宇野比呂士『天空の覇者Z』第10巻 決着、Z対G! そして天馬新たなる旅立ち
世界変容の終了直後、ネモ最後の策でGに特攻を仕掛けるZ。互いに艦橋を狙った末に対峙するネモとクブリックだが、ZとGは共に墜落することになる。Zが修理される間、日本に向かう天馬。見送るネモは、ギヌメールに自分とヒトラー、竜崎博士の因縁を語る。一方、深い傷を負ったヒトラーは……
一冊丸々、異世界で繰り広げられる天馬とヒトラーの戦いが描かれた後、久々に現実世界に戻って繰り広げられるこの第10巻。読者としてみれば、まさにZとゴグマゴグの決戦寸前に一時停止していたようなものですが――しかし停止前と異なるのは、眼下のラルカナルタが全盛期の姿を取り戻していたことであります。さらに死んでいたはずの巨大なT鉱隕石が再活性化し、その反重力作用で周囲の運河の水が浮遊、濃密な霧が周囲を包む中、Zは霧海の中に消えます。
思わぬ奇跡に助けられましたが、元々ネモはZの主砲を地下水脈に打ち込んで同じ現象を起こそうとしていたのでこれは計算のうち。しかしいくら隠れても、浮上した時にG砲を喰らえばおしまいなのですが――クブリックがある迷いを抑えて発射したG砲は、浮上したZをすり抜けた!? 実は浮上したかに見えたのは水空現象で空気中の水滴に映ったZの鏡像。まさしく「砂漠の蜃気楼」でクブリックの裏をかいたネモの最後の策は――突撃!
衝角でGを串刺しにしたZから、一気に艦橋を占拠すべく突入したJ率いるZ陸戦隊ですが、逆にクブリックは愛犬とともにZの艦橋を急襲、ネモに銃を突きつけます――しかし、そこでクブリックの前に立ったのはエリカ。実は(読者にはわかっていましたが)彼女はリヒトホーフェンの妹であり、クブリックの許嫁だったのであります。さらに、許嫁の乗った艦にG砲を撃ったのかというウェルのツッコミにクブリックもたじろぎ(なんか乱入してきたベイルマンも取り押さえられて)、この場は完全にZ側の勝ちかと思いきや――なんとクブリックは囮、この隙にZのT鉱炉を襲撃した配下によって炉心がパージされ、Zは質量を取り戻して墜落することに……
しかし最後の意地でウェルがハープーンを打ち込んだことでGも巻き添えとなり、よりによってT鉱隕石の上に墜落。アンジェリーナの励ましで何とか力を取り戻した天馬の先導で辛うじてZは不時着したものの大破し、その最中にクブリックはどこかに姿を消すのでした。
そしてGの残骸とT鉱石を利用して、Zの修復に挑むウェル。一時は獣性細胞が暴走したネモも小康状態を取り戻しましたが、ジャン・レノというより黒いタートルネックが似合う元CEOのようなビジュアルに――というのはさておき、訪ねてきたギヌメールに対して、目指すツングースにあるものが「レーベンスボルン」と呼ばれる純獣性細胞であると語ります。ツンドラの下に眠る全ての獣性細胞の根源と呼ばれるそれが如何なる力を持つのか――それはネモにもわかりませんが、しかしヒトラーに渡してはならないと強い決意を語るのでした。
第一次大戦時、ギヌメールとの空戦の果てに一度は落命したネモに獣性細胞を与えて蘇生させたヒトラー。以降、世界を作り変えるというヒトラーの夢を実現するため、ネモは竜崎博士とともに三人でT鉱と獣性細胞の研究に勤しむのですが――しかし、ヒトラーの体の異変を仄めかいた直後に竜崎夫妻が謎の死を遂げ、さらにミュンハイムの悲劇でZ砲開発のために街一つが消滅したのをきっかけに、ネモはヒトラーと決別し、Z同盟を結成するに至ったのであります。
一方、そのヒトラーは世界変容中の天馬との死闘で結局瀕死の重症を負い、回復も果たせぬまま、ズタズタの意識不明状態で医療カプセルに収容される状態。そしてその間に実験を握ったのは、影武者であったチョビ髭の男と、謎の怪人物リーフェンシュタール博士――ヒトラーをいわば人質にとった彼らの言うままに、ヴァルキュリア隊は新たな任務に就くことになるのでした。
片や、「逃げない男になるため」とネモに申し出て、日本に向かう天馬。流星の剣を折られた直後は、これまで一貫して明朗快活、強気だった彼とは思えぬほどの狼狽ぶりを見せた天馬でしたが、アンジェリーナとともに新たな運命を歩むため、彼女(あとJとキリアン)を連れて、日本に向かうことに……
というわけで中盤の大きな山だったからクーム編も大波乱の末に完結、本当にZとGが同体で墜落した時にはこの漫画も一巻の終わりかとリアルタイムで読んでいた時には思いましたが(ここのところずっと同じようなこと言ってますが)、次巻からは日本編に突入、まだまだ物語はここからが盛り上がることになります。
にしてもレーベンスボルンという語をこういう形で使ってくるとは――確かに元の意味は「生命の泉」であるわけで、そのセンスに脱帽であります。
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