平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第6章の4『四神の嘆き』 第6章の5『四十二人の侠客』 第6章の6『神無月』
盲目の美少女修法師が付喪神が引き起こす奇怪な事件に挑むシリーズの第6章の後半、第6章の4(第34話)から6(第36話)の紹介です。今回も、不動の清五郎と傳通院の助次郎親分が絡んだ物語が展開することになります。
『四神の嘆き』
江戸を離れ、故郷の上州磐座村を訪れた清五郎。そこで白い虎、黒い大亀、空を覆う赤い鳥が出没すると旧友から聞かされた清五郎は、自らも雷雨とともに出現した青龍を目撃することになります。さらに村では様々な怪奇現象が起きていると聞き、江戸に戻った清五郎は百夜に解決を依頼するのでした。
早速磐座村を訪れ、いまは祀る者もない山の神社に向かう百夜。そこで彼女を待ち受けていたのは……
というわけで、各巻に一話はある(ような気がする)百夜が遠方の村で起きた事件を解決するエピソードの今回。しかし彼女が対峙する相手は、タイトルにあるとおり四神――白虎・玄武・朱雀・青龍と、相当の大物であります。
特に冒頭で清五郎が青龍を目撃する場面は、ほとんど怪獣映画のような味わい。百夜はクライマックスでその四神と対決することになるのですが――その果てに明らかになる真実は、実に本作らしいと感心させられるようなものであります。
怪異を鎮めるための手段も微笑ましく、なかなか盛りだくさんのエピソードであります。
『四十二人の侠客』
赤坂の旗本屋敷で新たに開かれた賭場で壺振りをすることとなった清五郎。しかしその帰りに、彼は赤鞘の刀を差した2人の不気味な渡世人につけ狙われることになります。その翌日にはその2人に加え、黒鞘を差した4人が現れ、その後も相手の数は12人、20人、30人と増えていくことになります。
ついに渡世人たちと刃を交えたものの、彼らを斬っても手応えはなく、溶け込むように消えてしまったことから、これがこの世の者でないと気付いた清五郎。百夜のもとを訪れた清五郎ですが、百夜は次には相手は42人になると予言して……
まず常識では考えられないような怪事件が発生して、その謎を、ある意味ロジカルに百夜が解決していくという基本構成の本シリーズ。その中でも本作で描かれる怪異は、まず桁外れの――というより他のどんな作品でも見たことがないようなものと言えるでしょう。
初めは2人だった謎の渡世人がどんどん数を増やしていき、最後には42人と赤穂浪士並みの数になるというのは、不気味というよりもはや不条理。
一体何が起きているのか、清五郎ならずとも困惑してしまうのですが――それが百夜の手によって解き明かされてみれば、なるほど! と唸るしかない真実がそこには存在しているのが、実に素晴らしいのであります。
怪奇ミステリとしての本シリーズの魅力が、これまでで最もよく現れた名品であると断言してしまってよいでしょう。
『神無月』
傳通院の助次郎宅の奥座敷で子分たちが遭遇した怪異の数々。寂しいとすすり泣く声や、ピシャッ、ピシャッと断続的に続く濡れた足音に、子分たちはおろか助次郎まで震え上がる中、助次郎に泣きつかれた百夜が意外な真相を指し示すことになります。
第6章のラストエピソードは、前2話と比べるとちょっと小品の印象もある作品。しかしその意外性はさすがというべきもので、タイトルが一つのヒントとなっているとはいえ、自力ではこの結末にはちょっとたどり着けないかと思います。
(ある程度の予備知識が必要とはいえ、それなりにフェアな内容なのはこれまで同様ではあります)
そしてこのエピソードで再び旅に出る清五郎。ちょっと唐突な気がしないでもありませんが、本作のちょっと目出度いムードを以て章が終わるのも、悪くはないかと思います。
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