正子公也&森下翠『絵巻水滸伝 第二部』招安篇3 絶体絶命、分断された梁山泊!
web連載の方では最終章「方臘篇」も佳境でどんどんファンの心を折ってくる『絵巻水滸伝』第二部ですが、単行本刊行がスタートしたその序章「招安篇」も、早くもクライマックス。官軍の総攻撃を前に、約束の地・梁山泊から分断されてしまった百八人の豪傑たちの運命は……
東京を騒がせたことをきっかけに行われることとなった梁山泊への招安。しかしそれは奸臣たちの罠――招安を梁山泊が蹴ったことを契機に、官軍の総力を結集した攻撃が始まることになります。
しかし攻めてくるのが童貫や高キュウであれば恐るに足らず――と言いたいところですが、そこに現れたのは大宋国各地から集結した十節度使!
かつては梁山泊同様の賊徒であったものが、招安を受けて官軍に下った節度使たち。いわば梁山泊にとっては同類であり先輩とも言うべき、文字通り一騎当千の猛将は、宋国四天王の一人・聞探花こと聞煥章の計の下に、梁山泊に襲いかかることになります。
その攻撃の前に後手後手に回ってしまった梁山泊。しかしその反撃がついに始まることに……
というわけで、この巻の冒頭で描かれるのは梁山泊勢による済州攻め。官軍を束ねる童貫が駐留する済州を落とし、童貫を討てばこの戦いは終わる――そう読んで主力を投入した梁山泊は、得意の奇計で瞬く間に済州を奪ったかに見えたのですが、しかしここからが本当の戦い、本当の地獄が始まることになります。
既に童貫は済州を脱出してその姿はなく、逆に済州に押し込められることとなった宋江以下の梁山泊軍。そして主力不在の梁山泊は、思わぬ官軍の策によって、水軍の戦力を一気に失うことになります。
分断された梁山泊軍に襲いかかる節度使軍。さらに、方臘に備えていたはずの宋国水軍の主力・金陵水軍を率いて高キュウまでもが襲いかかり、梁山泊は絶体絶命の窮地に陥ることになります。
それでももちろん、梁山泊の豪傑たちがそうそう簡単に屈するはずがありません。
節度使たちの重囲から脱出し、梁山泊に帰還せんとする林冲や呼延灼、関勝。ほとんど船が失われた状況においてゲリラ戦を仕掛ける李俊、張横、阮三兄弟。そして梁山泊を守るべく動き出す盧俊義と呉用。
いずれも持てる力を尽くす豪傑たちですが、しかし圧倒的な物量と配下の犠牲を厭わぬ官軍の攻撃を前に、彼らの反抗も虚しく……
前巻の紹介でも述べましたが、原典ではほとんどボーナスステージのようなノリで梁山泊軍が大暴れした節度使や童貫・高キュウとの戦い。
しかし本作においては敵もさるもの――どころではなく、梁山泊軍は危機また危機の連続。このまま梁山泊が負けてしまうのではないか、という勢いの戦いが、この第3巻丸々一冊を費やして描かれることになります。
ここで描かれるものは、細部は異なれど原典から大まかな展開は変えてこなかった本作のこれまでの流れからは、大きく外れたようにも思えます。
これは今にして思えば、「水滸伝」という物語をより説得力ある物語として描くための構成として、大きな意味があることがわかるのですが――しかしそれはもう少し先の話。今はただ、本当にファンにとっては胃が痛い展開が続きます。
しかしその一方で、戦場で軍として正面からの戦いで力を発揮する姿よりも、圧倒的な敵に知恵と度胸で挑む姿の方が、より梁山泊の豪傑らしい――そんな想いも確かにあります。
特にこの巻の後半、絶望的な状況から奇策で反撃を挑む水軍勢の姿は、これぞ梁山泊と言うべき、実に「らしい」ものであると言うべきでしょう。
しかしその反撃も封じられてしまうのが、本作の恐ろしいところなのですが……
果たして宋江と呉用の最後の策が功を奏するのか、果たして豪傑たちの勝利の歌は響くのか――まだまだ目が離せない展開が続きます。
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