平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第5章の1『三姉妹』 第5章の2『肉づきの面』 第5章の3『六道の辻』
侍言葉の盲目の美少女イタコ・百夜が、付喪神が引き起こす奇怪な事件に挑む『百夜・百鬼夜行帖』シリーズの第5章の紹介、今回はその前半である第5章の1(第25話)から3(第27話)をご紹介いたします。
『三姉妹』
呉服屋のドラ息子・仙太郎のもとに毎夜現れる三人の芸者姿の妖。ちーんという金属の音とともにどこからともなく現れる彼女たちは、歯も舌もない真っ赤な口を開けて仙太郎に襲いかかり、どこかへ連れて行こうというのであります。
依頼を受けた百夜は、仙太郎が怪異が始まる直前に、十二社の池の畔で騒ぎを起こしたことに注目するのですが……
第5章の開幕編は、何といっても登場する怪異の不気味さが印象に残る一編。見た目は人間ながら、一部分だけ明らかに人外というのは――しかもそれが三人、家に押しかけてくるというのはインパクト絶大であります。
(正体を明かされてみれば、ははぁ……という感じなのですが)
そして本作で注目は、昌平橋のたもとで百夜の前に現れた謎の色男。彼女に何故か懐かしいものと、胸のときめきを感じさせるこの男は、彼女に水難の相があると警告するのですが――侘助の裏地の着物を来たこの男の正体は何者なのか、それがこの第5章を通じての謎となります。
『肉づきの面』
江戸を騒がす相模の権兵衛一味。押し入った店の者を皆殺しにするというこの凶賊が、日本橋の紙問屋に入ったものの、蔵にあった「痩せ男」の面を一つ奪っただけで退散したというのですが――その面が、いわゆる肉づきの面のように、権兵衛の顔に張り付いてしまったというのであります。
そして百夜のもとを訪れる油問屋の手代を名乗る男たち。主の顔から面が離れなくなってしまい、祓うために百夜を招きたいというこの依頼は、どう考えても権兵衛一味からのものとしか思えないのですが……
肉づきの面といえば、越前吉崎観音の嫁威し説話が思い浮かびますが、本作はそれを題材にしたもの――と思いきや、全く意外な角度から肉づきの面を描くのが面白い0。
凶賊が盗みに入った先でかぶった面が顔に張り付いて――というだけでもユニークですが、この面を作ったのが元盗賊の面作りという因縁が、本作を幾重にも入り組んだものとしています。
本シリーズは有名な逸話やそこに登場する存在を題材にした怪異を描きつつも、それをそのままでなく、ワンクッション置くことで独自性を見せるエピソードが少なくありません(例えばこれまで紹介した中では『内侍所』『猿田毘古』がそれに当たります)。
その構図がまた伝奇的――というのはさておき、本作もまたそんな面白さを持つ作品であります。
そして前回同様登場する侘助の男は、百夜に剣難の相があると警告。しかし本シリーズでは比較的珍しいセクハラ発言を受けて、「男が近づかぬと言った奴、こっちへ来い!」「お前だけは斬り殺してくれる!」と激高する百夜を見ると、それは相手の方では――と思ってしまったり。
『六道の辻』
侘助の男の「闇夜の辻は気をつけなよ」という警告から始まる本作の舞台となるのは横山同朋町の小さな辻。その辻に毎月一度、化け物が現れて人を追いかけるというのですが――その姿が凄まじい。
首は細長く、一つ目に牛のような胴体、短い翼を羽ばたかせ、細長い尻尾に四本の足があるというその姿は、もうほとんどクリーチャーといった代物。これが夜道で人間を追いかけるというのですから、その辻が「六道の辻」と呼ばれてしまうのもむべなるかな、であります。
もちろん本作では、百夜が依頼を受けてこの怪物と対決することになるのですが――その先で明らかとなったその正体はなるほど、と思うもののいささか拍子抜けではあります。
これはこれで、いわゆる「化物寺」の問答をビジュアル化したようなもので、付喪神との対決を描く本シリーズのコンセプトに則ったものではあるかとは思いますが……
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