野田サトル『ゴールデンカムイ』第15巻 樺太編突入! ……でも変わらぬノリと味わい
狂瀾の網走監獄決戦から一転、全く予想もしない展開を迎えた『ゴールデンカムイ』、連れ去られたアシリパを追う杉元と谷垣は、鶴見一派と手を組み、月島軍曹と鯉登音之進とともに呉越同舟で樺太に向かうことになります。しかしそこでも変t――刺青囚人の影が!?
アイヌの黄金の行方を知るアシリパの父・ウィルクを巡り、杉元・土方・鶴見・犬童の四派が激突することとなった網走監獄。血で血を洗う死闘の末、ようやく巡り会ったウィルクは杉元の前で尾形に射殺され、杉元も脳に銃弾を受けることになります。
尾形とともに暗躍していたキロランケは、アシリパと白石を連れて樺太へ逃亡。不死身の本領発揮で復活した杉元は、これまで敵だった鶴見と手を組んで、すぐにアシリパたちを追うべく旅立ちます。
かくて杉元、谷垣、月島、鯉登、さらにチカパシと犬のリュウの面々は、樺太に足を踏み入れ、アシリパの手がかりを知る樺太アイヌの少女と出会うのですが……
というわけで、この巻から樺太を舞台とした物語に突入した本作。これまで一貫して杉元の相棒だったアシリパが消え、その代わりになんかスゴい(変な)面子が――という展開にはさすがに面食らいましたが、しかし物語のノリは相変わらず。そして何とここでも、刺青囚人との出会いが待ち受けていたのであります。
ここで登場する囚人の名は、岩息舞治――日本人離れした体格と、過剰にキラキラと澄んだ瞳を持つ彼は、拳での会話を異常に好むいわばバトルマニア。網走監獄ではあの牛山と互角以上の戦いを繰り広げたというのですから本物であります。
色々あって半裸の肉肉しいロシア人たちが夜毎繰り広げる4対4の肉弾戦・スチェンカに参加する羽目になった杉元たちは、この強敵と激突することになるのですが――激闘の果に杉元がロマンのように(言いすぎ)大暴走、さらにウルヴァリンまで乱入してきて(本当)、岩息と谷垣たちが逃げ込んだ先は……
だからなぜ、突然ここでロシア式蒸し風呂バーニャが登場して、全裸の男たちがカメラ目線で入ることになるのか――舞台は変われどこの辺りの暴走、いや通常運転ぶりは全く変わらずであります。
しかし、その先で繰り広げられる杉元と岩息の再戦の中で、杉元の秘めた怒りの対象とその理由が描かれることになります。それこそは無茶苦茶をやりながらも、同時に登場人物の心情をきっちりと掘り下げてきた本作らしい内容で――全くもって油断できない作品であると何度目かの再確認をさせられた次第です。
そしてそんな本作のシリアス面が一気に噴出したのが、この巻のラスト2話で展開された月島軍曹の過去編であります。
トップ以下変態だらけの鶴見一派の中でも数少ない常識人であり、要所要所で渋い仕事ぶりを見せてきながらも、それ故に一歩引いた印象のあった月島。作中で下の名前が一度も登場しない(スチェンカのポスター調のタイトル絵で、他のキャラがフルネームが書かれていても上の名前だけの)辺り、その地味さの表れだなあ、と思っていたら……
月島の背負った過去と鶴見とのある種の絆をを描くこのエピソードにおいて、その下の名前が使われないことにまできっちりとドラマに回収してくるとは! いやはや、脱帽であります。
このエピソード、短い中で二転三転する物語展開もさることながら、まだまともだった頃の鶴見の姿と、しかしそれでも彼の本質が恐るべき謀略家である点を浮き彫りにしてみせ、さらに杉元とのニアミスまで描いてしまうのですから唸るほかありません。
この巻の表紙が月島であるのを見たときは密かに驚きましたが、いや確かに彼が表紙になるのも納得であります。
と、杉元サイドを中心に描きながらも、その随所で杉元とアシリパの絆を描いてくれるのも嬉しいこの第15巻。トドの脂身なみに脂っこい味付けの部分も少なくありませんが、この盛りだくさんぶりは、やはりクセになる美味しさであることは間違いありません。
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