野田サトル『ゴールデンカムイ』第14巻 網走監獄地獄変 そして新たに配置し直された役者たち
放送中のアニメも大人気のようでめでたい『ゴールデンカムイ』ですが、原作漫画の方はこの巻で大きな区切りを迎えることになります。全ての始まりとなったのっぺら坊を巡り、網走監獄に全ての役者が集結して繰り広げられる一大血戦――その先に待ち受ける意外すぎる展開とは?
アシリパの父・ウイルクではないかと疑われるのっぺら坊を求めて手を組み、網走監獄への旅を続けてきた杉元一派と土方一派。しかし網走監獄は、鬼の典獄・犬童によって要塞同然に防備を固められた場所であります。
土方に内通していた看守・門倉の手引きや、白石の活躍で何とか内部に潜入した杉元・アシリパ・白石たちですが、しかし見つけたのっぺら坊は偽物。
さらに土方が不審な動きを見せる一方、鶴見中尉の北鎮部隊が水雷艇を持ち出して監獄に対して攻撃開始!
かくて杉元・土方・鶴見・犬童の四派の思惑が入り乱れたバトルロイヤルが始まることに……
というわけで、この巻の8割方を占めるのは、死闘に次ぐ死闘の数々。そもそも網走監獄自体が入るも地獄・出るも地獄の要塞と化していたところに、日露戦争帰りのガチの軍隊――それも半ば狂人が指揮する――数十名が乗り込んでくるのですから、ただで済むわけがありません。
さらに乱戦の中で収監された700名の凶悪犯が解き放たれたとくれば、そこで展開するのはまさしく血で血を洗う地獄絵図以外にないのであります。
そしてその中で繰り広げられるのは、杉元vs二階堂、土方vs犬童という因縁の対決。
特に後者は、長きにわたり捕らえられてきた男と、その男に執着し続ける男という数十年に渡る怨念の激突に留まらず、さらに明治という時代の構図まで重なるのがグッときます。この巻の表紙が、この対決時の土方なのも頷けます。
さらに彼らの他のレギュラー陣にも、皆それぞれの出番があり――特に出番は少ないながらも強烈なインパクトを見せた○○○先生に拍手――これだけの混戦を見事に捌いてみせる作者の手腕には瞠目するほかありません。
そして戦いに次ぐ戦いの末、ついに対面する杉元と真ののっぺら坊。はたしてその正体は――なのですが、それを知った杉元が、アシリパのためにぶつける言葉がたまらない。
目的のためであれば全く躊躇することがない土方。もはや戦い自体が自己目的と化しているかにも見える鶴見。
望むと望まざるとにかかわらず、すでに修羅の世界に踏み込んでしまった連中は仕方がない。しかし、アシリパだけは、彼女だけはそうなってはならない――そう叫ぶ杉元の言葉は、彼もまた敵に対しては狂的な闘志をむき出しにする一種の怪物だけに、強く胸に刺さるのです。
(そしてそんな好青年と狂戦士の二面性を持った杉元のキャラクター像は、混沌とした本作の主人公にふさわしいと再確認させられます)
しかし恐るべきクライマックスは、その直後に訪れます。杉元に真実を語ろうとするのっぺら坊――その二人を襲う凶弾。それを放った者、この乱戦の中で巧妙に身を潜め、機を窺っていた者とは……
あまりといえばあまりの急展開に驚かされる中、怒濤の勢いで動いていく事態。ある者は捕らわれ、ある者は逃れ、ある者は深く傷つき――ここに至り、物語の人物配置図はほとんど全てリセットされ、新たに配置し直されることになるのであります。
ひねくれた言い方をしてしまえば、まだ黄金の在処を示す刺青人皮が全て揃っていないこの状況で物語が終わるわけはないとは思っていましたが、しかしこう来るか! と悔しさ三割、嬉しさ七割で唸るほかありません。
そして新たな――これまた意外すぎるチーム編成で、物語は次の局面に突入することになります。更なる北の地で、いかなる物語が描かれることになるのか。そしていかなる秘密が明かされるのことになるのか……
まだまだまだ、この作品には振り回されることになりそうですが――それがまた、たまらなく嬉しいのであります。
……あっ、ラストにはウルヴァリンが乱入!?(嘘は言っておりません)
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