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2018.06.14

賀来ゆうじ『地獄楽』第2巻 地獄に立つ弱くて強い人間二人


 不老不死の仙薬を求め、孤島で繰り広げられる死罪人たちと山田浅ェ衛門たちのデスゲームを描く死闘絵巻、待望の第2巻であります。死罪人同士の潰し合いがエスカレートする中、ついに牙を剥く島に潜むモノたち。誰が味方で誰が敵かもわからぬ混沌の中、画眉丸と佐切の戦いの行方は……

 不老不死の仙薬が眠ると言われ、極楽浄土とも呼ばれる南海の孤島。しかし幕府が送り込んだ調査隊は一人を残して全滅、その一人も植物とも生物ともつかぬ奇怪な存在に変化していたのであります。
 そこで幕府が新たに送り込むこととしたのは、いずれも恐るべき力を持つ十人の死罪人。それぞれ一人ずつの山田浅ェ衛門――首斬り浅ェ衛門の名を許された門弟たち――を監視役としてつけられた彼らは、無罪放免と引き替えに「極楽浄土」に送り込まれたのです。

 しかしいずれも凶悪な死罪人たちが、黙って命令を受け入れるはずもありません。死罪人同士殺し合う者、浅ェ衛門に襲いかかる者――そんな中で、本作の主人公たる最強の忍び・がらんの画眉丸と山田浅ェ門の娘・佐切も、時に互いに刃を向けあう危ういバランスで結びついた状態で先に進むことになります。

 そんな中、突如現れたのは奇怪な怪物――人間を花に変える毒を持つ蟲たちや、神や仏をグロテスクに真似たような巨人たちこの世のものとは思えぬような怪物たちの群れとの戦いを余儀なくされる二人ですが……

 不老不死の秘薬と自由という、ただ一人しかたどり着けないゴール目指して始まった死罪人たちのデスゲーム。しかしこの第2巻で描かれるのは、彼らの敵は同じ死罪人(あるいは監視役の山田浅ェ衛門たち)だけでないという恐るべき事実であります。

 人間同士であれば幾人殺してもケロリとしているような死罪人たち――人間社会においては怪物と言うべき彼らですが、しかし本物の怪物と出会ったとしたら?
 人間社会からはみ出した死罪人という怪物と、自然界の法則を逸脱したような異形の怪物――いささか悪趣味かもしれませんが、その戦いには、やはり強く目を引きつけられます。

 そんな地獄めいた世界ですが、しかし送り込まれたのは面々のしぶとさは尋常ではありません。
 画眉丸と佐切の前に現れ、ひとまず手を組むこととなった全く油断ならぬ死罪人のくノ一・杠。実は山田一門に潜入した弟と仙薬獲りに動き出した賊王・亜左弔兵衛。一度は島を抜けようとした際の死闘で心を繋い山の民のヌルガイと山田浅ェ門典坐(さらに、前巻であっさり死んだかと思われた二人も)……

 いずれ劣らぬ強者揃い――ひとまず休戦した者、元々グルだった者、新たに絆を結んだ者と様々ですが、しかし戦闘力だけであればそうそう不覚を取る面々ではありません。
 ……が、そんな中でただ一人、己の本能のみで動き回るのが、死罪人の中でも最大の巨体を持つ備前の大巨人・陸郎太。自分の浅ェ門を文字通り粉砕した彼が、画眉丸と佐切の新たな敵として立ち塞がることになります。

 しかし佐切はその前の怪物たちとの戦いで傷を負い、他の浅ェ門からは戦力外通告を受けた状態。そもそも、この島に渡った後に画眉丸と対決した際に、既に彼女は惨敗を喫しているのであります。
 そもそも人を斬ることに対して、深い屈託を抱えてきた佐切。それでは彼女は弱いのか、弱肉強食のこの島の理の前に屈するしかないのか――答えは否であります。

 ここで描かれるのは、彼女の持つ「強さ」とは何か――その在り方は、そしてその源は何なのか、その答えであります。
 そしてそれは、かつては無敵でありながら、今は人を殺めることに迷いを抱く画眉丸の「弱さ」と、一対のものであることは言うまでもありません。その「強さ」と「弱さ」を繋ぐものが、「人間性」であることもまた。

 そんな弱くて強い人間二人が、共通の敵のために力を合わせる展開に胸が熱くならないわけがありません。今ここに二人は真の相棒としてこの地獄に立つことになったのですから……

 そして死闘の果てに現れた、この島の新たな顔。果たしてそれがこの地獄の謎を解き明かす鍵となるのか――まだまだ先は見えません。そしてそれはもちろん、こちらの楽しみが尽きないということでもあります。

 今はただ、画眉丸と佐切が戦いの果てに、己が掴みかけたものの、その先を見ることができるように祈るのみであります。

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