
決して綺麗ではない、いや血塗れで泥臭い斬り合いの有様を軍鶏の戦いに例えて語る源太夫ですが、それは自分の腕を自嘲するものでありつつも、それ以上に彦蔵を讃えるものでしょう。
一抹の救いがある結末も良い今回のエピソードですが――しかし静かに源太夫を送り出し、この結末を受け入れる新妻のあまりによくできた人物っぷりが、個人的にはむしろ不気味な印象があります。(そもそも、前回語った内容が全然当たってなかったのが……)
『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
原作第2巻『熾火』編もいよいよクライマックス。一気に決着をつけるべく、吉原は三浦屋に正面から乗り込んだ聡四郎と玄馬に迫るのは、命知らずの忘八衆――しかもその数、数十人!
というわけで最初から最後まで一大チャンバラが繰り広げられる今回、以前も描かれたように死兵と化した忘八たちを、顔に紗をかけて目だけ光らせるビジュアルで描くセンスが光ります。
そんな忘八たちが、思わぬことがきっかけで人間性を見せてしまうという皮肉さも面白いのですが、しかし彼らはあくまでも前座、真の敵は長髪・襟巻きのビジュアルも強烈な人斬り牢人・山形であります(ちなみに常に不敵な山形が、上記の忘八たちを前に慌てる場面がちょっと可笑しい)。
玄馬の助太刀を断って一対一の決闘に臨む聡四郎、ラストの見開きページの画がまた実にイイのですが、さてその決着は――次回ラストであります。
『カムヤライド』(久正人)
第3回まで来て好調さは変わらぬ古代変身ヒーローアクション、今回は日向編の後編。全てを変えた天孫降臨の地・高千穂で、異形の国津神と対決するモンコ=カムヤライドとヤマトタケルの運命は――というわけで、ほとんど全編にわたりアクションまたアクションであります。
見開きコピー二連続という大胆なページ使いから、カムヤライドの神速ぶりを描く冒頭のテクニックにまず驚かされますが、それすら上回る国津神の早さと、それにより、タケルの出番を用意してみせる構成もまた巧み。
本当にほぼ全編バトルのため、ほとんど物語に展開はなし――と思いきや、ラストに落とされるとんでもない爆弾も素晴らしく、まだまだ先の読めない作品であります。
今回も長くなってしまいました。次回に続きます。
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