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2018.10.15

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第4章の5『白狐』、第4章の6『猿田毘古』


 北からやって来た盲目の美少女イタコが付喪神に挑む時代伝奇ミステリ『百夜・百鬼夜行帖』シリーズの第4章も今回紹介する2話で完結。この章は、付喪神だけでなく神とも対峙することが多かった百夜ですが、今回もまた……

『白狐』
 日暮里の外れの村で祖父母と暮らす少女・おけい。彼女が数ヶ月前から狐憑きとなり、大の男が数人がかりでようやく押さえつけられるほどの力で暴れて弱っている――という依頼を受けた百夜。
 左吉、桔梗といつものトリオで出かけた百夜ですが、彼女には何かの目算がある様子。はたして、彼女が対面したおけいの周囲には、何体もの狐の霊と、一人の男の亡霊が居たのであります。

 果たして男の霊の正体は、そしておけいの狐憑きの真相とは――事件の背後の思わぬ絡繰りを百夜が解き明かすことになります。


 古今の怪異譚ではお馴染みの――というよりお馴染み過ぎて逆に最近ではお目にかかるのが難しい――狐憑き。その狐憑きの少女が、大の男三人を薙ぎ倒す姿から始まる本作ですが、もちろんただの狐憑きが登場するはずがありません。

 冒頭で描かれるおけいの暴れっぷりを男たちから聞き、その中のある行動からこの狐憑きが尋常でないことを見破る百夜ですが――この辺りの謎解きが実に楽しい。
 この尋常でない狐憑きの正体についても、百夜だからこそ見破ることができるものなのも面白く、お話的には比較的シンプルながら、一ひねりの効いた内容の作品です。

 ちなみに本当に珍しく、左吉の推理が的中したエピソードでもあったり……


『猿田毘古』
 かつて『義士の太鼓』事件(文庫第2巻『慚愧の赤鬼』所収)で百夜と対決した不良武士集団・紅柄党の頭目・宮口大学。宮口家の所領である多摩群大平村の別宅を訪れた彼は、その晩、この世のものならぬ怪異と遭遇することになります。
 金属が鳴るような音と共に奥座敷に現れたモノ――それは奇妙な面を被り高下駄を履いた、伝承に言う猿田毘古神そのままの姿をしていたのであります。

 大学の一刀によって面を割わられ、姿を消した猿田毘古ですが、その下から溢れ出したのは強烈な光と熱。翌日、村の神社の宝物庫に収められていた猿田毘古の面が両断されていたことを知った大学は、百夜のもとを訪れることになります。
 不在の彼女に代わり大平村に向かった桔梗は、再び現れた猿田毘古と対決し、これが神だと断じるのですが……


 斜に構えた不良侍ながら、一本筋の通った言動と、百夜と互角以上の剣の腕を持つ大学。先の対決では彼女の仕込みの刃をへし折り、その刃を前差に仕立て直して腰に差しているという、癪に障るほどのカッコイイキャラクターであります。
 しかしそんな彼でも今回の怪異には手を焼いて――という展開となりますが、なるほど今回の怪異も大物。何しろ猿田毘古といえば、紀記の天孫降臨のくだりに登場した由緒ある神なのですから。

 これまで何故か付喪神絡みの事件ばかりに遭遇する百夜ですが、冒頭に述べたように、この第4章においては、何故か神絡みの事件に遭遇することになります。
 それはこの章から桔梗のせいではないか――などと口の悪い左吉は言うわけですがそれはさておくとして、しかしこの怪異、そうそう単純な正体ではないというのがまた本作らしいところであります。

 高い鼻に赤く光り輝く目をもつという何とも謎めいた存在である猿田毘古。
 ここで百夜が語るその解釈は、何やら作者の最近の作品に繋がるものもあって興味深いのですが、百夜の存在こそが……という、大げさにいえば後期クイーン的問題を思わせるひねりも印象に残ります。。

 さほど活躍しないまま桔梗が一端退場というのは残念ですが、この章の掉尾を飾るにはまず相応しい内容だったと言うべきでしょうか。


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