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2018.03.04

一色 美雨季『浄天眼謎とき異聞録 双子真珠と麗人の髪飾り』 劇場と因習の交わるところに

 人や物に触れることで、その記憶を覗くことができる「浄天眼」の力を持つ戯作者・燕石と、その世話役で大劇場の跡取り・由之助が出会う様々な事件を描いた『浄天眼謎解き異聞録』の続編であります。それぞれの大事件を解決した二人を待つものは……

 時は明治、浅草の人気芝居小屋「大北座」の跡取り息子である少年・由之助は、知人の警部補・相良の頼みで、相良の幼なじみの戯作者・魚目亭燕石の身の回りの世話をすることになります。
 たちまち意気投合した燕石と由之助ですが、燕石には大きな秘密がありました。彼は浄天眼――人や物に触れることで、その記憶や過去を覗く力を持っていたのであります。

 しかしその力はともすれば周囲に忌避され、そして使うことで燕石の体にも多大な負担をかけるというもの。
 そのために他人との関わりを避けてきた燕石ですが、由之助や相良と付き合ううちに様々な事件に巻き込まれることになります。そして由之助と燕石は、それぞれの過去と、愛する人にまつわる事件に対峙することに……

 という第1作を受けた本作は、連作短編集といった趣の物語。
 前作のラストで、長い間想い想われてきた幼なじみの千代と結ばれることになった燕石とその周囲を描く「初耳と周知の事実」、思わぬ椿事がきっかけで殺人犯の疑いをかけられ、逃げてきた千代の弟を救う「黒マントの中」、わがままで世間知らずの燕石の妹・翠子の賑やかな日常「虎と蛇と待宵草」、大北座で人気の男装の女優を巡り、相良警部補が奮闘する「麗人の髪飾り」、燕石の少年時代と、彼が戯作者を志した理由を語る「びるばくしゃの筆」……
そんな全5話から構成されています。

 既に前作において描かれた燕石と由之助をはじめとするレギュラー、サブレギュラーの人物造型を踏まえて展開していく本作。
 細かい設定などは既に語られていることから、その分にページを取られることなく展開していく物語は非常にテンポよく、既にお馴染みとなったキャラクターの一挙手一投足を存分に楽しむことができます。


 そんなキャラクターものとしての魅力(特に今回、翠子の人間台風っぷりが実に楽しい)を備えた本作ですが――しかし、前作で燕石と由之助のドラマがほとんど完結してしまっているのが、苦しいところであります。

 自分の出生の秘密と対峙し克服した由之助、すれ違い続けてきた愛する人とようやく向き合うことができた燕石、そして二人と大きな因縁を持つ男との対決……
 と、盛り上がるエピソードをすべてクリアしてしまったため、本作において二人の出番は(少なくとも前作よりは)少なく、連作短編集とはいえ、一つの物語としてのまとまりがかなり苦しく感じられるところです。


 しかしそんな中、第三の主人公と呼びたくなるような存在感を見せたのが、相良警部補――本作のサブタイトルの元ともなっている「麗人の髪飾り」は、そんな彼が活躍する、そして彼自身のエピソードなのであります。

 大北座で大当たりを取った男装の麗人・橋本玉緒。彼女が異性装を禁じた違式違式カイ違条例違反であるという投書をきっかけに玉緒に近づくこととなった相良は、平行して捜査していた怪しげな祈祷師の素顔が玉緒に瓜二つだった事実に困惑することになります。
 生神と称して怪しげな祈祷を行う祈祷師と玉緒に関係はあるのか。そして玉緒に対するいやがらせのような投書は何者が、何故行うのか。奔走する相良は、その背後に潜む意外な真相と対峙することに……

 前作でも主な舞台の一つであった大北座という劇場。そこは(パリのオペラ座がそうであったように)華やかなショービジネスの世界であると同時に、男女のナマな欲望が絡み合う世界であります。
 その辺りをかなりはっきりと、露骨に描く本シリーズの特色はこのエピソードでも濃厚なのですが――ここではそこに奇怪な因縁・因習を絡めることで、さらにどぎつくも哀しい物語を描くことに成功していると感じます。

 西洋風の劇場と、土俗的な因習と――その両者が交錯するこのエピソードは、ある意味明治という時代を象徴する内容でもあり、その意味でも本作の中で特に印象に残るところであります。


 このように長所も短所も入り交じった本作。第3作があるのかはまだわかりませんが、相当に強烈なキャラクターが登場したところでもあり、まだこの先を見てみたいという気持ちは確かにあります。

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