DOUBLE-S『イサック』第3巻 語られた過去と現在の死闘
17世紀ヨーロッパの三十年戦争の渦中に現れた日本人「銃士」イサックの戦いを描く本作も、第3巻に入りいよいよ佳境。これまで謎に包まれていた彼の過去――何故彼が故国を離れ、はるばるヨーロッパにやってきたかが語られることとなります。そして更なる窮地に陥った彼と仲間たちの運命は……
1620年、プロテスタントとカトリックが激突する最前線である神聖ローマ帝国はフックスブルク城に現れた日本人青年・イサック。その長大な火縄銃でスペイン軍を率いるスピノラ将軍を狙撃した彼は、城の窮地を救ってみせるのでした。
さらにスペイン王太子アルフォンソ率いる一万五千の大軍を撃退するなど、イサックはフックスブルク城を守ってきたプリンツ・ハインリッヒとともに獅子奮迅の活躍を繰り広げることになります。
今度はハインリッヒとともにローゼンハイム市防衛に向かったイサックですが――そこで彼を待ち受けていたのは、スピノラの名を継いだ将軍の弟の側についた、もう一人の日本人銃士・ロレンツォ。
イサックと同じ銃を持ち、勝るとも劣らぬ銃の腕を持つロレンツォによって狙撃されたイサックは、人事不省に陥ることに……
というわけで、いよいよイサック個人の物語が語られることとなったこの第3巻。
ここで語られるイサックの本名は猪左久、そしてロレンツォの本名は錬蔵――二人は、かつては共に堺の鉄砲鍛冶筆頭の下で一二を争う兄弟だったのであります。
師が大御所家康の命によって作った二丁の兄弟銃の一丁を奪い、師を殺して海を渡った錬蔵。その錬蔵から銃を取り返して家康に献上し、人質として捕らえられた師の娘・しほりを救い出すために、残された銃を手に、猪左久もまた海を渡ったというのです。
ハインリッヒに対し、自分の行動原理を「恩」と「仇討ち」であると語ったイサックですが――なるほど、この過去をみれば、まさしくその二つのためにイサックはここまでやってきたことがわかります。
これまで痛快な活躍を見せつつも、あくまでもこのヨーロッパでは余所者の助っ人であったイサック。ここで旅の目的であるロレンツォが敵に回ったことで、イサックがいまこの場所で戦う理由ができたことは、物語の構造からしても大きな意味を持つと感じます。
もっとも、もうしほりさんの方は手遅れではないのかなあ――と素朴に感じてしまうのですが、それはさておき。
さて、こうして語られたイサックの過去ですが、現在の危機が去ったわけではありません。
新スピノラ率いるスペイン軍は市を重囲し、そこから脱出しようも攻撃しようにも、顔を出した瞬間にロレンツォによって狙撃される――攻撃も防御も退却もならず、じりじりと追い詰められていく状況。
これを打開すべく、片腕が効かない状態でハインリッヒとともに打って出たイサックは、銃だけでなく、刀においても見事な腕前を見せるのですが……
危機また危機の展開から、一瞬の好機を掴んで脱し、そして奇策でもって逆転を狙う――この辺りの波乱万丈の展開は、こうした合戦ものならではの面白さであることは間違いありません。
イサックやロレンツォの銃撃の描写だけでなく、兵士たちが入り乱れる白兵戦をも巧みに描く作者の画の力もあって、冷静に考えればあまり物語は進んでいないにもかかわらず、物語は盛り上がりっぱなしであります。
もっとも、ここでイサックの過去が描かれると、彼の超人的活躍に少々リアリティが感じられなくなってくるのは痛し痒しという印象もあります。
特に終盤に登場する○○○は、日本の合戦で使われたケースはあまりないように記憶しておりますが、それをここまで的確に使うのは、イサックの言うような理由では無理ではないかとも感じられます。
この辺りにあまりあれこれ言うのは野暮なのかもしれませんが……
何はともあれ、ローゼンハイム市攻防戦もいよいよ大詰め。ここに来て再び現れたアルフォンソ王太子の存在は、イサックたちにとって吉と出るか凶と出るか――そしてイサックとロレンツォの戦いに決着はつくのか。
意外な(?)助っ人の登場とともに、次巻に続きます。
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