平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第4章の3『わたつみの』、第4章の4『内侍所』
北から来た美少女修法師・百夜が付喪神に挑む連作伝奇シリーズ『百夜・百鬼夜行帖』の紹介、今回は左吉が思わぬ危機に陥る第4章の3(第21話)『わたつみの』、ある意味シリーズ最強の相手が登場する第4章の4(第22話)『内侍所』を紹介いたします。
『わたつみの』
使いで沼津に出かけた左吉が帰ってこないと心配して、百夜のもとを訪れた左吉の主・倉田屋徳兵衛。途中の女郎屋にでも引っかかっているのだろうとにべもない百夜ですが、徳兵衛は、実は左吉は自分の隠し子だと衝撃の告白をいたします。
流石に放ってもおけず、呪法で居場所を占う百夜ですが、しかし術が何者かに妨害されたことから、桔梗、徳兵衛とともに西へ旅立つことになるのでした。
一方、神奈川宿近くで「蓬莱屋」なる遊郭を見つけ、思わず足を踏み入れていた左吉。見世の花魁・乙ノ前太夫に見初められた左吉ですが、彼の周囲では次々と奇怪な現象が起きることになります。
それでも床入りにこぎ着けた左吉ですが、彼の前で太夫が見せた姿とは……
百夜の後ろ盾である倉田屋と百夜の繋ぎとして、弟子とも助手ともつかぬ位置づけの左吉。何とも頼りないお調子者ですが、今回なんともリアクションに困る出生の秘密が語られることになります。
そんな彼が巻き込まれるのは、いかにも彼らしい事態なのですが――しかし今回登場するのは、かなり不気味かつ洒落にならない相手。何となくピンチ担当となった感もある桔梗が大苦戦するその敵の正体は――ここからどうやって付喪神に繋げるのだろう、と思いきや、なるほどと感心させられます。
にしても左吉が遊郭で体験する怪現象描写は、その理不尽さと、それと裏腹の妙なリアリティなど、実話怪談作家としても活躍した作者らしいものを感じます。
『内侍所』
同じ長屋の住人がもらってきた琵琶の引き取りを徳兵衛に依頼した百夜。しかし琵琶の買い手となった大店・高砂屋では、光る亡魂を目撃した者が鼻血を出し、目を病むという怪事が続発していたのであります。
調査に向かった百夜と桔梗は、目を病んだ使用人たちから、神罰・仏罰のような気配を感じるのですが――しかし逆に高砂屋からは、土地神も稲荷も気配がない、すなわち逃げだしていたことに気づくのでした。
この奇怪な現象の陰に潜むものはなにか――犠牲者がいずれも蔵の近くで亡魂を目にしていることに気付いた桔梗は、蔵の中に高砂屋が京で手に入れたある品物が入っていることを知ったのですが、その正体は何と……
これまでも毎回のように申し上げているように、単純に怪事を引き起こすモノを調伏するのではなく、そのモノの正体をまず突き止める――すなわちフーダニットの要素があるミステリ風味が楽しい本シリーズ。
今回はその中でも、近づいた者に奇怪な障りを引き起こし、他の神仏が逃げ出すほどの存在という、何とも気になるモノの正体探しとなるのですが――いやはや、解き明かされたその正体には驚くしかありません。
ここで詳細に触れることはできませんが、冒頭の琵琶で百夜が平家物語を語るという場面が伏線となっているという――そして実は最初からそのものズバリを語っているのですが――ある意味フェアな謎解きに感心しつつ、この相手にはさすがに百夜でも敵うはずがないと納得であります。
しかしその先のある意味身も蓋もない結末には二度驚くのですが――人間、自分の力でどうにも出来ないものに手を出した時の処分というものは、いつの時代も変わらないと言うべきでしょうか。
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