響ワタル『琉球のユウナ』第2巻 二人にとってのもっともやりにくい「敵」!?
15世紀末の琉球を舞台に、人ならざるものと交流する力を持つ朱色の髪の少女・ユウナと、後に琉球王朝の黄金時代を築く尚真王・真加戸の交流を描くユニークな漫画の第2巻であります。王として日々奔走する真加戸の力になるべく奮闘するユウナですが、二人の前に思わぬ「敵」が現れて……
その容貌と力から、幼い頃より周囲に疎まれ、二匹のシーサーの他は友達もなく孤独に暮らしてきたユウナ。そんなある日、お忍びで城を抜け出してきた真加戸と出会ったことから、彼女の運命は大きく変わることになります。
王位継承時の因縁から、何者かの呪いを受けていた真加戸をその力で救ったユウナは、真加戸に気に入られ、半ば強引に都で暮らすことに。大切な「友達」である真加戸のためにユウナも奮闘するうち、二人の距離は徐々に縮まって……
と、実に甘々な(しかしユウナがコミュ障のためになかなか進展しない)二人の姿を描く本作。
尚真王・真加戸は実在の人物であり、薩摩の侵略を受ける以前の古琉球において、50年にも渡り王位にあって黄金時代を築いたと言われる人物ですが、本作はその彼が王位についたばかりの時代、まだ十代の少年王の姿を自由に脚色して描くことになります。
文字通り少女漫画の「王(子)様」である真加戸ですが、まだ年端もいかぬうちに、当初王になるはずであった叔父を心ならずも押しのける形で王となったこともあり、その心の中には巨大な孤独を抱える人物。
高い身分にありながらも孤独な人物を、特殊な力を持ち天真爛漫な女性が支えるというのは古今東西の物語で見られる構図ですが、それをこの時代の琉球を舞台に設定してみせることで独自性を生み出してみせる物語には、相変わらず感心させられます。
琉球王家と言えば、王を神力で支える聞得大君という女性の存在が思い浮かびますが、それはまさに尚真王の時代に誕生した制度――ということで、その初代となる(であろう)人物も登場。
しかし、もしかしてユウナのライバル!? と思いきや、これがちょっと切なくも微笑ましい人物造形で、これも本作らしいアレンジとなっているのが楽しいところです。
しかし楽しいばかりではいられないのが王という身分であります。
先に触れたように、本来であれば王位につけなかったかもしれない(少なくとも違う形でついたと思われる)だけに、真加戸はより相応しい王たらんと、懸命に振る舞ってきたことが語られます。
しかしこの物語の時代の琉球は、強大な力を持った貴族が各地に存在し、王といえども彼らの力を借りねば統治できない状況。そもそも、彼の父である初代王は、同じ尚姓を持つ先代王家から簒奪する形で王となった(第二尚氏王朝)のですから……
そんな不安定な状況においては、いかに王といってもそうそう好きには振る舞えません。ましてや人間だけでなく、人ならざる妖怪や神霊が存在するこの世界においてはなおさらでしょう。
こうした状況だからこそ、ユウナの活躍の余地もあるのですが――しかしこの巻においては、二人の前に思わぬ「敵」が立ちふさがることになります。
ある時は奸臣と結び、またある時は妖怪を操り――ことあるごとに真加戸の治世に横やりを入れ、王の器にあらずと民衆を扇動する謎の男・ティダ(「太陽」の意)と、彼に協力する術者・白澤。
この巻を通じての「敵」であり、ラストで明かされるこのティダの正体は――なるほどこうきたか、と思わされるようなある種の説得力を持つ存在であります。
そんな真加戸の存在を揺るがしかねない相手であると同時に、「敵」であっても「悪人」とは思えない彼らの姿、彼らなりの事情をユウナが知ってしまうという――という展開が実にうまいところで、とにかく、二人にとっては最もやりにくい存在と言うべきでしょう。
真加戸の権威も、ユウナの神力も純粋さも通用しない――そんな相手にいかに立ち向かうのか? 最大の武器は二人の絆、のはずですが、まだまだ波乱は続きそうであります。
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