平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第6章の1『願いの手』 第6章の2『ちゃんちゃんこを着た猫』 第6章の3『潮の魔縁』
北から来た盲目の美少女修法師・百夜の活躍を描く短編シリーズの第6章前半――第6章の1(第31話)から3(第33話)の紹介であります。今回からは、第6章のゲストキャラクターである傳通院の助次郎親分と博徒・不動の長五郎が登場することになります。
『願いの手』
傳通院の助次郎が開く賭場に顔を出した左吉。しかし丁半博打が始まった時、盆ゴザが突然動き出し、丸く盛り上がると大年増女の腕に変化するという怪異が起こります。
長五郎の刀の一撃で斬り落とされた腕はい草に戻ったものの、何故そんな怪異が起きたのかはわからぬまま、その後も毎晩のように女の手は出現。音を上げた助次郎は長五郎を通じて百夜に解決を依頼してきたのですが……
というわけで助次郎と長五郎の初登場回である本作。やくざの親分でありつつもどこかすっとぼけた男の助次郎と上州無宿のクールな渡世人の長五郎と、いかにも本シリーズらしい個性を持った二人であります(ちなみに助次郎に賭場の場所を貸していた住持の人を食ったキャラクターもいい)。
さて、今回の怪異はそんな二人にふさわしいというべきか、賭場で起きた不可思議な事件。その怪異を、百夜が快刀乱麻を断つ――いや断たないようにして解き明かす真実は、意外かつ、この設定ならではの異形の人情話となっており、強く印象に残ります。
『ちゃんちゃんこを着た猫』
助次郎が妾の芸者・梅太郎のところに泊まった晩に現れた、紅いちゃんちゃんこを着た虎縞の猫。梅太郎は猫を飼っておらず、しかも密室にもかかわらず猫が出没するようになって以来、彼女の周囲には変事が続くことになります。梅太郎から依頼を受けた桔梗は、この一件が付喪神によるものと見抜くのですが……
表紙イラストの、恐ろしくもなんだか可愛らしい猫の姿が実に味わいのある本作。今回も助次郎周りの事件となるのですが、そんな状況でも登場するなり「百夜ちゃん」呼ばわりするところが助次郎のキャラの面白さであります。
それにしてもどうみても化け猫としか思えない今回の怪異の正体は何なのか、そして何故梅太郎のもとに現れ、彼女を害しようとするのか? 百夜の推理が解き明かすその謎は、本作ならではの奇怪な、しかし一種の論理性を以て語られるのですが――しかし猫好きとしては、クライマックスに登場するこの猫の姿が何とも泣かせます。
ちなみに今回久々にゴミソの鐵次がゲスト出演。百夜とは相変わらずのぶっきらぼうなやりとりですが、しかしそれが実にらしくて良い感じです。。
『潮の魔縁』
紅柄党の一人の屋敷で開かれていた助次郎の賭場に顔を出した紅柄党の頭目・宮口大学。そこで宮口から強烈な磯のにおいを嗅いだ清五郎ですが、宮口はそれが霊的なものではないかと考え、百夜のもとに事件を持ち込むのですが――百夜は宮口の実家で何かが起きたのではないかと語ります。
はたして彼の実家では、父の寝所に奇怪なものたち――伸び縮みする棒、巨大な黒い幼虫、凄まじい水飛沫、黒壁と巨大な目が出没していたのですが……
『内侍所』事件以来久々の登場となった宮口大学。強面という点ではやくざ顔負けの不良旗本子弟の頭目ですが、百夜の前では形無しというのはこれまで通りであります。
それはさておき、今回登場する怪異は、奇怪な現象が少なくなる本作においても滅多にないようなもの。謎が解き明かされてみればなるほど、となるのですが、正直に言って百夜は何でも知っているなあ――という印象もあります。
ちなみに本作のラストで、一旦清五郎が江戸を去り、故郷に帰ることになるのですが――そこで清五郎が何を見るのか、それはまた次回、であります。
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