TAGRO『別式』第2巻 新たな別式が抱える陽と陰
何でもアリ日常系時代漫画のようでいて、実は青春残酷時代劇――そんな『別式』の第2巻であります。団子四別式の一人にして要だった早和が去った江戸に登場した新たな別式――類たちとはタイプの違う美女にして二刀流の遣い手である刀萌。しかし彼女もまた、何やら暗い影を背負っていて……
古河藩土井家の武芸指南役だった亡父の技を継ぎ、無敵の剣の腕を持つ女武芸者(=別式)の佐々木類。そして彼女とは幼馴染みで古河藩の別式女筆頭・魁、島原藩別式の早和、渡世人の切鵺――彼女たち四人は、団子四別式などと名乗って日々を楽しく過ごす友人同士であります。
しかし島原で勃発した切支丹一揆において早和の父は戦死。早和もお役御免となり、残った家族を助けるために帰国することになるのでした。
明るく脳天気で、だからこそそれぞれ個性の異なる類たちを束ねる団子の串だった早和が姿を消したことで、彼女たちの関係も微妙なものに変わっていくことになります。
そんな中、江戸で日本橋の母と評判の女占い師の噂を聞きつけて出かけた魁の前に現れたのは、豊満な肢体と母のような包容力を持った娘・刀萌。
モモンガの斬九郎をお供に、宙に投げ上げた紙を二刀で瞬く内に切り刻むという変わった占いの技で、ぴたりと魁の悩みを当てただけでなく、それに対する答えまで語ってみせる刀萌に、魁は強い安らぎを覚えるのでした。
そしてそれがきっかけとなったように、様々な形で関わり合うことになる四人の別式。しかしそんな中、類の弟子の少年・慎太郎の父が逆手斬りを操る何者かに斬殺されるという事件が発生し、古河藩士で魁や類とは何かと絡む遊び人・九十九は、刀萌に疑いをかけるのですが……
早和が去って後、現れた別式・刀萌を中心に進んでいくこの第2巻。どちらかというと(体型的にも性格的にも)「女性らしさ」というものとは縁遠い類たちでしたが、刀萌はその二つを兼ね備えた、彼女たちとはちょっとタイプが異なる人物であります。
その癒し系のキャラクターは、早和なき後の類たちを結びつけ、人間関係が希薄な(というか無神経な)類をも惹きつけるのですが――しかしその刀萌には裏の顔があります。それも安らぎとは正反対の顔が。
果たして彼女は慎太郎の父親殺しに関わっているのか――ーという謎はすぐに解けるのですが、しかし物語はむしろそこからが本番。
どうやら九十九とは顔なじみらしい(それどころか――)彼女は果たしてどこで二刀を学び、そして何故もう一つの顔を持つのか? それはここではまだわかりませんが、背負ったものの大きさ、重さでは別式随一のものを感じさせます。
いや、重いものを背負ったといえばもう一人――類たちには想い人だと語る(そしてそれが早和に大きな犠牲を払わせることとなったのですが)狐目の男・源内を追う切鵺がいます。
断片的に描かれる彼女の記憶によれば、両親の仇であり、彼女の心に深いトラウマを残した源内。物語の陰に見え隠れするこの男も、この巻で本格的に姿を現し、その異常性を露わにしていくことになります。
そんな刀萌と切鵺が(そして九十九が)この世の陰の側を向いているのに比べれば、婿探し(という名の人斬り)に明け暮れる類と、九十九に一途に思いを寄せる魁は、悩み知らずにも思えますが――しかし彼女たちも、この先そんな陰と無縁ではないのでしょう。
何よりも、不吉な予言とも言うべきあの第1巻冒頭の未来図では、類と切鵺は、敵同士として対峙しているのですから……
もちろんそれはまだ先のこと。第1巻ほどではないですが、この巻でも蹴鞠ーグなる代物が登場したりして、何でもありの賑やかな楽しさは健在であります。
そしてそれと同時に、別式たちの剣術描写も、ディフォルメされた可愛らしい等身のキャラらしからぬ巧みなもので――これは第1巻の冒頭で描かれた類と早和の立ち合いからも感じられましたが――時代劇としてもきっちり決めてくるのが心憎い。
そんな様々な顔を、様々な魅力を持つ本作において、類たち別式がどこに向かい、どこにたどり着くのか――最新巻の第3巻も近々にご紹介いたします。
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