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2018.12.23

「コミック乱ツインズ」2019年1月号(その二)


 2019年最初の「コミック乱ツインズ」誌の掲載作品の紹介、その二であります。

『宗桂 飛翔の譜』(星野泰視&渡辺明)
 宗桂の従姉妹であり、自身も名うての棋士であるお香が縁日で出会ったおかしな男。天才浄瑠璃作家・鬼外を名乗るこの男に口説かれ、南蛮渡来の櫛を渡されたお香ですが、その話を聞いた宗桂は、突然鬼外に会いたいと言い出します。
 鬼外にあることを尋ねる宗桂と、それに対してお香を賭けた将棋を挑む鬼外。しかし意外なことに、素人に見えた鬼外の早指しは宗桂を圧倒して……

 これまで単発エピソードが続いていたものが、今回一気に物語が動き出した印象の本作。自称天才で面長で新しいもの好きの浄瑠璃作家でもある鬼外さんとくれば、これはもうあの人しかいないわけですが、なるほど考えてみれば宗桂たちとは同時代人であります。その彼が宗桂を追い詰めるのも(そしてそのカラクリも)実にらしく楽しいところであります。
 しかし今回のクライマックスは、将棋指しがルールなどに変化のない将棋のない世界にしがみついていると嘲笑う鬼外に対して、宗桂が己が将棋に拘り続ける理由を語る場面でしょう。普段は飄々とした、穏やかな宗桂が将棋において見せる異様な迫力――その理由の一端が語られるこの場面は、物語において大きな意味を持つといえるでしょう。

 そしてラストにはちょっと伝奇的な趣向も待ち受けていて、どうやら物語はこの謎を追って広がっていく様子。物語はここまでがプロローグといったところでしょうか、これからの展開が楽しみであります。


『カムヤライド』(久正人)
 出雲に出現した強敵を倒し、イズモタケルを救ったモンコとヤマトタケル。ようやくこれで一息か、と思いきや、その前には皆殺しにされた大和の軍勢と、手を下したと思しき謎の旅人が……
 というわけで第1話以来、久々に顔を合わせた3人。この謎の旅人ことウズメこそは、各地で国津神を覚醒させている「敵」――異形の腕を武器とするウズメにヤマトタケルは一蹴され、カムヤライドに変身したモンコも追い詰められることになります。そして今回のかなりの部分で、この二人の息詰まる死闘が描かれるのですが――しかしこの戦いは、もはやモンコ一人のものではありません。

 いまやモンコの頼もしい相棒、いやもう一人の主人公となった彼の活躍が今回も小気味よく描かれた末に、一気に形勢逆転か、というところで次回に続きますが――さてどうなることか。
 敵の目的の一端も明かされた中、いよいよ佳境に入った印象であります。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 元鬼輪番・夏海と彼の同鬼の友・流一道の戦いを描く物語の後編――鬼となるために人を捨てざるを得なかった男の悲しい宿命が描かれます。

 旅の途中に訪れた林田藩で、かつての親友であり、今は鬼輪番の草として潜入している一道と遭遇してしまった夏海。一騎打ちの末に敗れた夏海を見逃して去る一道ですが、しかしそのために鬼輪番の制裁を受け、何も知らない妻と子、義父を殺されてしまうのでした。
 一方、林田藩を脱出するために、夏海の用心棒を買って出た終活と坐望。裏道を行く一行ですが、決意を固めた一道率いる鬼輪番の群れに追いつめられることに……

 抜け忍キャラには定番中の定番である、追っ手となったかつての親友との対決。しかし今回は、互いがあまりに壮絶かつ悲惨な過去を背負っており(いやもう過去のエピソードには絶句)、そしてその中で培われた友情が全く薄れていないのが、悲壮感をより際だたせます。
 しかしそんな辛い戦いの中でも決して夏海を見捨てないのが今の友。本作の見所であるクライマックスの大殺陣で描かれる、暗闇を舞台にした三人対多数の戦いは見応え十分ですが……

 一度鬼となった人はどうすれば人に戻ることができるのか。これしか道はなかったのか。予想通りの結末ではありますが、やはり胸に刺さるものがあります。


 その他、『仕掛人藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)は、仕掛けの瞬間を目撃されてしまった梅安を巡るエピソードの前編。自分の裏の顔を目撃されたとて、全く無関係の女性を殺すことを躊躇う梅安に対し、梅安さんのためなら――と相手を付け狙う彦さんには、こう、なんだかヤンデレめいた香りが……

「コミック乱ツインズ」2019年1月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2019年1月号[雑誌]


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