平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第4章の1『狐火鬼火』、第4章の2『片角の青鬼』
電子書店で1話ずつ発表されている美少女修法師・百夜の活躍譚『百夜・百鬼夜行帖』――以前『修法師百夜まじない帖』のタイトルで小学館文庫から3巻が刊行されたこのシリーズを、これから数話ずつ紹介していきたいと思います。今回は、文庫版の続きとなる第19話、第20話を紹介いたします。
盲目ながら強い力を持つイタコの美少女・百夜。同じ作者の『ゴミソの鐵次調伏覚書』シリーズの主人公・鐵次の妹弟子である彼女は、鐵次同様に北の地から江戸に出て、修法師稼業を始めることになります。
この百夜が、江戸に出てすぐの事件で出会った薬種問屋・倉田屋の手代でお調子者の青年・左吉を助手に、次々と起きる付喪神絡みの事件に挑む――というのが本シリーズの基本設定であります。
以下、各話の紹介と参りましょう。
『狐火鬼火』
四谷近辺で頻発する奇妙な小火騒ぎ。どうやらこれが現実の火ではなく、鬼火らしいと知った顔見知りの町奉行所同心の依頼を受け、百夜は調べに向かうことになります。
鬼火が出たという三軒を調べるうちに、ある共通点に気づいた百夜。そこから怪異の原因を察知した彼女は、怪異を鎮めるために品川のとある村に向かうことになりますが――はたしてその村でも怪異は起こっていたのであります。
しかし一足先に、村に雇われていた女修験者・桔梗。果たしてイタコと女修験者、二人は如何にして怪異を鎮めるのか……
『百夜・百鬼夜行帖』の第四章の開幕編である本作(第三章までの各章は、それぞれこれまで刊行された文庫版が該当)は、新レギュラーである女修験者の桔梗の初登場エピソードであります。
侍言葉で喋る(江戸弁で喋るために侍の霊を憑かせている)盲目の美少女という濃いキャラである百夜。その彼女に並び立つことになる桔梗ですが――これが色黒で、すぐにでも人を殺しそうなほど強い眼光の尼削ぎ(おかっぱ)の若い女性という、これまた濃いキャラクターであります。
もっとも内容的には桔梗は顔見せの要素も大きく、メインとなるのは四谷に出没した鬼火の正体。怪異を鎮める前に、それを何者が引き起こしているかを探るミステリ風味の展開が本シリーズの特色ですが、今回の謎解きはこの時代ならではの風物を使ったものであるのが実に面白いところです。
さらにクライマックスには思わぬ活劇も用意されており、なかなかに豪華な一編であります。
『片角の青鬼』
前話の一件で百夜に心服した桔梗が挨拶代わりに持ち込んできた一件――それは、深川の料理屋に、巨大な青鬼が出現したという事件でした。
店の先代の七回忌の法要が行われた後の宴席に、突如響き渡った轟音――いや咆哮。そこには身の丈九尺、一本角に恐ろしい形相の青鬼が突如出現していたというのです。
座敷の中を涙を流しながら暴れまわり、やがて姿を消した青鬼。翌晩、料理屋の主人の依頼で調伏に向かった桔梗の前にも青鬼は出現し、彼女の山刀の一撃で姿を消したのですが――その正体を追った桔梗は、店の蔵で角の折れた青鬼が描かれた桃太郎の絵を見つけて……
というわけで新レギュラーの桔梗が本格的に活躍する本作。あるいは百夜のライバルキャラになるのかな――と思った桔梗が百夜に弟子入り志願というのはちょっと勿体ない気もしますが(ほとんど名ばかりの弟子とはいえ既に左吉がいることもあり)、しかし本作では彼女の存在が良いアクセントとなっているといえます。
前話の紹介でも触れたように、怪異の正体を巡る謎解きが特色となっている本シリーズ。
これまでは百夜が名探偵役として快刀乱麻を断つ如く謎を解いてきたわけですが、そこに彼女に負けぬ力を持ちつつも、謎解きという点では一歩譲る桔梗を設定することで、一種のミスリーディングを無理なく行える――というのが面白いのであります。
はたして桔梗の謎解きではどうしても解き明かせぬ謎が残り、現場に足を運んだ百夜が真実を解き明かす――というひねりが面白い本作。
恐ろしげな怪異が、ちょっとイイ話に落着するのも、ある意味定番ではありますがホッとさせてくれます。
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『百夜・百鬼夜行帖 20 片角の青鬼』(平谷美樹 小学館) Amazon
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